時計業界のオスカー賞と言われるジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ。注目度の高まりに伴い、各メーカーは今まで以上の力作を投入するようになった。もっとも、パテック フィリップやロレックスなどが参加していない上、スウォッチ グループも距離を置いているため、この賞の結果は、必ずしも愛好家や市場の声を反映しているとは限らない。しかし、良い時計を知る上での、ひとつのリファレンスとなることは間違いない。以下、2018年の各賞を列記する。
「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2018」受賞モデル
金の針賞(“Aiguille d’Or” Grand Prix)
ボヴェ 1822「リサイタル22 グランドリサイタル」
太陽、月、地球の3つの天体を再現した天文時計。裏側にはレトログラード・パーペチュアルカレンダーを搭載する。メカニズムのユニークさだけでなく、仕上げも極めて秀逸だ。手巻き(Cal.17DM03-TEL)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約216時間。18KRG(直径46.3mm、厚さ19.6mm)。30m防水。ムーブメント限定60本。5500万円。
レディースウォッチ賞(Ladies’ Watch Prize)
シャネル「ボーイフレンド スケルトン」
自社製ムーブメントを搭載した野心作。歯車をLIGAで成形することで、薄さと堅牢さを両立している。ケース形状はシャネル「No.5」に範を取っている。手巻き(CHANEL キャリバー 3)。21 石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KPG(縦37.0×横28.6mm)。30m防水。597万5000円。
レディースウォッチ複雑時計賞(Ladies’ High-Mech Watch Prize)
ヴァン クリーフ&アーペル 「レディ アーペル プラネタリウム」
ヴァン クリーフ&アーペルを代表する傑作が小型化。18KPGの太陽とWGの流星、ピンクMOPの水星、グリーンエナメルの金星、ターコイズの地球、ダイヤモンドの月を備える。自動巻き(ヴァルフルリエ Q020+モジュール)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約36時間。18KWG(直径38mm)。2630万円。
メンズウォッチ賞(Men’s Watch Prize)
アクリヴィア 「クロノメーター コンテンポラン」
今までとは作風を一転し、シンプルにまとめたモデル。アクリヴィアの美点である優れたムーブメントの仕上げは、本作も不変である。ブザンソン天文台のクロノメーター認定書が備わる。手巻き(Cal.RR-01)。36石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約100時間。18KRG(直径38mm、厚さ8mm)。30m防水。限定25本。5万9940スイスフラン。
メンズ複雑時計賞(Men’s High-Mech Watch Prize)
ローランフェリエ 「ガレ アニュアルカレンダー スクールピース」
アニュアルカレンダーを搭載する新作。相変わらず質は申し分ないが、好みを言うと、視認性にはやや改善の余地ありか。手巻き(Cal.LF 123.01。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径40mm、厚さ12.64mm)。30m防水。5万スイスフラン。
クロノグラフ賞(Chronograph Watch Prize)
シンガー「トラック1 香港エディション」
ポルシェのチューナーとして高名なシンガーと、アジェノーによるコラボレーションプロジェクト。今後、各都市名を着けた限定版をリリースする予定とのこと。手巻き。57石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。セラミックス(縦49.2×横43mm)。100m防水。4万7927スイスフラン。
クロノメトリーウォッチ賞(Chronometry Watch Prize)
ドゥ・べトゥーン「DB25 スターリー バリウス クロノメーター トゥールビヨン」
携帯精度±1秒を称するクロノメーター。キャリッジの重量はわずか0.18gしかない。経営陣の変更に伴い、価格も魅力的になった。手巻き(Cal.DB2109V4)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約96時間。Ti(直径42mm、厚さ10.3mm)。30m防水。19万7000スイスフラン。
特別なメカニカル賞(Mechanical Exception Watch Prize)
グルーベル・フォルセイ「グランソヌリ」
トゥールビヨン24にグランソヌリを加えた超大作。未見のため詳細は不明だが、写真で見てもその仕上げは優秀だ。手巻き。85石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径43.5mm、厚さ16.13mm)。123万8550スイスフラン。
スポーツウォッチ賞(Sports Watch Prize)
セイコー「セイコー プロスペックス 1968 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン SBEX007」
最近、良質な復刻モデルをリリースするセイコー。本作も、過去のモデルを範に取りつつも、今の時計としてきちんと仕立てられている。高振動の自動巻きを搭載する。自動巻き(Cal.8L55)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径44.8mm)。300m防水。限定1500本。55万円。
ジュエリーウォッチ賞(Jewellery Watch Prize)
ヴァン クリーフ&アーペル「スクレ ドゥ コチネレ」
ジャガー・ルクルトを代表する名機、101を搭載したジュエリーウォッチ。手巻き(Cal.JLC 101)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約32時間。18KYG(縦21×横8mm、厚さ5.5mm)。30m防水。限定1本。109万3000スイスフラン。
工芸賞(Artistic Crafts Watch Prize)
エルメス「アルソー ローブ ド ソワレ」
文字盤に、2200個のレザーマルケトリを張り込んだ限定モデル。最近エルメスの傾倒する、サヴォアフェールを強調したモデルだ。自動巻き(Cal.H1912)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KPG(直径41mm、厚さ9.6mm)。30m防水。限定12 本。5万2000スイスフラン。
小さな針賞(“Petite Aiguille” Watch Prize)
ハブリング・ツー「ドッペル・フェリックス」
元IWCの設計者である、リヒャルト・ハブリングの新作。彼の得意とするラトラパンテ機構を搭載する。手巻き(Cal.A11、ETA7750ベース)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(直径42mm、厚さ12.5mm)。50m防水。8650スイスフラン。
チャレンジウォッチ賞(Challenge Watch Prize)
ノモス「タンジェント・ネオマティック41アップデート」
2つのドットで日付を表示するモデル。非常に魅力的なモデルだが、パワーリザーブはやや短い。自動巻き(Cal.DUW 6101)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SS(直径40.5mm、厚さ7.9mm)。5気圧防水。46万円。
リバイバル賞(Revival Prize)
ヴァシュロン・コンスタンタン「ヒストリーク トリプルカレンダー 1942」
好事家たちの熱狂的な支持を集めたモデル。内容を考えれば、価格は妥当だろう。搭載するCal.4400も優秀なムーブメントである。手巻き(Cal.4400 QC)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SS(直径40mm、厚さ10.35mm)。3気圧防水。216万円。
勇猛果敢賞(Audacity Prize)
コンスタンチン・チャイキン「クラウン」
ジョーカーをベースにした新作。価格は控えめだが、手を抜いていないのは良心的だ。良質かつユニークな時計。自動巻き(Cal.K07-0、ETA2824-2+自社製モジュール)。61石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(直径42mm、厚さ13.7mm)。30m防水。9800スイスフラン。
イノベーション賞(Innovation Prize)
クレヨン「エブリウェア ホライゾン」
新興メーカー、クレヨンによる超大作。内蔵する機械式計算機により、緯度経度とカレンダーから、日の出と日の入りの時刻を計算して表示する。このモデルは限定1本だが、カスタムオーダーが可能である。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KWG(直径43mm、厚さ11.7mm)。30m防水。限定1本。77万5000スイスフラン。
審査員賞(Special Jury Prize)
ジャン-クロード・ビバー
審査員賞には、惜しくもLVMH ウォッチ部門からの退任が決まった、ジャン-クロード・ビバーが選ばれた。彼の功績を考えれば、受賞は当然か。