1994年に発表された「ランゲ1」は、紛れもない傑作であった。しかしそれ故に、兄貴分とも言うべき「グランド・ランゲ1」は、長らく愛好家たちの興味の外に置かれることとなった。時計好きたちの認識が変わったのは、2012年の第2世代からだろう。かつて大きなランゲ1でしかなかったグランド・ランゲ1は、今や明快な個性をもって時計好きたちを揺さぶろうとしている。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
GRAND LANGE 1[1st Gen.]
大径ケースを初採用したランゲ1の兄弟機
2003年の第1世代。本作は、著名なA.ランゲ&ゾーネのコレクターであるa-ls氏が所有するイタリア向けの限定版(Ref.115.046)だ。手巻き(Cal.L901.2)。54石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG(直径41.9mm、厚さ11mm)。30m 防水。個人蔵。
1994年に発表された「ランゲ1」は、まずドイツ市場を中心に、少しずつ支持を受けるようになった。爆発的な人気を集めるようになったのは97年以降である。トランスパレントバックから荘厳な仕上げのムーブメントを見せるランゲ1は、ドイツに留まらず、多くの時計好きに訴求するようになったのである。続いて99年にはインデックスがプリントからアプライドに変更され、ランゲ1はひと通りの完成を見た。
ランゲ1の成功を受けて、同社を指揮するギュンター・ブリュームラインはコレクションの拡大を図った。より広い層に向けるべく、98年には直径36.1mmの「リトル・ランゲ1」を発表。続いて2003年には、直径41.9mmの「グランド・ランゲ1」を追加したのである。とりわけ重要なのは後者だった。
ランゲ1の直径は38.5mm。ムーブメントのサイズを考えれば妥当な大きさだったが、A.ランゲ&ゾーネの主な市場であるドイツでは、明らかに小さかった。1970年代に、直径42mmのIWC「ポルトギーゼ」を限定で作らせたほどドイツ市場はビッグウォッチを好んだのである。
1994年の復興以来、A.ランゲ&ゾーネはひとつのモデルにひとつのムーブメントという原則を掲げていた。ただしサイズ違いのモデルに新規でムーブメントを起こせるほどの体力は、当時の同社にはまだなかった。結果として、2003年のグランド・ランゲ1は、ランゲ1と全く同じムーブメントを採用せざるを得なかったのである。
大きなケースに小さなムーブメントの組み合わせは、果たして本作に、ランゲ1とは異なる外観をもたらした。大きなスモールセコンドやインデックス、そして文字盤にかかったパワーリザーブ表示など。これらはきわめて個性的だったが、コレクションとしての成熟は、第2世代を待たねばならなかった。
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