時計業界の2大見本市がジュネーブで開催されるSIHH(国際高級時計見本市)と、バーゼルで開催されるバーゼルワールドだ。
大きく分けると、前者には主にリシュモン グループの各社が、後者にはスウォッチ グループの大半とLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)グループの一部が属する。
長らく二つの見本市は均衡状態にあったが、2018年には大きく変わりそうだ。SIHHが規模を拡大する一方、バーゼルワールドは大幅に縮小して開催される。バーゼルワールドに出展していたエルメスとドゥ・べトゥーンがSIHHに移るほか、単独で見本市を開催していたF.P.ジュルヌも、部分的ながらSIHHに参加予定だ。一方のバーゼルワールドは、2017年と比較して参加ブランドが最大でも半減するほか、期間も2日間短い6日間となる。
2017年、バーゼルワールドの事務局は量から質への転換を表明した。見本市に先立つプレスカンファレンスで、マネージングディレクターのディフィアン・シルヴィ・リッターはこう述べた。「今回のバーゼルワールドでは量よりも質を優先した(中略)。私たちはコンセプトに合わない出展者をバーゼルワールドから追い出した」。結果、バーゼルワールドに参加するメーカーは13.33%減の1300社となった。2018年も、バーゼルワールドは量より質という路線をさらに押し広げた。
ただしバーゼルワールドの都合だけで参加社が減ったわけではない。現在各メーカーは売り上げの減少と過剰な在庫に苦しんでおり、バーゼルワールドに出展する余力がない。2017年のバーゼルワールドに先立ち、某メーカーのCEOはこう述べた。「バーゼルワールドの小さなブースを借りるだけで、100万スイスフランもかかる。それであれば、バーゼルワールドではなく、その周囲に出展した方がよい」。独立時計師協会(AHCI)のブースはバーゼルワールドでも優遇されているが、それでも時計師たちが小さな棚を借りるだけで、約1万スイスフランがかかる。ある算出によると、100万スイスフランの投資を回収するには、期間中に最低でも1000万スイスフランの売り上げを立てる必要がある。しかし、期間中にそれだけの数を売れるメーカーは数えるほどしかない。
また2017年1月1日に施行された新しい「スイスメイド法」は、スイスの中小メーカーの体力を奪った。それ以前、ムーブメントの50%までがスイス製であれば「スイスメイド」を謳えたが、以降はムーブメントの60%、外装の60%がスイス製でなければ、スイスメイドとは名乗れない。2018年の12月31日という猶予期間はあるが、それまでに中小メーカーの多くは、外国に仰いでいた外装部品の供給をスイスに変更する必要がある。結果として、スイスメーカーの多くは、見本市に関わるだけの時間と資金を持てなくなった。
では今後、ふたつの見本市はどうなっていくのか。短期的には、SIHHはいっそう重要性を増していくだろう。事実、ブライトリングほか数社は、SIHHへの参加を検討中だ。一方のバーゼルワールドは、より資金力のあるメーカーのみの見本市となっていくだろう。しかし現在各社は、マイアミで開かれる見本市と、ドバイで開かれる「ドバイ ウォッチ ウィーク」にも目を向けつつある。今後、時計の見本市=スイスという認識は、大きく変わっていくかもしれない。