2001年のバーゼル・フェアで発表された「フリーク」ほど、今の機械式時計に影響を与えたモデルはないだろう。マニュファクチュール化を目指していたロルフ・シュニーダーはブレゲ賞を得たセントラルカルーセルの量産化を企図。その中で出会ったシリシウムの技術は、以降、時計産業の在り方を大きく変えることとなる。

広田雅将:取材・文 吉江正倫:写真
[連載第53回/クロノス日本版 2019年9月号初出]


2001年の衝撃をそのまま継承する手巻きフリーク

フリーク アウト

フリーク アウト 2017年に発表された「イノヴィジョン 2」のスタイルを取り入れた最新作。18Kケースを持つクルーザーの兄弟機である。手巻き(Cal. UN-205)。19石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約7日間。 Ti×SS(直径45mm)。30m防水。558万円。

  現代のトレンドであるシリシウム素材、新型脱進機、ムーブメントを見せるデザイン。これらをさかのぼると、すべて、ひとつの時計にたどり着く。2001年のバーゼル・フェア(現バーゼルワールド)でお披露目された、センターカルーセルの「フリーク」だ。強いて加えるならば、巨大な回転体を回す設計も、本作以降に広まったものだった。21世紀のモダンな機械式時計で、フリークの影響を受けなかった時計はないだろう。

デュアル ユリス脱進機
デュアル ユリス脱進機
(左)それ自体が分針の役目を果たす輪列。中空構造になっており、地板側のベアリングで固定される。輪列を支える受けが、錨の形状になっていることに注目。
(右)最新版のクルーザーとアウトは、2005年に改良されたデュアル ユリス脱進機を採用する。01年モデルの採用したデュアル ダイレクトと設計は異なるが、32度という低い拘束角はほとんど変わらない。設計に携わった副社長のピエール・ギガックス曰く「この脱進機の大きなメリットは、駆動効率よりも低い拘束角がもたらす高い等時性にある」。

ケースサイド。直径 45mm、厚さ13mmとかなり大ぶりだが、軽いチタンを使うほか、 ラグを短く切ったため装着感は快適だ。なお、オリジナルのフリーク同様、ベゼルによる時間合わせと、裏蓋全体による巻き上げは同じである。

 フリークのアイデアを考えついたのは、現在、カルティエでR&D部門の責任者を務めるキャロル・フォレスティエ=カザピだった。1軸のトゥールビヨンまたはカルーセルを作ろうと思った彼女は、そのアイデアを設計に起こし、プロトタイプを完成させた。たまたま雑誌でブレゲ賞の応募記事を見たカザピは、設計図と出来上がったムーブメントを出展し、97年の「ブレゲ250周年賞」を獲得した。

 カザピの「センターカルーセル」に目を付けたユリス・ナルダンCEOのロルフ・シュニーダーは、このアイデアを買い取り、商品化を進めさせた。粗削りのプロトタイプを設計し直したのは、かのルードヴィヒ・エクスリン、そして製品化とシリシウム素材の採用を決めたのは、副社長のピエール・ギガックスだった。時計業界を見渡しても、これほど豪華な人たちが携わった時計は、他に「ランゲ 1」があるのみだ。

(左)フリークの直系であることを示すのが、裏側全面を覆う巨大な主ゼンマイ。長いパワーリザーブを与えるべく、ルードヴィヒ・エクスリンは、ムーブメントの裏側にゼンマイを置き、それが時分針と一体化したムーブメントを回転させるという構成を考えた。非常に強いゼンマイを載せているが、巻き上げは軽快である。
(右)ベゼルの誤作動を防ぐためのロック。爪を持ち上げるとロックが外れ、ベゼルが自由回転する。

 試行錯誤を経て完成した完成品に、シュニーダーは、ややもするとネガティブな印象を与える「フリーク」という名称を与えた。それから約20年。今やフリークは、ユリス・ナルダンのアイコンというだけでなく、同社の技術的なテストヘッドへと成長を遂げた。その定番モデルが、手巻きの「フリーク アウト」だ。基本的なデザインは初代フリークに同じ。しかし、仕上げはもちろん、性能は大幅に向上している。

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