永久カレンダーはミニッツリピーター・トゥールビヨンと並び、世界三大複雑機構のひとつとされている。スイスの名門パテック フィリップは、この難解な機構にチャレンジし続けてきたブランドだ。そこで今回は、永久カレンダーとパテック フィリップの歴史を見ていこう。
実際のカレンダーを正確に表示する「永久カレンダー」
永久カレンダーとは閏年の調整を自動で行うカレンダー機能のことである。大小の月、閏年が存在するシステムそのものが不規則なカレンダーを、時計の中でどのように動かしているのだろうか。
閏年を判別する仕組み
調整不要のカレンダーを機械式時計のメカニズム内に組み込もうとして考え出されたのが、永久カレンダー(パーペチュアルカレンダー)だ。
一般的な永久カレンダーには48カ月ディスクが使われている。ディスクには4年分の各月の大小を判別する溝があり、4年目の最後の溝を閏年の2月にすることで、閏年の2月を起点とした周期でカレンダーを動かせるのである。
なお、48カ月ディスクを使う仕組みでも、永久に調整が不要となるわけではない。わずかなズレが生じ続けるため、2100年から100年おきにズレを調整する必要がある。100年間毎日欠かさず動かし続けて、という気の遠くなる話ではあるが。
発明者とされるのはアブラアン-ルイ・ブレゲ
永久カレンダーの発明者は、天才時計師と称されるアブラアン-ルイ・ブレゲだとされている。ブレゲの研究者、ジョージ・ダニエルズの著書によると、1795年にブレゲが永久カレンダーを考案したとある。
ブレゲは時計史に残る数多くの偉大な発明をした人物として知られている。トゥールビヨン・ブレゲヒゲゼンマイ・ギヨシェ文字盤は、全てブレゲが発明したものだ。
1783年から1827年にかけて製造された代表作「マリー・アントワネット」には、数々の複雑機構と共に永久カレンダー機構も搭載されている。
パテック フィリップは永久カレンダーの名手
世界最高峰時計ブランドの一角を担うパテック フィリップは、永久カレンダーの名手と称されるブランドだ。ここからはパテック フィリップと永久カレンダーの歴史を紹介する。
「世紀閏年修正」機能を備えたキャリバー89
創業150周年となる1989年に発表されたグランド・コンプリケーション懐中時計。33種の複雑機構を有し、使用するパーツは1728個に及ぶ。研究開発に5年、製作に4年を要した。18KYGケース(直径89mm)。
パテック フィリップが1989年に創業150周年を記念して発表した「キャリバー89」には、33の複雑機能とともに、「世紀閏年修正」と呼ばれる機能が備わっている。
一般的な永久カレンダーは、2100年・2200年・2300年にそれぞれ調整が必要である。一方、世紀閏年修正機能では400年周期でプログラムが組まれているため、平年と認識する2100年・2200年・2300年、つまり1世紀ごとの調整が不要だ。
キャリバー89では12時位置に4桁の西暦が表示されており、28世紀まで調整が不要である。
腕時計に初めて永久カレンダー機構を搭載
腕時計として初の永久カレンダー搭載モデル。1899年に製作されたムーブメントがベースとなり、1925年に完成した。18KYGケース(直径34.4mm、厚さ12.7mm)。
パテック フィリップが1925年に発売した「No.97 975」は、永久カレンダーを搭載した初の腕時計で、女性用ペンダント・ウォッチとして考案されたムーブメントがベースとなっている。
つまり、パテック フィリップは腕時計に初めて永久カレンダーを搭載したブランドということになるのだ。
「No.97 975」の日付表示は、センター針によるポインターデイト式となっている。深夜0時に切り替わる「瞬時日送り式」であることも特徴的である。
パテック フィリップのおすすめ永久カレンダー機構搭載モデル
複雑機構にこだわったパテック フィリップの代表コレクションが「グランド・コンプリケーション」だ。このコレクションには、永久カレンダー搭載モデルがいくつもラインナップされている。おすすめモデルの特徴や魅力を確認しておこう。
曜日、日付、月を並べて表示「グランド・コンプリケーション 5236P」
自動巻き(Cal.31-260 PS QL)。55石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最大約48時間。Ptケース(直径41.3mm、厚さ11.07mm)。3気圧防水。2123万円(税込み)
「5236P」は、インライン表示永久カレンダーを搭載したモデルだ。インライン表示カレンダーとは、曜日・日付・月を並べて表示する画期的な機構である。
この複雑な仕組みを支えているのが、自社製自動巻きムーブメント「Cal.31-260 PS QL」だ。従来の永久カレンダー表示の機構に、118個の部品が追加されている。
手作業で全面ポリッシュ仕上げされたケースと、ブラック・グラデーションのブルー文字盤が、洗練された印象を与えている。
Patek Philippe | パテック フィリップ | インライン永久カレンダー5236P-001モデル
外周に向かって濃くなる文字盤「グランド・コンプリケーション 5316/50P」
手巻き(Cal.R TO 27 PS QR)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ最大約48時間。Ptケース(直径40.2mm、厚さ13.23mm)。非防水。価格:要問い合わせ。
2023年の新作「5316/50P」は、外周に向かって濃くなるブラック・グラデーションのスモーキーなサファイアクリスタル文字盤が特徴である。
レトログラード日付表示と曜日、ホワイトゴールドの一体型フレームも、デザイン面での特徴である。ムーブメントが少し透けて見える特殊なサファイアクリスタルが採用されている。
サファイアクリスタル製のケースバックからは、「Cal.R TO 27 PS QR」の機械美を鑑賞することが可能だ。
Patek Philippe | グランド・コンプリケーション Ref. 5316/50P-001 プラチナ
クロノグラフを搭載した「グランド・コンプリケーション 5270P」
手巻き(Cal.CH 29-535 PS Q)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ最大約65時間。Ptケース(直径41mm、厚さ12.4mm)。3気圧防水。3300万円(税込み)。
「5270P」に搭載されている「Cal.CH 29-535 PS Q」は、永久カレンダーとクロノグラフ、2つの複雑機構を搭載したメゾン初の自社製ムーブメントだ。
1941年に発表された「1518」モデルに始まる、メゾンを象徴するダブル・コンプリケーションの数世代にわたる伝統を受け継ぐものである。クロノグラフはセンター秒針と3時、9時位置のインダイアルで表示されている。
鮮やかなグリーンの文字盤には、永久カレンダーやムーンフェイズなどがバランスよくレイアウトされ、全体的に優れた視認性を実現している。
Patek Philippe | グランド・コンプリケーション Ref. 5270P-014 プラチナ
永久カレンダーが搭載された時計で壮大なロマンを感じよう
閏年の調整が不要な永久カレンダーは、機械式時計において製作が最も困難とされる機構のひとつである。パテック フィリップは腕時計に初めて永久カレンダーを搭載し、さらには世紀閏年修正と呼ばれる、超絶メカニズムさえも開発してみせた。
スイスの名門ブランドが放つ、永久カレンダーが搭載されたモデルを手に取り、悠久の時の歩みに身を委ねるという、壮大なロマンにひたってみたい。半永久的に時を進めることへの壮大なロマンを感じてみよう。
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