ヨーロッパ大手の時計店が取り組む、認定中古時計(CPO)ビジネスについてインタビュー

FEATUREWatchTime
2023.07.20

現在、時計業界で話題となっている「Certified Pre-Owned(認定中古、以下CPO)」ビジネス。専門のオンラインプラットフォームに加え、これに注目する時計ブランドや専門店でも、中古時計の取り扱いが増えてきた。ヨーロッパ大手の時計宝飾店リュッシェンベックではCPOをどのように捉え、取り組んでいるのだろうか。リュッシェンベックのセールスディレクターであるアンドレアス・ハウデに取材を行った。

アンドレアス・ハウデ

リュッシェンベックのセールスディレクターであるアンドレアス・ハウデ。リュッシェンベックでは主にリリースから30年までの時計を買い付けている。
Originally published on watchtime.com
Text by Rüdiger Bucher
[2023年7月20日掲載記事]


買い取り不可能な時計もある

WatchTime:ハウデさん、時計業界は現在、認定中古(Certified Pre-Owned、以下CPO)時計の話題で持ちきりです。リュッシェンベックにとって、このマーケットはどのような意味をもつのでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:私たちは3年前にCPOの取り扱いを始め、このテーマに特化した小さな部門を立ち上げました。2019年にはハンブルクに初のCPO専門ブティックをオープンしています。私たちは主に30年前の時計を買い付けています。それより古いものについては、保証を提供するために必要なスペアパーツを入手するのが難しいのです。

WatchTime:時計はどのように買い付けされますか?

アンドレアス・ハウデ:圧倒的に個人所有のものが多いですね。ここ2年で飛躍的に量が増えました。時計の買い取りは、オンラインか、弊社店舗への持ち込みかのどちらかです。前者の場合、オンライン上のプラットフォームに時計の情報を入力し、画像をアップロードします。その後、保険付き貨物としてお預かりします。当社のサービス部門にて、実際の状態を査定し、最終価格を決定します。一方、店舗では、常に専門家が常駐しており、その場で時計を確認し、比較的迅速に結論を出します。両方を組み合わせることも可能です。オンライン上で売却のお申し出があった場合、通常24時間以内にお電話にてご連絡を差し上げ、ご来店日時のアポイントメントを取らせていただきます。

WatchTime:買い取り不可能な時計にはどのようなものがありますか?

アンドレアス・ハウデ:出どころがはっきりしない時計や、オリジナル以外のパーツが使用されているもの、同じブランドの異なるモデルからのパーツが組み合わされているものなどですね。また商売的に販売の見込みが低い時計の買い取りも行っていません。

WatchTime:新古品の買い取りも行っていますか?

アンドレアス・ハウデ:そうですね。購入後に後悔された時計や、贈り物として受け取ったもののお気に召さなかった時計というものは一定量あります。1日ないしは数日しか着用されなかった時計については、メンテナンスもあまり必要としないので、弊社にとっても関心があります。

リュッシェンベック

Photograph by Phillip Zwanzig
ハンブルクにあるリュッシェンベックのCPO専門ブティック。

WatchTime:特に、大々的に宣伝された時計に見られますが、人気が爆発しているときには、手に入れた時計をすぐに転売して利益を得ようとする人たちがいます。きっとブランド側は、こういった時計が貴店に並ぶことを好まないと思いますが、いかがでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:そのような時計でもきちんと付属書類が揃っているのであれば、基本的には何も言うことはありません。しかし、私たちは積極的にそのような時計を買い付けている訳ではありません。


買い付けから販売までのプロセス

WatchTime:買い付けから販売まで、どのようなプロセスで進められるのでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:入荷した時計はすべて個別に検品されます。摩耗が激しいものはもちろん再調整が必要です。全体的なルールとして、5年以上経った時計は、その後2年の保証を付けるために、再調整が必要になります。多くのブランドを取り扱う弊社は、さまざまなブランドの仕様に従って調整を行うことができますし、必要なパーツを完全に揃えることができます。個人間の中古時計売買の場合、この重要な利点は享受できないでしょう。

WatchTime:顧客にとって、リュッシェンベックの訴求点は何でしょうか?

アンドレアス・ハウデ:信頼感が、大きな要素だと思います。リュッシェンベックは1904年に創業した老舗であり、知名度は高く、ヨーロッパの主要な都市ごとに店舗を構えています。例えば、数万ユーロの金額を誰かに送金するとき、そのビジネスパートナーを知っていて、何か問題があればどこへ行けばいいか分かっていることが安心要素となります。また時計を購入したいと思う場合には、店舗で実際に実物を確認することができます。知らない人とオンラインでメールのやり取りをし、売買に至ったとき、こういった形で取引をするべきではなかったと後悔するリスクを冒す必要がありません。

WatchTime:CPOの時計専門店のために3店舗を構えていますね。これは通常の店舗とは完全に切り離されているのでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:はい、そのように進めています。申し上げたように、最初のCPOの時計専門店は2019年にハンブルグでオープンしました。そこでは、1階には弊社のジュエリーブティックを構え、2階にCPOの時計専門店を設置しています。それに対しフランクフルトやミュンヘンの店舗では、純粋なCPO時計専門店として特化しています。弊社ではこの分野は急成長しています。

リュッシェンベック

リュッシェンベックのフランクフルト店にある、CPOによる中古時計専用のショーケース。

WatchTime:店頭での時計在庫はどれくらいですか?

アンドレアス・ハウデ:店舗の規模にもよります。ハンブルグ店では、より広いスペースが使えるため、100本から120本程度を展開しており、フランクフルトとミュンヘンでは、50本から60本程度です。なお、他の都市でもCPO時計専門ブティックをオープンする予定です。

WatchTime:ハンブルグのお店で、フランクフルトやミュンヘンで在庫されている時計を見ることはできますか?

アンドレアス・ハウデ:もちろんです。弊社専用の店舗間の輸送サービスにより、遅くとも2日でご希望の場所に移動させることができます。例えば、時計がハンブルグの在庫品であってもデュッセルドルフのリュッシェンベック本店でご覧いただけます。購入前に実物を見て、似合うかどうか、そして時計の状態が記載通りかどうかを確認できるのは大きな利点だと思います。完全にオンラインの情報から購入することとは別の良さがあります。

WatchTime:同じ時計の購入が店舗とオンラインで同時に発生するとどうなるのでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:幸い、そういったケースは多くありません。

WatchTime:実際起こったことはあったのですね?

アンドレアス・ハウデ:一度ありますが、繊細な解決法を見付けました。その時計は、比較的よく入荷するモデルだったのです。オンラインのお客様は、購入プロセスを完了していらっしゃいましたので、店舗にいらしたお客様に、同様のモデルを2週間以内にお探しするとご案内し、実際そのようにしました。

WatchTime:オンライン上での取り置きもできますね。希望者はどのように設定するのでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:例えば、時計の購入ステップを進めたものの、支払いまでの全プロセスが完了する前に保留したい場合、弊社のオンラインチームは時計をお客様のために24時間キープします。つまりオンライン上で時計の情報は閲覧可能な状態ですが、「予約済み」のラベルがついており、他のお客様は購入ができません。

リュッシェンベック

ミュンヘンにあるリュッシェンベックのCPO時計専用店。

WatchTime:もし、手に入れたい時計があるが、在庫にない場合はどのようになりますか?

アンドレアス・ハウデ:弊社のスタッフ全体でリサーチを開始します。オンライン、店舗両方で、リサーチの依頼を行うことができます。


販売価格の決定方法

WatchTime:メジャーな中古時計ディーラーのひとつであるウォッチファインダーの調査によると、総額20億ユーロ以上の価値がある「忘れられた時計」がドイツの引き出しで現在眠っているということでした。こういった時計のオーナーに対し、どのようにコンタクトを取られるのでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:インターネットや特定のモデルの価格変動に関する集中的な報道により、情報がコレクターたちのコミュニティに限られていた過去に比べ、現代は古い時計がどれくらいの価値になるかという情報は得やすくなりました。そのため、以前より両親や祖父母の箱をのぞいてみる機会を持つ方が多くなったと思っています。

WatchTime:販売価格はどのように決定されるのでしょうか?

アンドレアス・ハウデ:価格を決めるのは市場です。参考までに、多くの時計を扱う信頼できるプラットフォームを弊社は利用しています。そのために、時計を良い状態にする必要があるということを念頭に置いています。それに加え、保証をカバーするために一定のマージンが必要となってきます。

WatchTime:時計宝飾店が扱う中古時計は、他のプラットフォームより若干割高になることを考慮する必要がありますか?

アンドレアス・ハウデ:必要ではありませんが、標準的なものより弊社の価格が少し高かったとしても、そのための理由はあります。まず、時計ブランドの仕様に則った正統なメンテナンスや、それに対して弊社が付与する保証などです。

リュッシェンベック

リュッシェンベック・ミュンヘン店のショーケース。

WatchTime:委託販売はされますか?

アンドレアス・ハウデ:いえ、可能性のある買い手と協議するために、値付けやそのほかの詳細を委託業者と相談しなければならないということは手間が発生することですので、考えておりません。


「CPO(認定中古)ロレックス」について

WatchTime:2022年12月初めから、ロレックスは「Certified Pre-Owned(認定中古)ロレックス」を開始し、CPOウォッチを自身で真正品として扱い、自らメンテナンスを施し、2年の保証を付けています。この動きを歓迎しますか?

アンドレアス・ハウデ:
良いものと悪いものを分けていく市場での努力は、どのようなものでも歓迎します。ゴールへ到達する道はひとつではありません。中古時計分野で最も重要なブランドであるロレックスがこのトピックに参加するのは、喜ばしいことです。

WatchTime:ロレックスのCPOプログラムへの参加に興味はありますか?

アンドレアス・ハウデ:市場とその変化を、つぶさにモニタリングしています。どのような場合においても、ロレックスと話の端緒を切るのは歓迎です。ロレックスの中古時計は、長期的に見て新品と同じくらい成功するであろうと確信しています。


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