1952年に発表されたオメガのコンステレーションはわずか10年でスイス時計の代名詞的存在となった。名声をもたらした高精度に加えて、薄さとデザインの追求はコンステレーションに多様さをもたらすこととなった。82年のマンハッタンを経て、今に至る道のりをムーブメント、薄さ、デザインの観点から振り返ってみたい。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年9月号初出]
1952年に誕生したリストクロノメーターの金字塔
自動巻きの開発競争で遅れを取っていたオメガは、1948年のセンテナリー以降、急速に巻き返しを図った。その方向性を決定づけたのが、1952年発表の自動巻きクロノメーター、コンステレーションである。自動巻きを刷新し続けた1960年代初頭、コンステレーションは実用時計としての完成を見た。
オメガの3代目社長を務めたポール=エミール・ブランはこう語った。「人々が、毎日手でゼンマイを巻くことを忘れるほど怠惰ならば、私たちは時計作りをやめるべきだ」。自動巻きに懐疑的なブランは、かのジョン・ハーウッドが自動巻きの製品化を持ちかけた際も拒絶したという。
しかし、他社の自動巻きが支持されるようになると、オメガの技術者たちとセールス部門は、自動巻きの必要性を痛感するようになった。1942年にオメガに加わったシャルル・ペルゴーは、アンリ・ゲルバーらと共同で自動巻きの開発に取り組んだ。自動巻きのベースに選ばれたのは、小径のキャリバー23.4。彼らはこの上に、爪でゼンマイを巻き上げるラチェット式の自動巻き機構を被せ、ハーフローターの自動巻きに仕立て直したのである。これは他社も採用する手法だったが、小さなベースムーブメントの精度を改善すべく、振動数を1万9800振動/時に高めたのが違いだった。完成したのが、オメガ初の自動巻きムーブメントとなる、キャリバー330(30.10/直径30mm)と、小径のキャリバー340(28.10/直径28mm)だった。
48年、オメガは創立100周年を記念して「センテナリー」をリリースした。搭載されたのは、キャリバー330または340のクロノメーター版。おそらく、ブランが否定的だったためか、このモデルはあくまで限定生産でしかなかった。しかし、セールス部門はこの高精度機の量産化を強く希望した。そこで誕生したのが、センテナリーと同じ自動巻きを載せたクロノメーターの「コンステレーション」である。52年のことだった。センテナリーとの明らかな違いは、搭載するムーブメントがスモールセコンドではなく、センターセコンド版のキャリバー350系(キャリバー28.10 RA SC)に置き換わったことだった。
このモデルがセールス部門の主導で生まれたことは、命名のいきさつからも想像できる。オメガの資料に従うと、コンステレーションという名前は、オメガのイタリア代理店である「カルロ・デ・マーチ」の責任者であったブルーノ・パッソーニが、オメガのセールスマネージャーを務めるアドルフ・バレに提案したものだったと言われている。
いわば量産型のセンテナリーだったコンステレーション。仮にエミール・ブランがオメガに君臨し続けていたら、このモデルはディスコンになったかもしれない。しかし、ブランの後継者たちは、彼よりもずっと柔軟だった。コンステレーションの謳い文句である、自動巻きムーブメントと高精度が、やがて大きな価値を持つと理解していたのである。
60年代後半まで、コンステレーションの歩みとは、オメガ自動巻きの進化と同義語であった。42年に開発された330/340系は、センターセコンドの350系に進化し、以降もオメガの屋台骨であり続けた。しかし、ハーフローターを持つこの自動巻きは、コンステレーションの発表時点でさえ、お世辞にも新しい設計とは言えなかった。対してオメガは、55年にまったく新しい自動巻きの470/490/500系をリリースした。設計者はエドゥワルト・シュワール。この両方向巻き上げのスイッチングロッカーを持つ全回転ローターの自動巻きにより、コンステレーションはようやく近代的な自動巻きクロノメーターへと脱皮したのである。コンステレーションが世界的な名声を得るのは、500系自動巻きを搭載した、50年代後半以降と言ってよいだろう。
新しい500系自動巻きは、大きくなったベースムーブメントにより、理論上はより高い精度を持っていた。また、ローターが全回転となったため、ハーフローターに付きものの不快な衝撃も解消された。しかし、コンパクトな切り替え装置が左右に首を振ることで、巻き上げ方向を整流するスイッチングロッカーは、自動巻きの効率が低い。オメガはローターを厚くして対処したが、各社が自動巻きの薄型化を図るようになると、この厚い自動巻きは、たちまち時代遅れとなった。
オメガ自動巻きの決定版が、58年に発表された550系である。直径は27.9mmと、500系にほぼ同じ。しかし厚さは1mm減の4.5mmとなった。設計者はマルク・コロンボとアンリ・ゲルバー。薄型化に成功した理由は、自動巻き機構をスイッチングロッカーからコンパクトな上下重ねのリバーサーに変更し、それをベースムーブメントに押し込んだためである。この時代、他社の自動巻きは、IWCにせよロレックスにせよ、ベースムーブメント+自動巻きモジュールという構成を持っていた。これらに比べると、輪列と自動巻きが完全に同じ階層に置かれたわけではないものの、設計の先進性は明らかだった。また、テンワからチラネジを廃した結果、テンワの慣性モーメントはさらに拡大し、コンステレーションの精度はいっそう向上した。後にこのムーブメントは、日付表示を加えた決定版の560系と、日付+曜日表示を加えた750系に進化する。
薄い550/560系の採用により、オメガはコンステレーションの実用性をいっそう改善した。シーマスターから転用したねじ込み式の裏蓋と、見返しに金属リングを加えて気密性を高めた新しい風防は、ケースの厚みを変えることなく、防水性能を大幅に高めることに成功したのである。
550/560系を載せた60年代初頭の「コンステレーションⅡ」をもって、コンステレーションは時計としてひと通りの完成を見た、といってよい。以降のオメガは、コンステレーションの次なる方向性を模索するようになる。具体的には、薄型化と多様なデザイン性の追求である。
GLOBEMASTER MASTER CHRONOMETER
初代コンステレーションの意匠を引き継ぐ
世界初のマスター クロノメーター
初代コンステレーションの意匠を受け継いだ新コレクション。ムーブメントには、Cal.8500をマスター クロノメーター化したCal.8901を搭載する。自動巻き。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KYG(直径39mm)。100m防水。219万円。
1952年に発表された高精度機のコンステレーションは、明らかに北米市場を意識したモデルだった。防水ケースや、センターセコンドは当時のアメリカが強く望んだものである。しかし、肝心の北米市場でその象徴的な名称は使えなかった。すでに他社が登録していたためである。対してオメガのアメリカ代理店は「グローブマスター」という名称で新しいクロノメーターを販売せざるを得なかった。名称に関する問題は56年には解消したものの、以降もオメガは、北米市場向けの一部モデルにグローブマスターという名前を用い続けた。
2015年、オメガは1万5000ガウスの耐磁性能に加えて、0秒から+5秒以内と、一般的なC.O.S.C.認定クロノメーターより厳格な精度基準を持つマスター クロノメーター規格を導入した。数あるモデルの中から、オメガが初めてこの規格を与えたのは、新コレクションのグローブマスターだった。第1号機のリリースは15年10月21日だった。
コンステレーションという名称こそ強調されていなかったが、オメガはこのモデルを正統派の後継機と見なしていたに違いない。事実、そのデザインは往年のコンステレーションに極めて似ていたうえ、文字盤にはコンステレーションを示す星、そして裏蓋にはお馴染みの天文台レリーフを象ったメダリオンが施されていたのである。あえてコンステレーションの名前を控えめにしたのは、1982年にリリースされた“マンハッタン”シリーズとのデザイン的な混同を避けるためだろう。
しかしこのモデルは、名称の由来や伝統的なデザイン、そしてきわめて高精度なムーブメントを含めて、正真のコンステレーション後継機と言って良い。オメガは、コンステレーション=高精度なクロノメーターという伝統を、“新しいグローブマスター”でも高らかに謳い上げたのである。
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