スイス時計受難の時代に端を発し、長い熟成期間を経てジラール・ペルゴの定番コレクションと化した名作「ロレアート」。近年はラグジュアリースポーツウォッチ需要の過熱がその人気を底上げし、幅広いバリエーションが拡充された。中でも「ロレアート 42mm ピンクゴールド&オニキス」は、1975年ファーストモデルのまとっていた上品で繊細な色気を受け継ぎながらも、現代の加工技術による高精度な外装を獲得した、真のラグジュアリーウォッチに仕上がっている。
Photographs by Masahiro Okamura
渡邉直人:文
Text by Naoto Watanabe
2023年7月18日掲載記事
自動巻き(Cal.GP01800)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。18KPGケース(直径42mm、厚さ10.68mm)。50m防水。713万9000円(税込み)。
高精度かつドレッシーなブレスレット一体型時計としてのロレアート
1975年に発表されたジラール・ペルゴの初代「ロレアート」は、現在でこそラグジュアリースポーツウォッチの始祖のひとつとして捉えられているが、発売当初は「高い精度」と「ドレッシーなデザイン」の訴求に重きが置かれていた。
それもそのはず、スイスでいち早くクォーツムーブメントの自社開発に成功していたジラール・ペルゴが「ロレアート」初代モデルに搭載したCal.700は、当時既にヌーシャテル天文台から証書が授与されるほどの高い精度と信頼性を実現していたのだ。
なおかつ、ムーブメントの直径は21.5mmと極めて小径なため、ケース径は30mmに抑えられ、72年発表のオーデマ・ピゲ「ロイヤル オーク」(ケース径39mm)と比べると、遥かに小型な時計に仕上がっている。
加えて、幅狭で幾何学的造形のゴールドベゼルと、シャープで繊細なバーハンド&バーインデックスが与えられた同作には、トラディショナルな装いにも高い親和性を発揮するドレスウォッチ然とした佇まいがあり、その点において他のブレスレット一体型時計とは一線を画していた。
ロレアートデザインの普遍性と進化の系譜
真円に正八角形を重ね合わせた幾何学的造形のベゼルは、歴代全てのロレアートに一貫して与えられており、同作の重要なデザインアイデンティティとなっているが、ケース&ブレスレットの基本造形は、これまでに2度の大きな改変を経ている。
75年発表の初代モデルは、シルエットこそ現在の形状に近いものの、ブレスレットのコマ連結部に別体のリンクが存在しない、極めてシンプルな造形を持っていた。
しかし84年のマイナーチェンジ後は、ケースの大型化と共にコマ間に小型のリンクが追加され、より宝飾的な印象のデザインとなっている。
さらに95年発表の自動巻きムーブメントCal.GP3100搭載モデル以降は、延長されたラグと1コマ目の連結部にもリンクが追加され、それぞれのリンクとベゼルの幅が広められた結果、現代的でスポーティな印象へと変化した。
2017年に登場した現行モデルも、基本的な外装構造は1995年モデルから引き継がれているが、ケースの大型化と併せてベゼル幅が更に広がり、文字盤も視認性重視のレイアウトに調整されるなど、より実用性を高めた形に改変されている。
繊細でドレッシーなデザインへの回帰
こうして、世代を重ねるごとに屈強でスポーティなデザインに変化してきた「ロレアート」コレクションだが、そんな中にあってひと際上品でエレガントな色気を放っているのが「ロレアート 42mm ピンクゴールド&オニキス」だ。
18Kピンクゴールドケースに映える艷やかなブラックオニキス文字盤は、ただ通常文字盤の素材を天然石とゴールドに差し替えたものではなく、デザイン自体が一新されている。
まず、クル・ド・パリの外周に配置されていたミニッツマーカーリングが廃止されたことで、バトンインデックスがより外周寄りに配置され、盤面を広く活用していた初代モデルと同じレイアウト比率となった。
さらに、SS3針モデルに比べインデックスの幅が約40%縮小、時分針の幅が約30%縮小されたことで、より繊細でドレッシーな印象の顔つきへと変化している。
現代の時計は総じて文字盤内の間を埋め過ぎてしまう傾向があるが、各エレメントの占有率を下げることで文字盤が広く見える効果があり、ブラックオニキスの質感も際立つため、まさしく本作のコンセプトに適した改変と言えるだろう。
エレガントさを際立たせる、高度な文字盤の作り込み
一般的にブラックミラーダイアルと言えば、真鍮にラッカーを厚塗り&ポリッシュしたものが主流だが、本作が文字盤に採用する「オニキス」は、日本では瑪瑙と呼ばれる白縞模様の天然石だ。
4mm厚のオニキスプレートを黒色に染色し、真空で1週間以上乾燥させた後、文字盤の形状に切断し、0.4mm厚に到達するまで切削・研磨されたものが使用されている。
表面が完全な平面になるまで研磨されるため、鏡像が絶妙に歪んで見えるラッカー塗装のミラーダイヤルとは違い、針やインデックス、更には周囲の景色までもが、歪みなくシャープに映り込むのが特徴だ。
盤面の印字に目を向けてみると、インクがただのホワイトではなくわずかにシルバーがかった色になっており、粒状感のある輝きが見て取れる。
本来なら微細印刷に不向きな抑揚を含んだセリフ体であるにもかかわらず、細部まで造形が崩れることなく鮮明に印字されている。なおかつ立体的に厚盛りされているため、黒地が透けて見えてしまう部分も皆無だ。
華やかさと上品さを両立した、ピンクゴールドケースの巧みな仕上げ
ケースから滑らかにつながったブレスレットにまで、18Kピンクゴールドが使用されたロレアート 42mm ピンクゴールド&オニキスは、その仕上げ方も特徴的だ。
ケース天面とブレスレットH型コマの天面は初代モデルに準じた横筋目、ベゼル天面は文字盤と同心円状の円筋目、ケースのエッジやブレスレット中央のリンクは鏡面といった具合に、非常に繊細なヘアラインとポリッシュの複合仕上げが施されている。
各パーツとも面は平面または均一な曲面に整っており、全体を通じて高品質な造形を持っているが、とりわけ驚かされたのがディテールの処理だ。
注目すべき点はふたつあり、ひとつはベゼルである。
ロレアートの象徴とも言うべき、真円に正八角形を重ね合わせた複雑な造形のベゼルには、つなぎ目が一切見当たらない。
切削による一体成型だと考えられるが、その場合は円の天面と八角形の側面が隣接してしまうため、互いの面に影響を与えず研磨を施すのが非常に困難なエリアとなる。
しかし、本作のベゼルはどちらの面もダレさせることなく、歪みのない鏡面が得られるまで磨き込んでいるのだ。これはもはや量産品の作り込みではない。
そしてもうひとつがブレスレットの仕上げだ。
1995年モデルでは縦方向・横方向ともに緩やかな曲率の3次元曲面となっていたブレスレット中央のリンクが、本作では縦方向のみ緩やかな曲率に整えた鏡面リンクに改められている。
加えてリンク側面は完全な平面に磨かれているため、H型コマの横筋目が真っ直ぐ続いているように見えるほど、歪みのない映り込みが楽しめてしまうのだ。
H型コマ自体の造形も均一な曲面に整っており、それだけでも凄まじい高級感だが、さらに細部まで詰められた本作は、長時間の鑑賞で新たな喜びが得られることだろう。
ピンクゴールドローター仕様の自社製自動巻きムーブメント
搭載ムーブメントは自社開発・自社製造のCal.GP01800。コート・ド・ジュネーブやペルラージュなどの繊細な仕上げが見られる、片方向巻き上げの自動巻きムーブメントだ。
SSモデルのCal.GP01800には重金属ローターが搭載されているが、ロレアート 42mm ピンクゴールド&オニキスはラグジュアリースポーツウォッチらしく、18Kピンクゴールドローターに差し替えられている。
針回しには若干の振動を感じるものの、一定の重さで滑らかな感触だ。歩度調整は緩急針を用いた仕様のため、激しく揺らさないよう気を付ける必要があるが、天然石文字盤を搭載した本作にむやみやたらと衝撃を与えるユーザーは少ないだろう。
贅沢の本質をおさえた、現代のブレスレット一体型ドレスウォッチ
ジラール・ペルゴのロレアートは、SSモデルやセラミックモデルも総じて高い質感を持っていたが、やはり貴金属の外装に天然石文字盤を合わせたロレアート 42mm ピンクゴールド&オニキスの仕上げは別格だった。
表からは見えないフォールディングクラスプまで歪みなく整った鏡面であることに気付いた際は、正直「ここまでやるか」と感じたが、元来「贅沢」の本質とは過剰を楽しむこと。
その意味において本作は、間違いなくラグジュアリーウォッチと呼べるだろう。
なおかつ、初代モデルを彷彿とさせる上品でドレッシーなデザインは、パーティーシーンにも自然に溶け込み、現代のブレスレット一体型ドレスウォッチとして活躍してくれるはずだ。
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