ヴィンテージなだけではない
このように、ルミノール サブマーシブル 1950 3デイズ クロノ フライバック オートマティック チタニオ‐47㎜には、さまざまな歴史的モデルからヴィンテージの要素が多様に採り入れられている。だが、それでもなお、この時計がスタイリッシュかつ時宜にかなって見えるのはなぜか。詳細に観察すると、パネライが巧みな手法で、近代的な特徴をヴィンテージの要素にプラスしているのが分かる。幅の広い針や、黒いセラミックス製スケール、チタン製ケース、ブルーカラーのディテール、ラバーベルトは、とりわけスポーティーな仕上がりに貢献している。ヴィンテージとモダンが組み合わされているにもかかわらず、全体が粗野になることなく、調和が演出されているのは、デザイナーの功績だろう。今回のテストウォッチで成功している点は、このブレンドがまさに時計の魅力になっていることである。
パネライはさらに、プロフェッショナルな要求に応える計器の製造というブランドのルーツに忠実でありながら、今日の視点から新たな解釈を与えている。ほとんど傷が付かないほど硬いセラミックス製ベゼルや、アコーディオンラバーベルトなど、新しい構成要素は実用的で高い機能性を備えており、潜水に付随して生じる諸問題を解決するのに役立つ。たとえば、海中では水圧でダイビングスーツが圧縮されて薄くなり、ダイビングスーツの上から着用した時計が手首から滑り落ちる原因になる。サブマーシブルのアコーディオンラバーベルトなら伸縮自在なので、時計はあるべき位置にとどまってくれるのである。
ブルーカラーは、クロノグラフ機能に関連する要素であることをユーザーに示してくれる。少なくとも、クロノグラフ秒針と12時間積算計の針はブルーカラーである。クロノグラフ関連の表示機能の中で唯一、クロノグラフセンター分針のみスティールカラーだが、これは、同じフォルムを持つクロノグラフ秒針と区別するためである。双方ともとてもスリムで、クロノグラフが作動していない平常時は、パネライならではの整然とした文字盤を邪魔することがない。
ステンレススティール製ケースよりもやや温かみのある色味を持ち、サテン仕上げが施されたチタン製ケースも、プロフェッショナルなルックスに貢献している。だが、チタン製ケースが優れているのはデザインの面だけではない。ステンレススティール製ケースは海水にさらされると点腐食が発生することがある。特に、気温が高い時期や、使用後にケースを淡水ですすがなかった場合にこうした危険が生じるが、チタン製ケースは海水に強いので潜水には最適な素材である。
ルミノール サブマーシブル 1950 3デイズ クロノ フライバック オートマティック チタニオ‐47㎜はさらに、ダイバーにとって有用な特徴を備えている。暗所で着用しないと分からないが、潜水時間を計測するための目盛り、つまり、逆回転防止ベゼルのインデックスと分針が青く発光するのだ。そのため、緑色で発光する他の表示要素と潜水時間を明確に区別することができる。
とはいうものの、視認性には改善の余地がなくもない。ダイバーベゼルに配された数字は水中で素早く読み取るには小さ過ぎるし、文字盤のミニッツインデックスについてはほとんど見えないため、クロノグラフで計測した時間を正確に判読することが困難である。
自社製メカニズム
各種表示要素を駆動するキャリバーP.9100は、パネライが自社で開発、製造したものである。クロノグラフムーブメントを自社製造する、これはまさに偉業である。クロノグラフは実現が難しい複雑機構のひとつだからだ。コラムホイールによるエレガントな制御方式と近代的な垂直クラッチを備えたこのムーブメントは、合計302点ものパーツで構成されている。並列に配置されたふたつの香箱は約3日間のパワーリザーブをたたき出す。ボールベアリングで支持されたローターは、爪を利用して両方向に巻き上げるメカニズムによって効率よくエネルギーを供給し、薄くて長い主ゼンマイからは均等にエネルギーが放出される。微調整は、テンワに取り付けられたバランスウェイトスクリューで行われるため、ヒゲゼンマイは規制なく自由に振動することができる。
キャリバーP.9100はチタン製のねじ込み式裏蓋にしっかりと守られている。クロノグラフ機構は大きな受けの下に隠れており、コラムホイールとテンプ以外、多くを見ることはできない。回転錘と受けに施されたヘアラインとサンバースト仕上げは美しく、エッジはきちんと面取りされ、テンプのカバープレートやネジ頭にはポリッシュがかけられている。
クロノグラフのフライバック機能は、計測中、ストップ、リセットすることなく新たに計測を始められる便利な機能である。スタート/ストップボタンは10時位置に、リセットとフライバックのためのプッシュボタンは8時位置に配されている。ふたつのプッシュボタンは押し心地が軽く、ポジションが通常とは異なることから、押す操作は快適に行うことができるが、時計を手首に着けたままプッシュボタンを回して緩めたり、ねじ込んだりする動作はやりづらく、少々テクニックが必要である。
クロノグラフ分針は、1分ごとにジャンプして進む。時刻合わせも、パネライが提供する便利な機能の恩恵により、容易に行うことができる。リュウズガードを開き、リュウズを第2ポジションに引き出すと、時針を1時間刻みで合わせることができ、別のタイムゾーンに移動する時や、サマータイムとウィンタータイムを切り替える際には、分と秒に影響を与えることなく素早く時刻を合わせることができるので快適だ。リュウズをさらに第3ポジションまで引き出すと秒針がジャンプしてゼロに戻るので、時報や電波時計との同期が容易に行える。