ブランパンの創業地であるヴィルレ。その名を冠したのが2002年に始まったヴィルレコレクションだ。もっとも、名前こそ新しいが、そのスタイルは1983年のモデルからほとんど不変だ。今やブランパンのアイコンとなったこのコレクションの進化を、前身となった「シックス・マスターピース」から振り返ってみたい。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2025年3月号掲載記事]
VILLERET TOURBILLON HEURE SAUTANTE MINUTES RÉTROGRADE
ブランパントゥールビヨンを象徴する偏心キャリッジモデル

シグネチャーであるフライングトゥールビヨンをあしらったモデル。ジャンピングアワーとレトログラード分針により、キャリッジは一層強調された。手巻き(Cal.260MR)。40 石。2 万1600振動/ 時。パワーリザーブ約6日間。18KRGケース(直径42mm、厚さ11.5mm)。3気圧防水。2480万5000円(税込み)。
1989年にリリースされたフライングトゥールビヨンは、当時世界最薄というだけでなく、8日間もの長いパワーリザーブを持つものだった。直径26.2mmのムーブメントに、これほど長い駆動時間を持たせることは、今なお難しいと考えれば、当時のブランパンがいかに野心的だったかが分かるだろう。
そんなフライングトゥールビヨンの最新作が、「ヴィルレ フライング トゥールビヨン ジャンピングアワー レトログレード ミニッツ」だ。最も大きな違いは、直径42㎜という大きなケース。ムーブメントを刷新した結果、必然的にケース径も拡大されたのである。


あえて手を加えたのには理由がある。オリジナルのフライングトゥールビヨンでは、ムーブメントを薄くするためにブリッジを省略した。対して本作では、キャリッジが完全に浮いて見えるよう、キャリッジ下の地板をサファイアクリスタルに改め、キャリッジの外側を駆動するように改めたのである。
キャリッジの軸ではなく、外周から駆動する結果、ムーブメントは必然的に大きくなった。当初の案はジャンピングアワーと分針による時間表示だった。しかし、より正確な表示のために、分針はジャンピングアワーに連動するレトログラード式に改められたのである。結果としてこのモデルは、12時位置のトゥールビヨンキャリッジが一層強調されるようになった。しかも文字盤に採用されたグラン フーエナメルの質は極めて良質なのである。
2002年に代表取締役社長兼CEOとなったマーク A.ハイエック以降、ブランパンは技術力を誇示するよりも、むしろいっそうの実用性や遊び心を加えるようになったと筆者は感じている。もちろん、それぞれのコンプリケーションに込められた技術は非凡だ。しかし、それを感じさせない洒脱さこそが、今のヴィルレの真骨頂と言えるだろう。

