現行ウブロのベーシックレンジを支える
〝第2の基幹コレクション〟へ
2010年以降、ウブロは注意深く、薄型化の方向にも舵を切ったその役割を担ったのが、かつてエントリーと見なされてきたクラシックコレクションである。かつては自社製ムーブメントも、立体的なケースも持たなかったこのコレクションが、なぜこうした重責を担えたのか? その理由は、ビバー一流のモディフィケーションにあった。
2011年初出。基本的な構成は不変だが、インデックスが多面体に、針は肉抜きされていないシンプルなものに変更された。自動巻き(Cal. HUB1143)。59石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18Kキングゴールド。5気圧防水。327万円。
ビッグ・バンとクラシック・フュージョンの違いは何か? ウブロが説明するように、最大の違いはケースである。複数の部材をレイヤーのように重ねるビッグ・バンと違い、クラシック・フュージョンは、鍛造で成形した3ピース(ベゼルとケースの間に挟む「耳」を含めれば4ピース)ケースを持つ。鍛造で作る以上、ケース厚を増すのは難しく、当然の帰結として、クラシックは薄い時計に留まらざるを得なかった。現行モデルを見ても、搭載するムーブメントは薄いものが多くを占める。
ビバーの各モデルに対する手の入れ方には、改めて感心させられる。インデックスやラグの立体感を増してデザインを進化させた後は、平たい文字盤を生かすべく、文字盤の仕上げに凝るようになったのである。自社製ムーブメントと立体感を強調するビッグ・バンに対して、現在のクラシック・フュージョンはドレスウォッチのような仕上げと性格を持つモデルへと変わったのである。事実、2008年モデルでスケルトン化された針は、10年に〝普通のバーハンド〟に改められ、ベゼルもケースと同素材になった。
もっとも、自社製ムーブメントや新素材に依存することなく、魅力を増すことに成功したのは、細部の詰め方が驚くほど厳密だったからである。いくつかの例を挙げてみよう。
まずは風防の進化。クラシック・フュージョンのリリースと同時期に、ウブロは風防へのコーティングを変更した。保護膜の青みを抑えることで、文字盤の発色をより鮮やかに見せることに成功したのである。以降、ウブロのプロダクト、とりわけクラシック・フュージョンの文字盤表現は多彩になった。16年に発表された限定モデル「クラシック・フュージョン ベルルッティ」は、文字盤に凝るクラシック・フュージョンを象徴するモデルと言えるだろう。
CLASSIC FUSION Size Chart
45mm
直径45mmの3針モデル。ストラップは表にアリゲーターを貼ったラバーである。これは2011年以降に採用されたもの。頑なにラバーを使うのも伝統か。自動巻き(Cal. HUB1112)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ti。5気圧防水。82万円。
45mm
「ビッグ・バン クラシック」(2008年)の流れを受け継ぐのが、同径の45mmモデルである。これは右モデルの素材違い。レーシンググレー文字盤の下地に施した強い筋目処理は、明るいチタンケースに一層映える。基本スペックは右モデルに同じ。Ti。116万円。
42mm
当初クラシック・フュージョンは45mmと42mmの2サイズでスタートした。ケースは2009年モデルと変わらないが、インデックスと針が大きく異なる。自動巻き(Cal.HUB1110)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Tiケース。77万円。
38mm
日本市場にマッチした38mmモデル。45mm、42mmモデルとの明らかな違いは、ストラップの幅。女性にも使われることを意識したためか、明らかに細くなっている。個人的には最も好ましい1本だ。自動巻き(Cal.HUB1110)。Tiケース。71万円。
33mm
初代のRef.1400とほぼ同じサイズ感を持つ33mmモデル。ストラップとケースの比率は、38mmモデルに同じ。シンプルなモデルだが、こういった細部への配慮がプロダクトとしての魅力を高める。クォーツ。Tiケース。60万円。
デイトモジュールにも工夫が凝らされている。クラシック・フュージョンのベーシックモデルは、ETAやその互換機であるセリタをベースに独自改良を加えたもの(ウブロ名はHUB1100系)を載せている。45㎜のケースに載せると、日付表示は文字盤の内側に寄ってしまう。対してウブロは、大きな日付表示機構を与えることで、この問題を解決した。当たり前のように思えるが、こういったモディファイを加えさせたのはウブロのみだ。コストが上がっても、ビバーは〝寄り目〟になることを許さなかったのである。もちろん針の長さも、ケース径に応じてすべて変えられている。なおかつてのウブロは、針の長さに対して、必ずしも厳密ではなかった。しかし現在のクラシック・フュージョンは、他メーカーは決して載せないであろう長い針を持つに至った。
加えてケースの完成度は、年々向上している。ウブロは製法を変えていないと説明するが、15年以降、クラシック・フュージョンのケースは明らかに磨きが改善された。とりわけ側面の歪みの小ささは、現行のロレックスに比肩する。つまり現行品では最も良いケースのひとつ、といってよい。
1980年のデビュー以来、さまざまな紆余曲折を経てきたクラシック。しかし現在のラインナップを見るに、このコレクションは、当初カルロ・クロッコが目指したところに回帰したといえるだろう。かつてアウグスト・ベローニはウブロの美点を端的にこう述べた。「(ウブロとは)シンプルで実用的かつ耐久性があり、スポーティでエレガントな時計である」。彼がこう記したのは約20年前のことだが、この説明は、現在のクラシック・フュージョンにもまったく当てはまる。ビバーがこのコレクションを次のように評価したのも合点がいく。曰く、「クラシックとは、ポルシェ911のような存在なのである」。
https://www.webchronos.net/features/62587/
https://www.webchronos.net/features/57870/
https://www.webchronos.net/features/38973/