2002年の発表後、ルイ・ヴィトンのアイコンとなったタンブール。文字盤工房や複雑時計工房の買収でマニュファクチュール化を果たした同社は、2017年に、タンブールのリニューアルを図った。15年にわたるタンブールの歩みから、同社の時計メーカーとしての成熟を見ていきたい。
広田雅将(本誌):取材・文
[連載第40回/クロノス日本版 2017年7月号初出]
TAMBOUR CHRONOGRAPH
2002年に始まった本格ウォッチメイキングの原点
現行タンブールの定番モデル。ムーブメントやケースサイズなど、基本デザインは2002年の第1作から不変だ。自動巻き。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径41.5mm)。100m防水。73万円。
2002年から本格的なウォッチメイキングを手掛けるルイ・ヴィトン。第1作が、太鼓を模したケースを持ったタンブールである。そのデザインは、1540年の携帯時計=ドラムクロックに由来するもの。持ち運び可能なドラムクロックは、機械式時計の黎明期に生まれた〝旅時計〟であり、旅をルーツに持つルイ・ヴィトンが、オマージュの対象に選んだのは当然だった。現在ヴァイスプレジデントを務めるハムディ・シャティはデザインの理由をこう説明する。「タンブールのアイデアは、ルイ・ヴィトンのデザイナーたちの思い付きから生まれた。彼らはひとつのブロックで構成される〝何か〟を作りたかった」。
いくつかのファーストモデルのうち、トーキングピースとなったのはゼニスベースのLV277。04年には「タンブール トゥールビヨン」を、05年には実用的な「タンブール レガッタ」と「タンブール ダイバーズ」を加えた。もっとも、本コレクションが質量ともに大きな飛躍を見せるのは、シャティがVPに就任した10年以降だろう。彼はラインナップを増やし、外装の質感をさらに改善した。とりわけ注目すべきはケースの磨きである。樽型のタンブールケースは側面の曲率が大きいため、鏡面仕上げを与えるのが難しい。04年モデルも鏡面の歪みは少なかったが、シャティの就任以降、ほぼ完全な鏡面が与えられた。文字盤も同様で、色自体は従来に同じだが、下地の筋目がはっきり出るようになった。些細な改良だが、以降のタンブールはいっそうの高級感を持つに至っている。
写真のモデルは、現行の「オトマティック クロノグラフ」である。02年初出の第1作に比べてケースはより洗練され、インデックスなども細身に仕立てられた。同じように見えて、大きく変わっているタンブール。以降は、その歴史と進化を振り返ってみたい。