1983年にリリースされたG-SHOCKは、そもそも純然たる実用時計として生まれたものだった。しかし興味深いストーリーや、さまざまなモデルは、やがてG-SHOCKに人々の耳目を集めさせるようになった。今やアイコンへと成長を遂げたG-SHOCK。今回取り上げるのは、定番中の定番である5000/5600系だ。
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
DW-5040RX-7JR
トランスパレント外装の40周年記念モデル
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G-SHOCKの40周年を祝うべくリリースされた限定コレクションのひとつ。本作は外装すべてがグラスファイバーダイアミドだが、DWE-5640RXは、ブレスレットがメタルとの混合になる。クォーツ(Cal.3534)。樹脂×SSケース(縦48.9×横42.8mm、厚さ13.58mm)。2万6400円(完売)。
2009年のGW-5000-1でひと通りの完成を見た5000/5600系。その外装技術を遊びに振ったのが、40周年記念にリリースされた「GSHOCK 40th Clear Remix」シリーズの、DW-5040RX-7JRだ。外装のデザインは既存の5000/5600系に範を取ったものである。しかし、外装の素材を透明なグラスファイバーダイアミドに改めることで、G-SHOCKらしからぬ透明感が打ち出された。
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大胆な加工を可能にしたのが、GW-5000で再び採用されるようになった、メタル製のケースと裏蓋である。これがモジュールを完全に覆うことにより、その上に被せるベゼルもすっきり見えるようになった。正直、写真だけを見る限り、この時計が、驚くほどの耐衝撃性能を備えているとは考えにくい。加えて、トランスパレントを強調するため、液晶表示も、完全に透明なLCDに改められた。視認性が悪くなる場合もある(カシオの公式サイトがそう記しているのは面白い)が、半面、モジュールの内部がはっきり見えるようになった。併せて、最低限の表記以外をすべて省くことにより、デザインをよりシンプルに見せている。
機能を重視してきたG-SHOCKとしては真逆の試みとなるDW-5040RX-7JR。この40年間に、さまざまなモデルを加えてきたG-SHOCKにあってさえ、これほど極端なモデルは稀だろう。しかし、これをプロダクトとして成立させ、しかも全く破綻させないところに、今のカシオの力量がある。とはいえ、いくらスタイリッシュに装っても、これはあくまでも耐衝撃時計の1モデルである。つまり、20気圧防水と超耐衝撃性というG-SHOCKの美点は、実用性とは無縁に見えそうな本作でさえも、何ひとつ損なわれていないのである。
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DWE-5657RE-1JR
ベゼル交換可能なリマスターブラック
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40周年記念限定モデル。外装には成型のしづらいバイオマスプラスティックを採用するほか、交換用に「DW-5700」の丸型ベゼルが付属する。バッテリー寿命の長い新モジュールを搭載。クォーツ(Cal.3523)。樹脂ケース(縦48.9×横43.8mm、厚さ13.7mm)。2万2000円(税込み)。
もうひとつの40周年記念モデルが、「G-SHOCK 40th Anniversary REMASTER BLACK」コレクションである。リリースされたのは4モデル。その中でも、最も興味深いのが、5600系のデザインを継承するDWE-5657RE-1JRだ。見た目は、ブラックアウトしたDW-5600。しかしツールを使うことで、ベゼルをDW-5700に交換できる。カシオはベゼルを交換できるモデルとして、2020年の10月に「DWE-5600CC-3」を発表している。これは、同じデザインでありながらも、電子回路をイメージした外装に変えられるものだった。対して40周年記念の5657REは、違うモデルのベゼルを着けられるようになった。これも、今までのG-SHOCKには全くなかった試みである。
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交換方法は実に簡単だ。クイックチェンジの付いたベルトを外し(装着したままでも可)、専用のツールでベゼルをこじ開けて外し、もう一方のベゼルをはめ込むだけ。交換は簡単だが、新素材のバイオマスプラスティックで緻密な造形を再現するのは困難だったに違いない。しかも、最近のG-SHOCKに同じく、ケースやストラップを金型で成型する際に生じるつなぎ目がかなり目に付かなくなった。メタルのG-SHOCKに隠れて目立たないが、5000/5600系を含むベーシックなG-SHOCKに大きな底上げをもたらしたのは、成型技術の進歩なのである。本作は、それをいかんなく発揮したモデルだ。
機能を追求して生まれたG-SHOCKは、それを支える技術の成熟と共に、今や遊びという要素を自在に盛り込むようになった。G-SHOCK、そして5000/5600系には、型があっての型破り、という言葉こそ、ふさわしいように思えてならない。
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