1957年にオメガ初の本格的なダイバーズウォッチとして誕生した「シーマスター300」。直接の系譜が70年代に途絶えた後も、同等のスペックを受け継ぐ後継機は、すべてプロフェッショナルユースを前提とした飽和潜水仕様として開発されてきた。しかし2014年に、ファーストの意匠そのままに復刻を果たした“新生シーマスター 300”は飽和潜水に対応しない反面、“超耐磁”という現代に即した実用性と、卓抜した外装を備えたラグジュアリースポーツウォッチに生まれ変わった。

広田雅将:取材・文 吉江正倫:写真
[連載第32回/クロノス日本版 2016年3月号初出]

SEAMASTER 300 [CK2913]
シーマスターの名を冠した初のダイバーズモデル

シーマスター300 [Ref.CK2913-2]
オメガ初のプロフェッショナル向けダイバーズウォッチ。ニトリル製のOリング、ナイアス高耐圧リュウズ、そして変形しにくいアーマードガラスにより20気圧の防水性能を誇った。自動巻き(Cal.28SC/Cal.501)。20石。1万9800振動/時。SS(直径39mm)。発表当時の価格は360スイスフラン。参考商品。撮影協力:ケアーズ Tel.03-3635-7667

 1950年代以降、各社から防水性能を強化したダイバーズウォッチが数多くリリースされた。ゾディアック「シーウルフ」、ブランパン「フィフティファゾムス」、そしてロレックス「サブマリーナ」などだ。48年に防水時計のシーマスターを発表したオメガも、各社への対抗上、より本格的なダイバーズウォッチを開発する必要に迫られた。57年に登場したのが、20気圧の防水性能と、高度3万2000mまでの対気圧性能を持つ「シーマスター300」(CK2913)であった。ちなみに当初は、100m防水(=300フィート防水)で企画されていたらしい。しかし最大のコンペティターであるロレックスのサブマリーナが200m防水になったことに対応して、20気圧防水に改められたそうだ。

 満を持しての発表とあって、オメガはこの新しいダイバーズウォッチに過剰ともいえるほどの防水性を持たせた。ニトリル製のOリングと、ねじ込み式の裏ブタで防水性能を与える手法は、既存のシーマスターに同じ。しかし防水性能を改善したナイアス高耐圧リュウズが採用された他、ムーブメントも分厚いスペーサーを介してケースに据え付けられた。2ピースのケースに回転ベゼルを加える構造は、シーウルフやサブマリーナに倣ったものだが、プラスティック製の風防は、分厚い「アーマードガラス」に変更され、かつ分厚い金属製のリングを介してケースに固定する独特な手法を採った。

 ライバルを凌駕することを目指したシーマスター300。狙い通りその性能は卓越していたが、ケースの構造が大がかりになったことは否めない。以降、オメガはスマートな防水ケースの開発と、ケーシングのノウハウを蓄積。それは60年代以降、シーマスターのバリエーション増加という形で、オメガに福音をもたらすことになった。

(左上)両方向の回転ベゼル。金属製のリングに固定されたアーマードガラスの周囲を、プラスティック製のベゼルリングが囲んでいる。アーマードガラスは、ケースの裏側からクランプキーでねじ込んで固定される。この手間のかかるケースがシーマスター300の特徴だった。第3世代以降、回転ベゼルにはクリック機構が備わったが、このモデルでは未装備。(右上)オメガの品番では7749と呼ばれるブラックラッカー仕上げの文字盤。色の食い付きを良くするために表面を荒らすのはこの時代の定石だ。文字盤はパネライのような2層構造で、下層に夜光塗料が施されている。(中)側面を大きく絞ったケースサイド。筆者の知る限り、初期シーマスター300のケースはユグナン・フレール製、62年の第3世代以降は、多くがセントラル・ボワテ製のケースを備えていた。このモデルもケースはユグナンによるもの。(左下)シーホースが刻印された裏ブタ。ブレスレットはセミエクステンション付きの7077、エンドピースは9番である。(右下)第1世代、第2世代に共通するシンプルなラグ。あくまで筆者の私見だが、オメガのケースはセントラル・ボワテとの取引が増えて以降、より複雑になった印象を受ける。