セイコー/キングセイコー Part.1

グランドセイコーとクラウンの間を埋める高級機としてリリースされた、初代キングセイコー。小径かつロービートという手巻きムーブメントはキングセイコーに大きな制約を与えたものの、1960年代を通して、このコレクションは大きく進化した。非常にユニークな成り立ちを持つキングセイコーの歴史を初号機から振り返りたい。

キングセイコー

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版2021年3月号初出]


KING SEIKO [1961]
第二精工舎亀戸工場が初めて手掛けた独自のセンターセコンドを改良

キングセイコー

キングセイコー
1961年9月に発売された初代モデル。グランドセイコーと比較して、より細く見えるベゼルやラグ、一方では極めて太いインデックスが与えられた。Ref.J14102E。手巻き。25石。1万8000振動/時。おそらく洋白+金張り(直径35mm)。防水。販売当時の価格1万5000円。

 1950年代半ばに、ほぼ完全な部品の互換性と高精度、そして大量生産体制を整えたセイコー。56年に発表された諏訪精工舎製の「マーベル」は、日本の時計の在り方を刷新した傑作だった。以降、セイコーの製造会社である諏訪精工舎(現セイコーエプソン)と第二精工舎(現セイコーウオッチ)は、競うように新モデルを開発。それに伴い、セイコーは時計の価格を細かく分け、そこに新モデルを投入するようになった。同社は60年12月に最高級時計の「グランドセイコー」をリリース。翌61年9月には、高級時計の「キングセイコー」を発売した。キングセイコーがどういう位置付けにあったかは、価格が示す通りだ。発売時の価格は1万5000円。これはグランドセイコーの2万5000円より安いが「クラウン・スペシャル」の1万円(すべて金張りケース)より高価というものだった。

 もっとも「クロノスの豪華版」として作られたキングセイコーは「グランドセイコーとともに同社(セイコー)が誇るセイコー腕時計の王様」(「国際時計通信」第2巻10号)だった。最初期型のケースは100ミクロンの金張り(後にSSも追加された)。さらに「クロノス」ベースの手巻きムーブメントは、初代グランドセイコーに準じた改良が施されていた。

 また、製造した第二精工舎は、グランドセイコーとは異なるキャラクターをキングセイコーに盛り込んだ。立体的なグランドセイコーに対して、キングセイコーでは薄さと平たさが強調されたのである。とりわけ、最初期モデルは秒針を極端に絞ることで、スイス製の薄型時計のようなデザインを持っていた。以降、キングセイコーは、セイコーを支える基幹コレクションのひとつに成長を遂げていく。良質だが、グランドセイコーほど高額ではないキングセイコーは、当時の日本人にうってつけだったのである。

キングセイコー

(右)キングセイコーを特徴付けるのがフラットな文字盤と、極端に太いインデックスである。直径25.6mm、厚さ4mmと小ぶりで薄いムーブメントを持つキングセイコーは、文字盤を平たく成形することに成功した。文字盤は強い筋目が施されたAD文字盤。前期と後期で印字などが異なる。なおこの個体は、リュウズを含めて完全なオリジナルだ。(左)最初期モデルの特徴が、きわめて細い秒針。また、平板さを強調するため、あえて先端は曲げられていない。理由は不明だが、すぐに標準的な秒針に変更された。

キングセイコー

薄さと平板さを強調したケースサイド。風防もグランドセイコーと異なり、きわめて角張ったものが与えられた。

キングセイコー

(右)初代キングセイコーは、ケースの違いによって前期型(J14102E)と後期型(15034)に分けられる。これはラグの細い前期型。金張りケースの素材はおそらく洋白で、ラグは後付けである。あくまで推測だが、細いラグの溶接が難しかったため、後期型のケースに変更されたのではないだろうか。(左)メダリオンを貼り付けた裏蓋。文字盤同様、メダルも2種類ある。面白いのは裏蓋の処理。丸く成形したグランドセイコーに対して、キングセイコーは周囲を絞り、ケースサイドを薄く見せようとしている。


KING SEIKO [1965]
通称KSKと呼ばれた秒針規制装置付きのバリエーション

キングセイコー KSK

キングセイコー/KSK
キングセイコー クロノメーターの機構を転用した廉価版。とはいえ、その性能は遜色なかった。Kは秒針規制を指す。1965年発売。手巻き(Cal.44A)。25石。1万8000振動/時。SSもしくは金張り(直径36.7mm)。防水。販売当時の定価は1万3500円(SS)。

 1961年に発表されたキングセイコーは、直径25.6mmという「小さなムーブメント」に高い精度を与えたものだった。しかし、基礎体力は、ムーブメントの大きなグランドセイコーに及ばない。対して第二精工舎は、基本設計はそのままに、ムーブメントのさらなる高精度化に着手。グランドセイコー同様のクロノメーター基準を満たした「キングセイコー クロノメーター」(1964年12月発売)に結実した。もっともこのモデルは高価に過ぎたのだろう。そのすぐ後に、セイコーは全く同じムーブメントを持つ廉価版の「キングセイコー」(通称KSK)を発表した。

 クロノメーターとその兄弟機であるKSKは、その後のキングセイコーの在り方を決めたモデルだった。デザインはグランドセイコーに近くなったが、ラグは一層太くされ、ユニークさが強調されるようになったのである。この流れは以降加速し、1960年代後半にはクッション型の変型ケースや、グラデーション文字盤、カットガラスなどが採用されるようになる。もっともKSK最大の売りは「K」という略称が示すように、秒針停止機能だった。リュウズを引いて秒針を止められる新しいキングセイコーは、機能の面でも、グランドセイコーに遜色ないレベルに達した、と言えるだろう。販売店向けの小冊子「SEIKOセールス」にも、KSKはこう書かれている。「入念な組み立て、調整の施された、キングセイコーは、秒針規制装置とあいまって、高い精度が身上の時計です」。

 もっとも、直径25.6mmで、1万8000振動/時の手巻きムーブメントに、それ以上の高精度を求めるのは難しかった。1968年に、第二精工舎は全く新しい手巻きムーブメントの45系をリリース。3万6000振動/時という振動数は、キングセイコーの精度を劇的に改善することとなる。

キングセイコー KSK

(右)「KSK」だけに見られるのが、12時位置のユニークなインデックス。単なるダイヤカットではなく、ライターやカメラのノブに同じく、刻み加工が施されている。セイコー曰く「ライターカット」。初代グランドセイコーと違って仕様違いはほとんどないが、筆者の見た限り、一度、文字盤上に施すクリアが変更されている。(左)初代キングセイコーから継承された、標準的な秒針。なお時分針は、グランドセイコーに同じく5面ダイヤカットを施したもの。マッシブな造形に合わせて、厚みも増やされた。もっとも生産性を考慮したのか、針のエッジはわずかに丸められた。

キングセイコー KSK

ケースサイド。太くなったラグと、ラグとケースサイドの間に設けられた「タメ」に注目。初代キングセイコーは薄くて平板な造形を持っていたが、2代目に当たるKSKでは、一転してメリハリのある造形となった。

キングセイコー KSK

(右)上面と斜面にザラツ研磨を施した多面体のラグ。ザラツ研磨に習熟したセイコーは、1960年代半ば以降、高級ラインにこの手法を多用するようになった。もっともカレンダー付きの通称「KSSK」では、一転して控えめなデザインに回帰した。(左)ステンレスケースが主となったKSKでは、ねじ込み式の裏蓋が採用された。裏蓋の周囲を絞るデザイン手法はファーストモデルに同じ。ケースを薄くするための配慮か。



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