【76点】ティソ/シュマン・デ・トゥレル

2023.08.18

ティソ

スイス時計産業の中心地のひとつ、ル・ロックルを本拠地とするプランドで、世界最大の時計製造グループであるスウォッチ グループに属する。兄弟ブランドのハミルトンやサーチナ、ミドーと同様、魅力的な価格帯で、高い品質のモデルを提供している。中でも、1853年に創業したティソは、時計作りの歴史も長く、機械式腕時計のエントリーモデルとして選ばれることも多い。


ティソ/シュマン・デ・トゥレル

最新ムーブメントを搭載したエレガントなエントリー機
ティソの新作「シュマン・デ・トゥレル」は、クラシカルでエレガントなレトロデザインが楽しめるエントリーモデルだ。

シュマン・デ・トゥレル

アレクサンダー・クルップ:文 Text by Alexander Krupp
ティソ:写真 Photographs by Tissot
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]

プラスポイント、マイナスポイント

+point
・エレガントなレトロデザイン
・最新のムーブメントを搭載
・適正な価格設定

-point
・ブレスレットのコマに手首の毛が挟まりやすい
・白い日付ディスクが目立つ

シュマン・デ・トゥレル

完全リニューアルされたシュマン・デ・トゥレル。39mmケースモデル(左)と34mmケースモデル(右)の違いは写真の通り。なお搭載するムーブメントは共通だ。

 1853年に創業したティソは1907年以来、スイス時計産業の中心地のひとつ、ル・ロックルのシュマン・デ・トゥレル(「小さな塔の道」の意味)を本拠地としている。豊かなラインナップを誇るこのコレクションはティソの本社に続く通りの名前にちなんで命名され、定期的に更新、拡大を繰り返してきた。2023年から、このコレクションにはシンプルさがより強調された新しい文字盤が与えられた。さらに、ハンドバッグについている磁石やIH調理器など、磁気の恐怖から解放してくれる非磁性合金ニヴァクロン製ヒゲゼンマイが採用された。

 シュマン・デ・トゥレルには豊富な種類のストラップが用意されている。今回のテスト機に装備されている5連のステンレススティール製ブレスレットは、特にエレガントでノスタルジックな趣を演出する。さまざまなカラーバリエーションで展開されているカーフレザーストラップと同様、ケースとブレスレットの接続部にはふたつの突起を備えたインターチェンジャブルシステムが採用されている。ステンレススティール製ブレスレットは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げのコマが交互に配置され、機能的で信頼性の高いプッシュボタン付きダブルフォールディングバックルを装備していることも魅力的である。バックルには鋭利なエッジがなく、手首へのフィット感も良いが、ブレスレットのコマに手首の毛が挟まることがあった。また、気温が高い時など手首のサイズが大きくなった場合に、素早くブレスレットの長さを調節できる、クイックエクステンションがないのも残念な点である。

 コマはネジではなくピンで留められているが、これは1000ユーロ以下のモデルでは想定の範囲内である。ミネラルガラスのシースルーケースバックははめ込み式だが、少なくとも5気圧の防水性が確保されている。風防には傷に強いサファイアクリスタルが使用されており、ドーム型であることからこの時計を実際よりも薄く見せる効果がある。

ムーブメントの価値

パワーマティック 80

さまざまなブランドで採用されるETAの汎用機Cal.2824-2にアップデートを施したパワーマティック 80を搭載する。十分でなかった耐磁性能やパワーリザーブといった弱点を克服している。

 時計を裏返すと自動巻きムーブメント、パワーマティック80が見える。このムーブメントの名称は約80時間の実用的なパワーリザーブに由来する。ティソは、ETA製ムーブメントの中でも最新のものを、非磁性合金ニヴァクロン製ヒゲゼンマイを搭載することでさらにアップグレードした。このヒゲゼンマイは素材にチタン合金が使用されているため、磁気の影響をほぼ受けない。ニヴァクロン製ヒゲゼンマイは、すべてのパワーマティック80で使用されており、歩度の微調整はテンプのアーム部分に取り付けられたふたつの錘で行われるフリースプラング式を採用している。

 エントリーモデルということもあり、ムーブメントには装飾がほとんど施されていないが、ティソのブランド名を配し、オープンワークとサテン仕上げを施したローターは個性的である。それから精度は非常に良好である。ウィッチ社製電子歩度測定器による測定では、テスト機の平均日差がわずかプラス0.5秒/日、最大姿勢差も7秒とそれほど大きくない。 新作のシュマン・デ・トゥレルは、エレガントなケース、ヴィンテージ感のあるブレスレット、サンレイ仕上げのドーム型文字盤(白い日付ディスクを除く)、半分ずつポリッシュ仕上げとグレイン仕上げになった時針と分針などの要素により、魅力的な外観を備えている。針に特徴的な加工が施されている代わりに、蓄光塗料が塗布されていないことから、暗所では何も見えなくなり、風防は強く反射するので、視認性については微妙なところだ。

 とはいえ、新作シュマン・デ・トゥレルはデイリーユースには最適なモデルであり、魅力あふれる機械式腕時計の世界への扉を開いてくれる時計である。この点、ティソは十分、成功したと言えるだろう。