(中央)フュージョンを具現化するために開発されたサンドイッチ構造のケース。上からセラミックス製のベゼル、グラスファイバー製のオレイユリング、ケースの上部品、ミドルケース、そして下部品とケースバック。ミドルケースの左右にあるのは、側面を黒く見せるためのグラスファイバーだ。この展開図が示すように、上下のプレートは基本的に飾り。ミドルケースだけでムーブメントを保持するため、「防水性には問題がない」(ビバー氏)。
「『インビジブル・ビジビリティ(見えない可視性)』を思いついたのは、オメガに在籍していた時代だ。インビジブル・ビジビリティこそが私のデザインコンセプトだよ」
――なぜ当時やろうと思ったのですか?
「79年から80年にかけてのオメガは、とても工業製品的な時計を作っていた」
彼はノートに時計の断面図を書き始めた。文字盤と針を描き、そこにベゼルと見返し(ベゼルと文字盤の間)を足し始めた。見返しには、グランドセイコーやロレックスのように、大きな斜面が付いている。
「私はオメガの人々にこう言ったんだ。斜めに切った反射板(つまり鏡面加工した見返し)が必要だよと。見返しに角度があると、光が反射してダイアルに当たる。これが大きな違いを生むんだ。反射板を設けると、針と文字盤の視認性が上がる。デザイナーはイエスと言った。これが『インビジブル・ビジビリティ』だ。単なる工業製品との差異がここにある。私がデザインしたすべてのブランパンも、すべてリフレクターを持っているよ。見返しは光を反射するために斜めだ」
――05年発表のビッグ・バンを見ると、12時、2時、4時などのインデックスに線が入っていますね? このおかげで、インデックスの視認性は大変高い。これもインビジブル・ビジビリティですか?
「まさしくその通り。他のインデックスも一部に斜面を付けてあるだろう? 見えないすべての細部をコントロールしてこそ、デザイナーなんだ。見えない細部をコントロールできないと、プロダクトは(一呼吸、間を置いて)死ぬ。工業製品、コンピューターでできた製品になってしまう。対して見えないディテールをコントロールできるようになると、製品は魂を持つようになる」
ジャン-クロード・ビバーは、時計業界のカリスマではなく、天才的なマーケッターでもなく、業界屈指のプロダクトマネージャーとして語り続ける。
――ディテールに関して言うと、ビッグ・バンはケースの厚みがあるのに、針と文字盤のクリアランスをできるだけ詰めている。結果、時計の見た目は大変良くなっている。これも意図したものですか?
「針と文字盤のクリアランスはとても重要だよ。これこそ『インビジブル・ビジビリティ』だ。デザイナーがこれをマスターしない限り、私はデザインをOKしない。ダイアルと針の間隔は、最小限であるべきなんだ。ダイアルに開ける穴も、可能な限り小さくなければいけない。針もできるだけ、インデックスの最後までリーチさせないといけない」
ビッグ・バンを仔細に見ると、文字盤をかさ上げして、針と文字盤の間隔を詰めているのが分かる。彼はテーブルにあった『クロノス日本版』を開き、某社のクロノグラフの写真上にペンを走らせはじめた。
「これは、針の長さが少し足りないね(針を書き足しながら)。針はインデックスの最後まで延ばさなければいけない。たとえビバーさん、それはクレイジーだよと言われても、だ。針を延ばすとコストはかかってしまう。でもこれこそが、見えないディテールなんだ」
確かにビッグ・バンは、彼がデザインしたブランパン同様、針とインデックスの関係が完璧だ。取材当時で比肩したのは、クロノスイス、A.ランゲ&ゾーネぐらいだろうか。
――ビッグ・バンは、あなたの時計づくりの集大成だと思っていますが。
「その通りだよ。1975年にビジネスをはじめて、ウブロのCEOに就任したときには約30年の経験があった。ビッグ・バンとは、私の30年のノウハウの集大成だね」
――その結果が、インビジブル・ビジビリティと、立体的な造形ですか?
「加えるとサンドイッチ構造も、だ」
――オールブラックのあと、サイズの大きな「ビッグ・バン キング」を出しましたね? これはあらかじめ意図していたものですか?
「05年の完成品を見て、大きなサイズと小さなサイズを出すべきだと思った。でも、製品を紹介するのはいささか早すぎたね」
続いて彼は、驚くべきことを漏らした。彼は再びビッグ・バンのケースを描き始めた。