セイコー/キングセイコー Part.3

グランドセイコーとクラウンの間を埋める高級機としてリリースされた、初代キングセイコー。小径かつロービートという手巻きムーブメントはキングセイコーに大きな制約を与えたものの、1960年代を通して、このコレクションは大きく進化した。非常にユニークな成り立ちを持つキングセイコーの歴史を初号機から振り返りたい。

キングセイコー

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版2021年3月号初出]


KING SEIKO [2021]
KSKのデザインをベースに復刻された
セイコー創業140周年記念モデル

キングセイコー

キングセイコー[SDKA001]
ついに復活を遂げたキングセイコー。モチーフには1965年の通称KSKが選ばれた。自動巻き(Cal.6L35)。26石。パワーリザーブ約45時間。SS(直径38.1mm、厚さ11.4mm)。5気圧防水。世界限定3000本。セイコーグローバルブランド コアショップ専用モデル。35万円。

 キングセイコー発表60周年を迎えた2021年、なんとキングセイコーが限定版ながらも復活を遂げた。前回この名前が市場をにぎわせたのは2000年のこと。「セイコーヒストリカルコレクション」として、56キングセイコーの復刻版が、2000本製作されたのである。

 今回リリースされたのは「キングセイコーKSK」の復刻版。確かに2000年モデルも完成度は高かったが、新作の出来栄えはさらに良い。外装の質感向上に取り組んできたセイコーは、新しいキングセイコーの復刻版にも際立った洗練をもたらしたのである。同社が復刻版に慣れている、というのも一因だが、まさか30万円台で、グランドセイコーに近い質感の時計を見るとは思ってもみなかった。

 個人的に歓迎すべきは、搭載された自動巻きのキャリバー6L35である。手巻きではなく自動巻きになってしまったが、このムーブメントはグランドセイコー用の9Sに比べると小さく薄い。そのキャラクターが、ちょうど60年前のキングセイコー用ムーブメントに被るのである。薄い6L35の採用は、結果としてこのモデルに、一層のキングセイコーらしさをもたらした、と言えそうだ。

 ちなみにセイコーが公称する精度はプラス15〜マイナス10秒以内と、グランドセイコーにははるかに及ばない。しかし、実際の数値はこれよりも良いし、その差もあえて言うと、50年前のグランドセイコーとキングセイコーの違いに似ている。

 キングセイコーファンのみならず、良質な実用時計を探している人たちにもお勧めできる新しいキングセイコー。もっとも問題がひとつだけある。限定数がわずか3000本。個人的には、この先に、キングセイコーのレギュラー化を強く期待したい。

キングセイコー

(右)12時位置に見えるのは、KSKのみが採用したライターカットのインデックス。2021年版は、刻みが細かくなったほか、エッジも一層明確に立っている。60年の進化を端的に示すポイントだ。なお復刻版は、文字盤に施す保護用のクリアもかなり厚い。加えて言うと、ボックス型サファイアクリスタル風防を支えるパッキンが全く見えない。レベルの低い復刻だとパッキンが見えてしまうが、丁寧に隠してあるのはさすが復刻に長けているセイコーだ。(左)時分針も進化した。デザインはオリジナルのKSKに同じだが、一層エッジが立てられた。斜面をわずかに浅くし、上面を広く取ったのは今風のモディファイだ。

キングセイコー

ケースサイド。自動巻きを載せたにもかかわらず、ケース厚は0.5mm増の11.4mmに留まった。厚みが増したことに対応して、ラグは下方に曲げられている。

キングセイコー

(右)多面カットが施されたラグも、忠実に再現された。もちろん、オリジナルに同じく、ラグの上面と斜面にはザラツ研磨が施される。ケースの厚みが増したためか、ラグの断面もわずかに厚くされている。(左)。裏蓋の刻印やロゴも、KSKを忠実に再現した。年代によって刻印は異なっており、これは65年モデルを再現したもの。幅が広く、エッチングが浅いという特徴を持つ。



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