ブランパンの創業地であるヴィルレ。その名を冠したのが2002年に始まったヴィルレコレクションだ。もっとも、名前こそ新しいが、そのスタイルは1983年のモデルからほとんど不変だ。今やブランパンのアイコンとなったこのコレクションの進化を、前身となった「シックス・マスターピース」から振り返ってみたい。

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年3月号掲載記事]


VILLERET ULTRAPLATE
シリコンの心臓に生まれ変わった薄型の旗機

ヴィルレ ウルトラスリム

ヴィルレ ウルトラスリム
ヴィルレコレクションを代表するモデル。ケース径を40mmに拡大することで、その薄さが一層際立っている。搭載するのは、今なお第一線級の自動巻きであるCal.1151だ。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約100時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ8.7mm)。3気圧防水。327万8000円(税込み)。

 今やドレスウォッチの代名詞的存在となったヴィルレ。その代表作は薄型自動巻きの「ウルトラスリム」だろう。前身となった手巻きモデルのリリースは1984年。後に傑作自動巻きのCal.1150(ブランパン11.50)を載せることで、このモデルは一躍、ハイエンドな3針モデルの一角を担うようになった。

 このクラシカルなコレクションが創業の地である「ヴィルレ」を名乗るようになったのは、マーク A.ハイエックが代表取締役社長兼CEOとなった2002年から。そして創業275周年を迎えた2010年には、基本的な造形を受け継ぎつつも、インデックスや針がモダンにアップデートされたのである。

ヴィルレ ウルトラスリム

ヴィルレコレクションのアイコンが、アプライドのローマンインデックスだ。2010年のモデルチェンジにより、サイズはわずかに拡大され、フォントには曲線が加えられた。側面の仕上がりが示すように、エントリーモデルといえども、仕上げはハイエンドに全く遜色ない。
ヴィルレ ウルトラスリム

スウォッチ グループのハイエンドであることを証しているのが、極めて良質な針だ。あえて膨らみを抑えているが、造形は立体的であり、面の歪みも小さい。注目すべきはそれぞれの針の先端。インデックスや針の造形に合わせて、微妙に丸められている。また文字盤とのコントラストが高いため、視認性も良好だ。

 現行モデルが搭載するのは、Cal.1150の改良版であるCal.1151。基本設計は1993年と古いうえ、振動数も2万1600振動/時と決して高くはない。しかし、直径27.4mm、厚さ3.25mmというサイズにもかかわらず、ダブルバレルのおかげで、パワーリザーブは約100時間もある。加えて最新版はシリコン製のヒゲゼンマイとフリースプラングテンプの採用により、耐磁性能と等時性がいっそう改善された。今なお、ヴィルレのウルトラスリムが、第一級のドレスウォッチである理由だ。

ヴィルレ ウルトラスリム

ケースサイド。裏蓋側に向けて絞ったミドルケースや、ステップを設けたベゼルは1983年のファーストモデルから継承するもの。しかし、スウォッチ グループのハイエンドだけあって、最新作はケースの磨きが良くなった。

 今のブランパンらしく、時計の質感も極めて高い。中抜きした立体的なリーフ針や、尾部にロゴをあしらった秒針などは、針メーカーのユニベルソを擁するスウォッチ グループならではの品質だ。そして、いわゆるエントリーモデルにもかかわらず、ムーブメントの受けは、すべて角が手作業で丸められている。同価格帯でも機械による面取りが増える中、ブランパンは頑なに、古典的な仕上げを守り続けているのだ。

 もっともヴィルレの魅力はシンプルウォッチに留まらない。次は、アイコンであるコンプリートカレンダーを見てみよう。

ヴィルレ ウルトラスリム

ヴィルレの個性のひとつが、短く切ったラグ。これだけ見るとモダンだが、ベルトの取り付け部分を膨らませたデザインは古典的だ。
ヴィルレ ウルトラスリム

ケースバック。トランスパレントバックからのぞくのは、傑作Cal.1151だ。パフォーマンスの高さもさることながら、浅いジュネーブ仕上げや、手作業で施された面取りなど、往年の高級時計らしいディテールに満ちている。


VILLERET QUANTIÈME COMPLET
古典的なフルカレンダーを備える実用機

ヴィルレ コンプリートカレンダー

ヴィルレ コンプリートカレンダー
ブランパンの代名詞的存在がコンプリートカレンダーだ。搭載するムーブメントは進化したが、基本的な構成は不変だ。自動巻き(Cal.6654)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.9mm)。3気圧防水。238万7000円(税込み)。

 1983年に復興なったブランパン。その第1作としてお披露目されたのが、月・日・曜日のフルカレンダーにムーンフェイズを合わせたコンプリートカレンダーである。以降ブランパンは、この複雑機構を常にコレクションに加えてきた。

 このモデルは2010年のファーストリモデルを経て、16年に文字盤がリデザインされたもの。しかし、薄さを強調したウルトラスリムに対して、本作では、視認性を高めるようなモディファイが加えられている。そもそもサイズが大きくなった結果、新しいヴィルレは時間が読み取りやすい。加えてベゼルを細く絞り、文字盤の開口部を広げることで、いっそう時間は読みやすくなった。1983年以来の伝統であるポインターデイトも同様だ。表示部分を深く彫り込み、加えて色をわずかに変えることで、決して大きくない表示にもかかわらず、読み取りやすくなった。

ヴィルレ コンプリートカレンダー

サイズ拡大の恩恵を最も受けたのは、定番のコンプリートカレンダーだろう。ケースがオリジナルの直径34mmから直径40mmに拡大され、インデックスも拡大された結果、時間は明らかに読み取りやすくなった。また、文字盤の下地をわずかにマットにすることで、鏡面仕上げのインデックスとのコントラストを高めている。
ヴィルレ コンプリートカレンダー

簡潔さと視認性を巧みに両立した文字盤。日付表示は決して大きくないが、凹みのエッジを立てることで見やすくしている。一方、ムーンフェイズ周りの成形をあえてダルにすることで、月齢表示が目立ちすぎないようにしている。加えて月齢を示す枠も、印字を銀色にすることで文字盤になじませている。立体的な印字や、月と同一平面上に置かれた夜空にも注目。

 ブランパンの手腕を感じさせるのは、6時位置のムーンディスクだ。ムーブメントの直径は27.4mmと、ケースサイズに対して決して大きくない。しかし大きな文字盤を加えてなお間延び感を与えないのは、インデックスと6時位置のムーンディスクを大きくしたためだ。このあたりのさじ加減のうまさは、さすがブランパンと言うべきか。

ヴィルレ コンプリートカレンダー

ケースサイド。質感の向上は、ゴールドモデル以上に、SSモデルで顕著だ。歪みの小さな面や、ベゼルとミドルケースの精密な噛み合わせなどは、ハイエンドモデルにふさわしい。また、ケースに比してムーブメントは小さめだが、リュウズのガタはよく抑えられている。

 決してメジャーではないコンプリートカレンダーというジャンルにあって、唯一成功を収めてきたのがブランパンだ。その理由は、約72時間という長いパワーリザーブにある。加えてシリコン製のヒゲゼンマイを載せた最新作は、生半可な実用時計が足元にも及ばないほど、実用性を高めている。

 ハイエンドなモデルを擁しつつも、使い勝手に優れたプチコンプリケーションを作り続けるブランパン。しかもその内容を考えれば、価格は極めて魅力的なのである。これは今こそ、注目すべきモデルではないか。

ヴィルレ コンプリートカレンダー

厚みを増したケースに対応すべく、若干太くなったラグ。また、長さも詰められた。
ヴィルレ コンプリートカレンダー

面白いのは裏蓋の留め方。ヴィルレコレクションは昔から古典的なスナップバックを採用する。



Contact info: ブランパン ブティック 銀座 Tel.03-6254-7233


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FEATURES

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ブランパン/フィフティ ファゾムス