2012年初出の「ブラックベイ」で時計業界に一石を投じたチューダー。プライスレンジ以上の外装を持つこのコレクションは自社製ムーブメントの採用でさらに魅力を増した。その進化をもたらしたのは、半世紀にもわたるチューダーのダイバーズウォッチへの取り組みだった。

ブラックベイ

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2021年9月号掲載記事]


BLACK BAY FIFTY-EIGHT BRONZE[Ref. M79012M]
新型クラスプを盛り込んだブロンズ最新作

ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ

ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ
直径39mmのフィフティ-エイトに追加されたフルブロンズモデル。趣味性と実用性の高度な両立である。自動巻き(Cal.MT5400)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。ブロンズ(直径39mm)。200m防水。チューダーブティック限定モデル。49万600円(税込み)。

 今でこそポピュラーになったブロンズケース。チューダーも2016年から、この経年変化する素材を採用し、広く人気を得た。もっとも、他社とチューダーのブロンズケースはそもそもの素材が違っていた。チューダーはあえてアルミを混ぜることで、経年変化を穏やかにしたのである。使い込んで緑青が吹いたブロンズケースは味があるが、吹きすぎるとシャツを汚してしまう。今でこそ他社もアルミを混ぜたブロンズケースを使うようになったが、最も早い採用例のひとつが、チューダーであった。

 そのブロンズモデルの最新作が、21年の「ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ」である。ケースは39mmと小ぶりになったほか、すべてがブロンズ製のブレスレットが与えられた。ちなみにブロンズ製のブレスレットはすでに存在する。しかし、本作は、バックルのプレートもブロンズ製で、ブロンズ製のバックルとしてはおそらく初となる、エクステンション機能も加わった。チューダーは、軟らかいブロンズ素材でバックルを作るのは不可能、という時計業界の常識を覆したのである。あくまで推測だが、プレートをSSで作らなかったのは、シルバーが目立つからだろう。本作は、バックルが内蔵するバネまで、ブロンズ色に染める徹底ぶりだ。

 新しいT-フィットのバックルは、5段階8mmの微調整を、工具無しで行えるものだ。以前のバックルに比べてコンパクトになったうえ、実用性は大きく高まった。趣味性と実用性の高度な両立は、今のチューダーを特徴づける要素であり、本作は、それをさらに拡張したモデル、と言えるだろう。

 2012年以降、たちまち今を代表するダイバーズウォッチとなったブラックベイ。その完成度の高さを考えれば、人気が出るのは当然だろう。今後このコレクションは、ますますポピュラーとなっていくに違いない。

ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ

(右)一部にアラビア数字インデックスを採用することで、よりアンティーク感を強調した本作。ブロンズケースに合わせて、ベゼルリングはブラウンに、蓄光塗料もベージュとなった。(左)新しくなったバックル。大きくは変わっていないが、カバーの張り出しが抑えられた結果、全長は短くなった。

ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ

ケースサイド。チューダーが採用するブロンズは、錫を混ぜた一般的な素材ではなく、アルミニウムを混ぜたいわゆるアルミニウム青銅である。一般的なブロンズに比べて経年変化が緩やかなうえ、耐食性や強度も優れている。今回チューダーは、この素材をケースだけでなく、ブレスレットやリュウズ、そしてバックルにも採用した。(

ブラックベイ フィフティ-エイト ブロンズ

(右)最も歓迎すべき改良が、“T-fit”アジャスティングシステムを備えた新しいバックルである。専用工具を使うことなく、5段階最大8mmの微調整が可能となった。なお、セーフティーキャッチを固定するボールは、SS製に同じくセラミックス製。軟らかいブロンズ素材を機能部品に使うことはありえないが、チューダーは自社の採用するブロンズによほどの自信を持っているのだろう。(左)外装のほぼすべてがブロンズ製の本作。精密に加工されたフラッシュフィットも、やはりブロンズ製。バックケースのみ、ブロンズカラーのPVD加工を施したSS製だ。



Contact info: 日本ロレックス/チューダー Tel.03-3216-5671


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