1969年に発表された初代デファイのコレクションは、そのラインナップの多様さから、近年のゼニスが注力するリバイバル路線の金鉱脈となった。しかしそのコレクション名の通り、デファイで試みられてきたプロダクトヒストリーは、時代時代を象徴するゼニスの挑戦の足跡でもあった。デファイが辿り着いた、現代の帰結点を考察する。

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]


136DEFY REVIVAL A3691
コレクション誕生時のカラーダイアルへのオマージュ

デファイリバイバル A3691

デファイ リバイバル A3691
1969年に発表された初代デファイの色違い。ルビー色のグラデーション文字盤やラダー状のブレスレットも忠実に再現された。自動巻き(Cal.Elite 670)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径37mm)。30気圧防水。97万9000円(税込み)。

 今やゼニスの基幹コレクションとなったデファイ。名前の由来は少なくとも会社の創業間もない頃までさかのぼれる。創業者のジョルジュ・ファーブル=ジャコは有能な時計師だったが、マーケティングの才にも長けていた。彼は懐中時計向けに様々な商品名を登録し、そのひとつがフランス語で挑戦を意味するDefiだった。公式な情報に従うなら、DefiではなくDefy銘の懐中時計がリリースされたのは1902年のこと(ただしそれ以前=19世紀後半にあった可能性は否定できない)。そして69年に、この名前は新しいコレクションのペットネームとして復活を遂げた。

デファイリバイバル A3691

初代デファイ(A3642系)の特徴が、8角形のケースと14角形のベゼルだ。オリジナルはおそらく、プレスしたケースに研削で面を加えている。対して最新作はケースが切削だ。そのためケースの完成度は大きく上がった。
デファイリバイバル A3691

A3691の特徴である、ルビー色のグラデーションダイアルも忠実に再現された。しかし、技術の進歩を反映して、ダイヤモンドカットされたインデックスはいっそう角が立っている。下方に向けてシェイプされた星にも注目。

 新しいデファイは、ゼニスの新しい未来を担うべく企画された〝挑戦的〞なコレクションだった。搭載するのはベーシックな自動巻きのキャリバー2542 PC。しかしムーブメントの中枠をラバーで支えるというケース構造は極めて高い耐衝撃性能をもたらしたほか、ねじ込み式のリュウズと、ケースとの噛み合い面積を極端に広げた裏蓋などにより、300mもの防水性能を実現していた。見た目こそアバンギャルドだったが、これは正真正銘のスポーツウォッチだったのである。

デファイリバイバル A3691

ケースサイド。ミネラルガラスを固定した風防をねじ込むことで、300m防水を実現したオリジナルのA3691。新作では風防がサファイアクリスタルに改められた。今となっては古典的な造形だが、装着感は悪くない。

 2022年にこのA3642を復刻した同社は、翌23年、その色違いである71年のA3691を再現した。直径37mmの8角形ケースにアイコニックな14面ベゼル、ユニークなラダー型ブレスレットに30気圧防水といった要素はオリジナルを継承するが、ムーブメントが薄型のエリートに置き換わったほか、外装の質感は劇的に向上した。2017年に本格的なリバイバルを遂げて以降、ゼニスを支える4つの柱のひとつへと成長を遂げたデファイ。ファーストモデルのリバイバルが示すのは、アイコンとしての強い打ち出し、そしてスポーツウォッチとして始まったオリジナルデファイへの回帰ではないだろうか。

デファイリバイバル A3691

ゲイ・フレール製のラダーブレスレットも忠実に再現された。しかし、耐久性を上げるため一部のコマはピン留めからネジ留めに変更されたほか、バックルも削り出しの良質なものとなった。細かな手の入れ方は、外装に注力する今のゼニスらしい。
デファイリバイバル A3691

搭載するのは薄型自動巻きのCal.670。基本設計を1994年にさかのぼるCal.670だが巻き上げ効率が高く、精度も安定している。なお初代デファイの特徴であるユニークなケース構造は、標準的なものに改められた。


138DEFY REVIVAL A3648
1969年のダイバーズウォッチを完全再現

デファイリバイバル A3648

デファイ リバイバル A3648
2024年の新作は、1969年発表のデファイ ダイバーをほぼ忠実に再現したものだ。直径37mmで600mの防水性もオリジナルに同じだ。自動巻き(Cal.Elite 670)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径37mm)。60気圧防水。105万6000円(税込み)。

 2019年の「エル・プリメロ A384 リバイバル」で、復刻版という金脈を見出したゼニス。1960年代後半以降、様々な形のケースに取り組んだ同社は、スイスの他社に比べて復刻の素材に恵まれていたのは間違いない。そんなゼニスによる最新の復刻版が「デファイ リバイバル A3648」だ。原型は1969年に発表された回転ベゼル付きのダイバーズウォッチ「デファイ プロンジュール」。その見た目は同時期に発表されたダイバーズウォッチに似ていたが、プロンジュールは600m(フィート換算すると1969ft)もの防水性能と、デファイ譲りの、薄いラバーの板を用いた耐衝撃装置を備えていた。加えてこのモデルはダイバーズウォッチらしからぬ鮮やかな色と、立体的なケースを持っていたのである。

デファイリバイバル A3648

1969年に発表されたデファイのダイバーズウォッチには、写真のA3648とブラック文字盤のA3646、そしてシルバー文字盤にゼブラベゼルを持つA3650の3モデルが存在し、合計生産本数は約1000本と言われている。今回ゼニスが復刻の題材に選んだのは、最もアイコニックなオレンジカラーのモデルである。おそらくオリジナルのベゼルは有機ガラスもしくはプラスティック製。対して本作では、硬度の高いサファイアクリスタルに変更された。
デファイリバイバル A3648

今のゼニスを象徴するディテール。発色の難しいオレンジにもかかわらず、色のりは良く、側面まできちんと色が回っている。また、わずかにツヤを落としたブラックの地により、視認性にも優れる。

 2019年にエル・プリメロのリバイバルを成功させたゼニスが、この際立ってアイコニックなダイバーズウォッチを復刻させようと考えたのは当然だろう。2024年に発表された新しいA3648は、1969年モデルとほぼ同じ見た目ながらも、別物と言えるほどの進化を遂げた。一番大きな違いはベゼルである。オリジナルは樹脂もしくは有機ガラス製のベゼルインサートを持っていたが、最新作ではサファイアクリスタルに変更された。またケースも、基本的な造形は同じだが、明らかにエッジが立つようになった。価格は決して安くないが、ゼニスはオリジナルに敬意を払い、忠実に再現したのである。

デファイリバイバル A3648

ケースサイド。60気圧防水を実現するため、ケースの厚みは15.5mmに増えた。腰高なケースだが、装着感はまずまずだ。

 もっとも、ゼニスはリバイバルだけに傾倒しているわけではない。同年に発表されたデファイ エクストリームは、A3648のデザイン要素を受け継ぎつつも、チタンケースと600m防水を持つ最新のダイバーズウォッチに仕立て直された。つまりゼニスのリバイバルとは、今や単なる復刻版ではなく、未来を創造するための題材となったのである。

デファイリバイバル A3648

A3642系に対して、ケースの角はいっそう落とされている。理由は引っかかりを抑えるため。エッジは立っているが、立ちすぎない程度に抑えられた。なおバックルにはダイバーズウォッチらしくエクステンションが備わる。
デファイリバイバル A3648

搭載するのはA3642系に同じ、Cal.670だ。オリジナルモデルが搭載した2542 PCとほとんど直径が変わらないため、忠実な再現が可能となった。



Contact info:ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861


【86点】ゼニス/デファイ エクストリーム ダイバー

【86点】ゼニス/デファイ エクストリーム

ゼニスの腕時計を徹底解説! シリーズやおすすめモデルを紹介

FEATURES