ノモス グラスヒュッテ
1990年に創業したノモス グラスヒュッテは、グラスヒュッテの旧駅舎にある工房でさまざまな機能を備えた時計を製造している。ノモスの時計にはすべて、自社製ムーブメントが搭載されている。92年に発表され、ブランドの顔となった「タンジェント」のデザインはドイツ工作連盟(Deutscher Werkbund)に起源を持つ。ドイツ工作連盟は、07年にミュンヘンに設立されたデザイン学校「バウハウス」の前身となった団体で、第2次世界大戦の前はさまざまなウォッチメーカーが、ドイツ工作連盟が提唱するデザインを採用していた。今日も、ドイツ工作連盟はクラフツマンシップと機械化の融合に注力している。マニュファクチュールムーブメントを搭載しながらも手頃な価格を維持し続けているノモスも、この理念を受け継ぐブランドである。
ノモス グラスヒュッテ/オリオン ネオマティック39 グラスヒュッテ時計製造175年
成功のための装い
エレガントで薄く、シンプルに美しい。オリオンの新作はフォーマルでもビジネスでも、あらゆるシーンで頼もしいパートナーとなってくれる。
ノモス グラスヒュッテ:写真 Photographs by Nomos Glashütte
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Chieko Tsuruoka
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]
プラスポイント、マイナスポイント
+point
・エレガントなデザイン
・快適な装着感と操作性
・美しいマニュファクチュールムーブメント
・良好な精度
-point
・数日着用しただけでストラップの使用感が目立つ
・明るい色のアワーインデックスの判読がやや困難なことがある
エルツ山地に囲まれたドイツの街、ザクセン州グラスヒュッテに時計産業が興ってから175年を迎えた2020年、ノモスはその歴史において初となるスペシャルエディションを「グラスヒュッテ時計製造175年」という名で発表した。この出来事から数年の歳月が流れたが、ノモスは同名の、ザクセン時計産業の功績を称えるスペシャルエディションを、各モデル175本限定で作り続けている。その最新作が23年に登場した「オリオン ネオマティック39グラスヒュッテ時計製造175年」である。ケース径38.5mmのモデルのほか、36.4mm、そして日付を追加した40.5mmのモデルが3部作として発表された。
エレガントな外観
今回、我々がテストに選んだのはミディアムサイズのモデルである。直径38.5mmのケースはメンズウォッチとしては控えめなサイズで、日付がないことからシンメトリーでバランスが良い。そのため、この時計はオケージョンシーンなどのフォーマルな場だけでなく、ビジネスも含めた日常においても、上質でシンプルなアクセサリーとして理想的である。
厚さわずか8.7mmのステンレススティール製ケースは、肌に当たる裏蓋側に向けてテーパーが施されており、どのような装いでもシャツの袖口への収まりが良い。また、角の取れた丸みのあるフォルムのため、デリケートなセーターの袖口に引っかかることもない。オリオンは、クラシカルなタンジェントやスポーティーで小粋なクラブの陰に隠れてしまっている感があるが、ノモスのドレスウォッチにおいてはハイライトと言えるモデルである。
本作のデザインで新しいところは、スモールセコンドのインダイアルが文字盤より深くなっていない点である。同心円状の溝を施したインダイアルを廃すという新しい試みは、製造の簡素化だけではなく、よりエレガントなデザインの演出にも貢献している。このインダイアルは、グレイン仕上げのような質感を持つ、魅力的なシルバー文字盤との相性も秀逸である。
文字盤にはゴールドカラーのアプライドインデックスが配された。通常のネオマティックのような、アワーインデックスの外側に途切れることなく付けられた5分刻みの目盛りは、本作では省略されている。青焼きの時・分・秒針は、軽やかな文字盤上ではかなり暗く見える。視認性は常に良好だが、明るさを特徴とするデザインの中で唯一、青焼き針が重い要素となっている。
心地のよい仲間
パーティーやワーキングディナーでパートナーとの交流を楽しむ時、新作オリオンは最高の相棒となってくれるだろう。魅力的なデザインと着け心地のよさだけでなく、精度においても信頼できるパートナーなのである。ノモスの時計はC.O.S.C.によるクロノメーターの条件を満たす精度に調整されているが、同検定機関での検査は5姿勢で行うのに対し、ノモスは6姿勢で調整している。今回、歩度測定器で行ったテストで、本作は平均日差プラス1.5秒/日という非常に優れた精度を叩き出し、わずか5秒の最大姿勢差しか生まなかった。数週間にわたる着用テストでも、平均日差プラス3秒/日と、良好な結果を見せた。
前述の通りケースサイドはテーパーが施された形状となっており、リュウズを引き出すのも回すのも容易で、時刻合わせも快適に行うことができる。自社製ムーブメント、Cal.DUW 3001は当然のことながら秒針停止機能を備えているが、この自動巻きムーブメントには他にもいくつかの利点がある。「ノモススウィングシステム」と呼ばれるノモス グラスヒュッテが自社開発した脱進機は、片持ちのテンプ受けではなくブリッジの下に格納されているため、安定感に優れている。スケルトン加工されたローターにより、4分の3プレート、グラスヒュッテストライプ仕上げ、青焼きのネジ、ゴールドを盛ったエングレービング、面取りを施したエッジを観賞することができる。これだけの特徴を備えていながらムーブメントは3.2mmと、非常に薄い。
このムーブメントで唯一、デメリットがあるとすれば、微調整機構が緩急針と、簡素である点だろう。ヒゲゼンマイの有効長を変えることでテンプの振動数に影響を与える微調整機構において、時計師は緩急針を直接触らなければならないのだ。とはいえ、テストウォッチが見せた優秀な精度は、偏心錘や調整ネジがなくても高い精度が実現可能であることを示している。
慎ましやかな性格
本作はムーブメント同様、ケースにも多くの長所とわずかな短所がある。内側に無反射コーティングを施したドーム型サファイアクリスタル製風防、サファイアクリスタル製のシースルーバック、丁寧に施された外装のポリッシュ仕上げにより、テストウォッチのパッケージは、今日求められる品質要件を満たしている。しかし、裏蓋とベゼルはどちらもミドルケースに圧着されているため、時計を裏返すとリュウズの脇に開閉用工具のための小さな隙間が見える。
ケースのシンプルな構造は、虚飾を望まず、ありのままを標榜するオリオン ネオマティック39の慎ましやかな性格にふさわしい。高精度で美しいグラスヒュッテ産自社製ムーブメントを搭載し、装着性と操作性に優れたドレスウォッチであるという美徳は何ものにも代え難い。