1970年代後半に、ホイヤーはダイバーズウォッチという全く新しいジャンルに活路を見出した。その挑戦は成功を収め、タグ・ホイヤーは一大メーカーへと脱皮を遂げることになる。同社のアヴァンギャルドな試みを反映した歴代ダイバーズウォッチとタグ・ホイヤー アクアレーサーを総ざらいする。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2022年11月号掲載記事]
TAG HEUER AQUARACER
PROFESSIONAL 1000 SUPERDIVER
ケニッシの心臓を積む飽和潜水仕様
ISO 6425に対応したダイバーズウォッチ。ベゼルのトップはセラミックス製。ケニッシと共同開発の自動巻きを採用する。C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.TH30-00)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Tiケース(直径45mm、厚さ15.75mm)。1000m防水。80万3000円(税込み)。
1984年に発表された「タグ・ホイヤー スーパープロフェッショナル1000M」は、自動ヘリウムエスケープバルブこそ備えていなかったが、プロフェッショナルの使用に耐える本格的なダイバーズウォッチだった。アクアレーサーの再構築に成功したタグ・ホイヤーが、改めて同じコンセプトに立ち返ったのは当然だろう。
Ref.844から40年以上を経て、タグ・ホイヤーは時計メーカーとして劇的な進化を遂げた。自社製ムーブメントを製造するだけでなく、ムーブメント・ディレクターにキャロル・カザピ、クリエイティブ・ディレクターにギィ・ボヴェを揃える同社は、スイスで最も開発力のあるメーカーのひとつと言えるだろう。
そんなチームの作り上げた「タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル 1000 スーパーダイバー」は、タグ・ホイヤー製ダイバーズウォッチの集大成となった。セラミックス製のベゼルは2色に変更されたほか、ケースとブレスレットもチタン製に変更された。また、自動ヘリウムエスケープバルブはほぼケースに格納され、ムーブメントには、ケニッシと共同開発した新型自動巻きが採用されたのである。パフォーマンスだけを言えば歴代アクアレーサーのベストであり、しかもこのモデルは、1000m防水とは思えない薄いケースを持っている。
クリエイティブ・ディレクターであるギィ・ボヴェの手腕も冴えている。彼はアクアレーサーの歴代モデルから注意深くディテールを抽出し、本作に巧みに盛り込んだ。タグ・ホイヤーのコレクターならば、そのディテールにはニヤリとさせられるに違いない。
多彩なラインナップを収斂させた末に生まれたアクアレーサーシリーズ。しかし、その紆余曲折は決して無駄ではなかった。野心的な本作から見え隠れするのは、アクアレーサーシリーズの豊かな歴史ではなかったか?
TAG HEUER AQUARACER
PROFESSIONAL 300 CALIBER 7 GMT
ツールウォッチのベースとなったGMT仕様
新しく追加されたのが、使い勝手に優れたパッケージと、良質な外装を持つGMTウォッチである。薄いため腕なじみも良好だ。自動巻き(Cal.キャリバー7)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径43mm)。300m防水。41万8000円(税込み)。
ハイスペックな1000mダイバーが追加されたとはいえ、タグ・ホイヤー アクアレーサーの本筋は、使い勝手の良いダイバーズウォッチである。新作の「タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 キャリバー7 GMT」は、そんな個性を強調したモデルだ。搭載するのはETA2893-2ベースのキャリバー7だが、パワーリザーブが約50時間に延びたほか、GMT針が備わっている。時針の単独修正機能がないのはやや残念だが、イエロー色の第2時間帯表示針と、2色のセラミックスがあしらわれた24時間ベゼルは使い勝手に優れる。
現行タグ・ホイヤー アクアレーサーの美点である優れた仕上げは、本作も同様である。例えば深いブルーがインデックスや針を美しく引き立てる文字盤。印字の発色はかなり良く、ダイヤモンドカット仕上げのインデックスも、面の歪みは皆無だ。ダイヤモンドカットのインデックスや針を採用するようになって以降のタグ・ホイヤーは、わずかな期間で、別物と言えるほどに質感を高めたのである。
完成度の高さは、リュウズを回せば一層明らかだ。直径43mmのケースに、直径26.2mm(実測値)のムーブメントを収めたにもかかわらず、リュウズ回りのガタは皆無である。もちろんリュウズガードの周囲もよく角を落としてあり、リュウズを回す際に、指を痛める心配もない。
モダンなデザインの、しかも使えるダイバーズウォッチとしてリリースされた「2000シリーズ」。その伝統は、今なおタグ・ホイヤー アクアレーサーに息づいている。しかも、価格は相変わらず戦略的なのだ。もしあなたが、使えるサイズのダイバーズウォッチを検討しているなら、今のタグ・ホイヤー アクアレーサーは、間違いなく選択肢に含める価値がある。これこそ、老舗にしか作り得ないダイバーズウォッチではないか。
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