1969年に発表された初代デファイのコレクションは、そのラインナップの多様さから、近年のゼニスが注力するリバイバル路線の金鉱脈となった。しかしそのコレクション名の通り、デファイで試みられてきたプロダクトヒストリーは、時代時代を象徴するゼニスの挑戦の足跡でもあった。デファイが辿り着いた、現代の帰結点を考察する。
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年1月号掲載記事]
DEFY SKYLINE
1/10秒スモールセコンドを備える新世代機

エル・プリメロ譲りの高振動ムーブメントを搭載。直径41mmのケースには、オリジナルから触発された12角形のベゼルが加えられている。自動巻き(Cal.3620)。26石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径41mm)。10気圧防水。126万5000円。
2017年の本格的な復興以来、挑戦的な試みを盛り込んできたデファイ。同年のクロノグラフは100分の1秒を計測できるものだったし、(残念ながら)失敗に終わったオシレーターも、Defi(挑戦)というそもそもの名称を思わせる、極めつきの野心作だった。復刻版のデファイや、300m防水のデファイ エクストリームもそういった試みのひとつだ。


しかし一方でゼニスはデファイに別の性格も与えようとしている。それがブレスレット付きのモダンなコレクションという立ち位置だ。2022年に発表された「デファイ スカイライン」は、高精度なエル・プリメロを載せつつも、1969年モデルの特徴だった、14角形のベゼルを強調した試みだ。加えて、よりアイコニックに見せるべく、文字盤にはゼニスを象徴する星が加えられている。そしてケースやブレスレットの仕上げは、今のゼニスらしく、非常に良質である。
もっともゼニスは大人になったデファイにすら「挑戦」を加えることを忘れなかった。デファイ スカイラインのスモールセコンドは、なんと1周60秒ではなく、10秒で1回転するもの。このモデルが示すように、今後デファイは、かつてそうであったユニークな立ち位置を、エル・プリメロという打ち出し以外で強めようとしている。
ゼニスの紆余曲折を受けて、大きく様変わりしてきたデファイ。正直、69年のモデルと現行品では、時計の在り方が大きく異なる。しかし、ここ数年の新作が示す方向性は明確だ。つまりはデファイをいっそう強いアイコンに仕立て上げることである。機構やデザインで、過去との継続性を明示するようになったデファイ。遺産の豊かさを考えると、今後ゼニスで最も面白くなるのが、デファイ コレクションであることは間違いない。紆余曲折は、むしろ未来への資産なのである。

