Photographs by Eiichi Okuyama
菅原 茂:文
Text by Shigeru Sugawara
「平均太陽時」と「真太陽時」とは
ムーンフェイズは、月の周期的な変化を視覚化する機構だが、これに対して太陽の周期的な運動から導き出されたのが時計の時刻表示にほかならない。一般的な時計のダイアルで時針の回転運動が示しているのは「仮想太陽」であり、これも天文表示の一形態だ。
われわれが日常生活で用いている1日や24時間の時間システムは、仮想太陽を設定してつくられた人工的な「平均太陽時」であり、大まかにいうと以下のようになる。
1.地球から見た太陽は1年を通じて一様の等速運動を行う。
2.1日の長さは常に一定であり、1日を24等分する。
3.太陽は24時間ごとに同一の子午線を通過する。
しかし、実際の太陽の動きはどうかというと、これほどシンプルではない。古代からの観測によれば、太陽がある地点の子午線を経過してから次に同じ子午線を通過するまで、つまり南中から次の南中までを1日とした場合、1日の長さは必ずしも一定ではなく、年間を通じて周期的に変化することが分かっている。このような太陽の視運動を基準にした時間を「真太陽時」(視太陽時とも言う)と呼ぶ。概念として作り上げられた「平均太陽時」に対して、「真太陽時」はリアルな日時計と言うこともできる。
「真太陽時」で1日の長さが変動する理由のひとつは、地球が太陽の周りを公転する軌道が楕円であること。地球が太陽に近いときは速く、遠いときには遅く動くから、相対的に地球から見た太陽の動きも変動する。地球の地軸が公転面に対して傾いていることもまた理由とされる。
均時差とは
さてここから本題に入るが、この固定した「平均太陽時」と変動する「真太陽時」との差が「均時差」である。時計用語では英語式の「イクエーション・オブ・タイム」、あるいは単に「イクエーション」と言い表すことが多い。
平均太陽時より真太陽時のほうが遅れた時刻を示すマイナス周期は、12月から4月と6月から9月に生じ、2月12日には最大約14分になる。平均太陽時より真太陽時が進んだ時刻を示すプラス周期は、その逆パターンの4月から6月と9月から12月に生じ、11月3日には最大約16分に達する。ふたつの太陽時が24時間ちょうどで一致するのは、1年でわずか4回。4月15日、6月14日、9月1日、12月24日(時期によって前後することがある)だけである。
ところでこの「均時差」は何に役立てられたのか? このような説明がある。時計の時刻合わせの基準を正午とした場合、均時差を基にして真太陽時を修正していた。これと同じことだが、均時差によって太陽の南中時刻を正確に知ることもできる。しかし、産業革命のころに事情が変わってくる。精度が向上した時計が示す平均太陽時は、産業の発展や市民生活にも便利なものであったため、真太陽時に取って代わり、18世紀後半のイギリスを皮切りに、19世紀以降はスイスやフランスなど西欧で広く採用されるようになった。
時計の歴史では、均時差表示時計の製作例は非常に少ない。一定の速度で歯車を回して正確に時刻を表示する平均太陽時の時計に対して、年間を通じて周期的な変化があり、1日の時間が変動する真太陽時を何らかの手法で表示するにはそれ相応の複雑な機構を要する。それだけでなく、平均太陽時がスタンダードとして普及していった19世紀以降は、そもそも作る意味が薄れたと言える。