ブレゲ/クラシック トゥールビヨン Part.1

1795年にアブラアン-ルイ・ブレゲが発明したトゥールビヨンは、時計師たちの夢の機構だった。しかし、ブレゲ本人は35個の懐中時計を製作したのみであり、それが腕時計に搭載されるまでには、実に2世紀近くの年月を要した。腕時計トゥールビヨンを実現させたのはスウォッチ グループである。当時の総帥だった故ニコラス G.ハイエックは、驚くべき情熱で、ブレゲにトゥールビヨンの伝統を取り戻したのである。

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2020年11月号初出]


CLASSIQUE TOURBILLON 3357
ヌーヴェル・レマニアの血を継ぐ
あらゆる〝腕時計トゥールビヨン〟の原点

クラシック トゥールビヨン 3357

クラシック トゥールビヨン 3357
1988年に発表された3350の後継機が本作。サイズを含めてほぼ変更されることなくラインナップに残る。時計業界の至宝。手巻き(Cal.581T)。21石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径35mm、厚さ9.15mm)。30m防水。1112万円。

 1988年に発表されたブレゲの「クラシック トゥールビヨン 3350」(正式発表は90年のバーゼル・フェア)は、トゥールビヨンの復興を高らかに謳い上げたモデルだった。それに先立つ84年には、フランク ミュラーが腕時計トゥールビヨンを、86年にはオーデマ ピゲが自動巻きトゥールビヨンを発表していたが、前者は時分針の分かれたレギュレーター、後者はケースと地板を共有するという野心的な設計を持っていた。いずれも愛好家の評価は高かったが、一般的とは言いがたかった。

 対してブレゲの3350は、6時位置にトゥールビヨンキャリッジを持ち、しかも時分針を同軸に持つ古典的なレイアウトを備えるオーソドックスなトゥールビヨンだった。ムーブメントを供給したのはヌーヴェル・レマニア(現ブレゲ マニュファクチュール)。腕時計トゥールビヨンの基本的な設計は、本作で完成したといって過言ではない。事実、その設計は、90年代以降に、多くのメーカーが模倣するようになる。

 以降のブレゲは、幾度か経営母体を変えたが、今なお腕時計トゥールビヨンの原点ともいうべき本作をラインナップに残し続けている。現行モデルは改良版の3357。違いはリュウズにBマークが入り、ムーブメントの彫金が変更され、緩急装置がフリースプラングに置き換わった程度だ。また、最新作は3時位置に“SWISS GUILOCCHE MAIN”が施されたのが明らかな違いだ。それ以外は、直径35mmという控えめなサイズもオリジナルのままだし、ニヴァロックス製の巻き上げヒゲもそのまま残されている。優れた仕上げも同様だ。

 腕時計トゥールビヨンの原点にしてブレゲのアイコンである3350とその後継機である3357。このモデルがまだ入手可能というのは、奇跡と言ってよい。これぞ、ブレゲのトゥールビヨンではないか。

クラシック トゥールビヨン 3357

(右)ブレゲならではのギヨシェ文字盤。ファーストモデルの3350はスターンクリエーション製だったが、現在はブレゲ製。表面の仕上げがわずかに細かくなったほか、3時位置に“SWISS GUILOCCHEMAIN”のロゴが入る。インデックスの太さも3350と同じだ。(左)6時位置に見えるキャリッジ。3350と3357の初期型は緩急針付きだったが、現行モデルはフリースプラングに変更された。現行ブレゲとしては珍しく、ニヴァロックス製の巻き上げヒゲゼンマイを備えている。脱進機も古典的な鋼製だ。

クラシック トゥールビヨン 3357

9.15mmという薄さが、非常に魅力的なケースサイド。造形は3350と変わっていないが、工作技術の進歩を反映して、面の歪みはいっそう小さくなった。リュウズにBのマークがある点が、3350との有意な違いである。

クラシック トゥールビヨン 3357

(右)現代となっては珍しい、きわめて細いラグ。あえてモディファイを加えていないのは、伝統に対するブレゲの敬意か。(左)搭載されるCal.581Tも、3350からは大きく変わっておらず、振動数も1万8000振動/時のまま。明らかな違いは、地板に施された彫金の柄のみ。3350では一部に花柄が施されていたが、現行の3357では、全面が花模様に改められた。ムーブメントを含めて、今なお傑出したトゥールビヨンである。



Contact info: ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211


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