ブルガリ/オクト フィニッシモ Part.1

2014年の発表以来、世界中の時計賞を総ナメにしてきたのが、ブルガリの「オクト フィニッシモ」だ。薄型時計は普段使いできないという評価を覆した本作は、またムーブメントの薄さでも多くの記録を塗り替えてきた。かつてオクトの派生モデルとして生まれたオクト フィニッシモは、どのような経緯を経て、世界最高の薄型時計となったのか?

オクト フィニッシモ

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2022年9月号掲載記事]


OCTO FINISSIMO AUTOMATIC
薄型時計の在り方を変えた傑作

オクト フィニッシモ オートマティック

オクト フィニッシモ オートマティック
普段使いが可能な世界最薄の自動巻き時計。2017年のジュネーブ・ウォッチグランプリで、男性用部門を受賞した。自動巻き(Cal.BVL138)。36石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti(直径40mm、厚さ5.15mm)。30m防水。185万9000円(税込み)。

 2010年に「ウォッチメーカー宣言」を謳い上げたブルガリは、12年に、次世代を担う新コレクションの「オクト」を発表した。デザインモチーフとなったのは、ジェラルド・ジェンタのお家芸である8角形ケース。複雑時計のみに使われていたケースを、ブルガリはベーシックなモデルに与えたのである。当時、時計部門の責任者であったグイド・テレーニはその意図をこう述べた。

「(複雑な造形を選んだのは)現在も未来もコンテンポラリーに見える造形とは何かを考えた結果ですね。しかし本当に際どい歩みでした。アイコンとしての個性を謳いつつも、製品としてのバランスは維持しなければならないし、個性は、永続しなければならない……」

 このモデルのヒットに気を良くしたブルガリは、14年に薄型の「オクト フィニッシモ」を発表し、コレクションを広げた。もっとも、当初のフィニッシモは、あくまでオクトの上級ラインという位置づけであり、ケースの素材もPtや18Kゴールドに限られた。13年にようやく汎用性の高い自動巻きを完成させたばかりのブルガリが、あえて薄型時計のジャンルにまでに手を伸ばす理由はなかったのである。

 大きく変わったのは16年のこと。世界最薄を謳った「オクト フィニッシモ ミニッツリピーター」は、マット仕上げのチタンケースというかつてない仕上げと軽さで、時計好きの耳目を集めた。その仕上げは17年の「オクトフィニッシモ オートマティック」に転用され、フィニッシモの成功を決定的にした。外装はやはりブラスト仕上げのチタン製。そして薄さを強調するために、バックルはブレスレットの内側に格納された。

 かつて存在しなかった、普段使いが可能な薄型時計という打ち出しは、薄型時計というニッチなジャンルを、一躍メインストリームに引き上げることとなったのだ。

オクト フィニッシモ オートマティック

(右)オクト フィニッシモには、オクト譲りの多面体ケースが採用された。軟らかいTiを薄い多面体ケースに仕上げるのは難しいとされるが、ブルガリは、切削前のケースに鍛造のプロセスを追加。その結果、かつてない造形を、チタンで実現できるようになった。なお、表面を荒らさないため、切削の工程は1回とのこと。
(左)特徴的なラグ。あえてサテン仕上げを選んだのは、「ポリッシュ仕上げは、スチールやメッキのないホワイトゴールドと見間違う可能性があったため」と、デザインを担当したファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニは語る。

オクト フィニッシモ オートマティック

ケースサイド。そもそも薄いオクト フィニッシモだが、ラグを腕側に曲げることで、さらに装着感を改善している。2012年のオクトに採用されたアプローチを、デザイナーのボナマッサはさらに洗練させた。

オクト フィニッシモ オートマティック

(右)装着感に対する配慮が、ブレスレットに内蔵されるバックルだ。あえてプッシュボタンによる開閉システムを採用せず、バックルに埋め込むことでデスクワークでも全く邪魔にならない。もっとも、開閉にはややコツが必要だ。
(左)地板を拡大し、部品をムーブメント全体に分散させるという手法で薄型化に成功したCal.BVL138 フィニッシモ。巻き上げを良くするため比重の大きなプラチナ製のマイクロローターを採用する。



Contact info: ブルガリ ジャパン Tel.03-6362-0100


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