オメガ/コンステレーション Part.2

1952年に発表されたオメガのコンステレーションはわずか10年でスイス時計の代名詞的存在となった。名声をもたらした高精度に加えて、薄さとデザインの追求はコンステレーションに多様さをもたらすこととなった。82年のマンハッタンを経て、今に至る道のりをムーブメント、薄さ、デザインの観点から振り返ってみたい。

コンステレーション

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年9月号初出]


デザインの百花繚乱から
不朽の名作“マンハッタン”へ

今やコンステレーションを象徴する存在となった、4本の爪を持つ“マンハッタン”。しかし1960年代以降、オメガはこのモデルに至るまで多くの試行錯誤を繰り返してきた。いかにしてコンステレーションの意匠はマンハッタンに至ったのか。その過程を振り返りたい。

1969年の新しいコンステレーションは、ケースと一体化したインテグレーテッドブレスレットを備えていた。これは翌70年の広告。「スティールはリアル、ゴールドは大胆」と記されている。72年には「タイム・イン・ゴールド」と銘打った広告も展開した。

「コンステレーション メガクォーツ」の広告ビジュアル(1975年)。超高精度機のためか、外装のデザインではなく、ムーブメントに使われる回路の美しさを語っている。非常に特徴的な時計だが、高精度の代償として、それ以前のモデルが持っていた薄さは損なわれた。

 1958年のキャリバー550系でさらに進化したコンステレーション。61年には、日付表示を備えたキャリバー560系の追加で、高精度な自動巻きクロノメーターとしての完成を見た。今もって、561やその後継機である564を搭載したコンステレーションは、機械式腕時計黄金期を象徴する傑作である。

 以降、オメガはコンステレーションをふたつの方向性で進化させていく。それが薄さとデザインである。薄い550/560系により、オメガは時計デザインの幅を大きく広げた。その初めての試みが、通称Cラインケースを持つ「コンステレーションⅢ」である。リリースは64年の12月。近年になって、このケースをデザインしたのはジェラルド・ジェンタだとオメガ側も明言するようになった。

 ムーブメントが薄くなった結果、コンステレーションⅡはシーマスターで使われていた、金属製の見返しリングで風防を支える防水構造を本格的に採用できた。これを用いて、ケースをベゼルレスに進化させたのが、CラインのコンステレーションⅢであった。今までにないデザインは世界中で歓迎され、オメガはデザインへの傾倒を強めることとなった。

コンステレーション クリスタル

マンハッタンの祖にあたるモデルが、1977年に発表されたコンステレーション クリスタル。ラウンド型のケースに8角形のベゼルを組み合わせた、きわめてユニークなデザインを持っていた。搭載するのは、オメガが開発した、薄型クォーツのCal.1340系である。

 65年、オメガはシャルル=ルイ・ブランの勤続25周年を祝って、極薄のコンステレーションを製作した。搭載されたのは、厚さ3mmのキャリバー711。その設計は550/560系に似ていたが、自動巻き機構と輪列を地板側に置くことで、センターセコンド自動巻きとは思えない薄さを実現していた。この構成は、翌年の「シーマスター デ・ヴィル」コレクションにも採用されることとなる。

 66年の「コンステレーション・ウルトラフラット」は、コンステレーションの特徴であった高精度とクロノメーターを廃して、あえて薄さを追求した試みである。搭載されたのはキャリバー700こと、フレデリック・ピゲ製のキャリバー21(手巻き)。コンステレーションらしからぬモデルではあったが、薄型化の方向性に魅力を感じたオメガは、71年にも後継機と覚しきモデルをリリースした。

 さまざまなデザインを盛り込むようになったコンステレーション。中でもいっそう際立った存在が、69年製のブレスレットモデルだった。設計者は、55〜81年までクリエーション部門の責任者を務めたピエール・モイナ。ケースとブレスレットを3点で固定することで、このモデルのケースとブレスレットは完全に統合されていた。それ以前にも、インテグレーテッドブレスレットを持つモデルは存在していた。しかし、いわゆるラグジュアリースポーツモデルの先駆けとなるブレスレットは、本作が初だろう。余談になるが、72年にロイヤル オークをデザインしたジェラルド・ジェンタは、このモデルの存在を意識していたに違いない。ロイヤル オークのブレスレットが3点ではなく2点で固定されているのは、3点構造で支える、オメガの特許(CH405170、65年9月15日公開)を回避するためだったのだろう。あるいはひょっとして、このモデル自体をジェンタが手掛けた可能性もある。

コンステレーション“マンハッタン”

コンステレーション“マンハッタン”[第1世代/1982~]
クリスタルの実質的な後継機が、より薄型のケースを持つマンハッタンである。蒸着で色を付けた風防を、4本の爪で固定する構造を持つ。また、69年に採用されたインテグレーテッドブレスレットも使われている。クォーツ(Cal.1422/1431)。SS(直径33mm)。参考商品。

 このモデルが搭載したのは、まったく新しい自動巻きの1000系だった。直径は550/560に同じ27.9mm。しかし、厚さが4.25mmとなったほか、2万8800振動/時という振動数は、新しいコンステレーションの携帯精度をいっそう改善した。60年代後半にオメガはついに、デザインと薄さに加えて、精度でもコンステレーションを完成させたのである。72年の広告はそんなオメガの気分をよく表している。「オメガは、オメガのクロノメーターを普通の時計以上の存在とみなしている。内側に収められたクロノメーターに同じく、バランスが取れてスムーズな、明らかに違うデザインを持つべきだろう。それが、オメガのコンステレーションが、ケースからブレスレット、そして裏蓋にかけて流れるようなデザインを持つ理由だ」。

 もっとも70年代に入ると、オメガのデザイナーたちは方向転換を強いられるようになる。70年にリリースされた音叉ムーブメント(キャリバー1250)やクォーツムーブメント(ベータ21)は、機械式のキャリバー1000系とは比較にならないほど厚かったのである。風防を立体的にすることで、ケースを薄く見せる手法はなお有用だったが、それは当時でも時代遅れと見なされつつあった。また消費者や販売店は、簡単に傷がつく立体的なプラスティック風防を好まなくなっていたのだ。

半月状の造形を持つケースと4本の爪、そしてブレスレットを強調した1983年の広告。「4本の爪が防水性を確保する、フォルムと機能は究極の融合を果たした」と記されている。1970年代のオメガは、デザインと精度を同時に語らなかったが、本作以降、その方針は変わることになる。

 72年に発表された「コンステレーション メガクォーツ」は、そんな時代背景を反映したデザインのモデルだ。ケースはベゼルを省いた、気密性の高い2ピース構造で、風防は割れにくいサファイアクリスタル製。文字盤にアベンチュリン素材をあしらったのは、造形面での工夫をしにくかったためだろう。事実、発表時の広告には、デザインに関する言及がまったくなかったのである。

 精度を音叉やクォーツモデルに委ねる一方で、オメガは薄さとデザインを、機械式のモデルに持たせようと考えた。65年にリリースされたキャリバー710系と68年の1000系は、精度こそクォーツに譲ったが、黎明期のオメガクォーツにはないアドバンテージ、つまり薄さを持っていた。精度面では音叉やクォーツに劣る以上、クロノメーターのタイトルは意味がない。結果、70年代以降の機械式コンステレーションは、正確さではなく、ケースの薄さとデザインを強調するようになったのである。好例が73年にリリースされた、セラミックス製のベゼルを持つコンステレーションだろう。青、黒、スレートグレー、そして青緑が用意された4色のセラミックベゼルは、この時代のオメガを象徴するデザインの百花繚乱、あるいは試行錯誤を表している。

コンステレーション ’95

コンステレーション ’95 [第2世代/1995~]
クォーツだけでなく、自動巻きも搭載するようになった第2世代のマンハッタン。ベゼルと風防が立体的になったのが大きな違いである。また防水性能は50mに向上した。写真は永久カレンダーを搭載した、1997年製のクォーツモデル。Cal.1680。SS。参考商品。

 60年代のオメガが追求した、薄さとデザイン、そして高精度の融合。それを再び可能にしたのが、77年にリリースされたキャリバー1340系だった。この厚さたった4.2mmしかない新しいクォーツムーブメントにより、オメガのデザイナーたちは、ようやく、デザインの自由度を取り戻したのである。

 このキャリバー1340を搭載したのが、同年にリリースされた「コンステレーションクロノメーター クォーツ クリスタル」である。薄型のケースはユニークなデザインを持つだけでなく、69年以降のアイコンとなった、インテグレートブレスレットが加えられた。

 コンステレーションの特徴となったベゼルを留める4本の爪。これを初めて採用したのは、82年の「コンステレーション〝マンハッタン〞」であった。クリスタルの後継機にあたる本作は、伝統ある自社製ムーブメントではなく、ETAとの共同開発であるキャリバー1422を搭載していた。翌年、このムーブメントはより電池寿命の長い、キャリバー1432こと、ETA255系に置き換わった。その厚さは電池を含めてもわずか2.15mm。コンステレーションは自社製ムーブメントの搭載を放棄した代わりに、再び薄さというアドバンテージを手にしたのである。

コンステレーション “ダブルイーグル”

コンステレーション “ダブルイーグル” [第3世代/2003~]
コーアクシャル脱進機のCal.2500系を搭載する、通称“ダブルイーグル”と呼ばれた2003年発表の第3世代。併せて、ベゼルや爪のデザインが誇張された。このデザインは、第4世代に継承されることになる。自動巻き。SS×18KYG(直径38mm)。100m防水。参考商品。
コンステレーション ’09

コンステレーション ’09 [第4世代/2009~]
2009年に発表されたのが第4世代である。前作の造形を継承しつつも、仕上げが大幅に改善された。本作から、女性用としての打ち出しをいっそう強めた結果、小径モデルが強化された。クォーツ(Cal.1376)。SS×18Kセドナゴールド(直径27mm)。30m防水。参考商品。

 なおケースのサイドから伸びる4本の爪は、実用上の理由で加えられたものである。デザイナーのキャロル・ディティシェイムはサファイアクリスタル風防を拡大し、その裏側から蒸着加工でローマ数字をプリントした。そして、風防を強調すべく、ベゼルをギリギリまで絞ったのである。しかし、この構成では防水性能を持たせられない。そこで、プロダクトディレクターだったピエール-アンドレ・アレンが、4本の爪でサファイア風防を支えるというアイデアを提案したとされる。

 もっとも、このデザインは少々トリッキー過ぎたようだ。後に追加された自動巻き版などは、金属製のベゼルにパッキンで風防を固定するという標準的な構成に改められた。

 95年にリリースされた第2世代のマンハッタンは、クォーツだけでなく、機械式ムーブメントを強調したモデルである。自動巻きモデルが搭載するのはETA2892A2の自動巻き機構を改良したキャリバー1120。ムーブメントが厚くなった結果、ベゼルと風防はドーム状に成形され、時計全体の立体感は増した。このモデルは世界的な大ヒット作となり、再びコンステレーションに注目が集まることとなった。4本の爪とインテグレートブレスレットを持つコンステレーション“マンハッタン”。オメガは長い間、このモデルを女性用としてより強く打ち出してきたが、2020年に発表された第5世代で、再び男性向けのコレクションを充実させてきた。基本的なデザインは第4世代に変わらないように見えるが、この10年で大きく変わったオメガらしく、時計の完成度はいっそう高まった。

 まずはムーブメント。15年のグローブマスターで初めて採用された、マスター クロノメーター規格に準じたものが搭載された。また、60年代のCラインよろしく、ミドルケースが絞られたほか、ケースとブレスレットの稜線には面取りが施されている。また、加工精度の向上により4本の爪は、いっそうケースに密着した形状となった。風防の固定方法も秀逸だ。斜めから見ても、風防とベゼルの間に防水パッキンが見えないのは、パッキンに透明なテフゼル(金属ベゼル用)または灰色のハイトレル(セラミックベゼル用)を使い、ベゼルの内側の切り欠きに、パッキンを格納したためである。現代のオメガを象徴する、第5世代のマッハッタン。Part.3では、その中でも最も先鋭的な、セラミックス製のベゼルを備えた最新作を取り上げたい。

コンステレーション“マンハッタン”
コンステレーション“マンハッタン”
コンステレーション“マンハッタン”
4th GENERATION [2009 ~]
第3世代の造形をより立体的に改めたのが、2009年にリリースされた第4世代のマンハッタン。ケースサイズが24mm、27mm、31mm、35mmと38mmに増えた。(上)第3世代の造形を受け継いだケース。ベゼル上のローマ数字は相変わらず大胆だ。(中)ケースを固定するように取り付けられた4本の爪。ミドルケースを太らせたのは、立体感を持たせるためか。(下)1982年以降受け継がれるインテグレーテッドブレスレット。構造は同じだが、左右のガタは抑えられた。
コンステレーション“マンハッタン”
コンステレーション“マンハッタン”
コンステレーション“マンハッタン”
5th GENERATION [2019 ~]
2019~20年にかけて順次リリースされていった第5世代は、女性向けの25mm、28mm、29mm、男性向けの36mm、39mm、41mmと、さらにケースサイズを増やした。また機械式のムーブメントはマスター クロノメーターに改められた。(上)細身になったベゼルとローマ数字。ベゼルとケースの間にタメを持たせて、立体感を強調している。(中)4本の爪は、よりいっそうケースとフィットするようになった。(下)中ゴマが追加されたブレスレット。バックルには2mmのエクステンションが備わる。



Contact info: オメガお客様センター Tel.03-5952-4400


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