JAEGER-LECOULTRE Geophysic 1958
気品を尊重するか、実用性を重んじるか。
昨今では、どちらかだけに偏りがちだ。
科学への情熱と過去の作品へのオマージュで、
今や廃れたかのような文武両道の風雅さがよみがえった。
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa
+point
・考え抜かれたデザイン
・優秀な自社開発ムーブメントを搭載
-point
・気軽に手を出し難い価格
・長短針のバランスが今ひとつ整っていない
1958年とは、国際地球観測年であると高らかに宣言がなされた年だった。それに際して、包括的な学術研究がボーダーレスにいちだんと進められた。これをきっかけに作られたモデルこそが、ジャガー・ルクルトのジオフィジックだ。これには科学者や研究者が調査したり、実験したりするときに伴ってほしい時計という意味が込められている。そのために、耐磁性と防水性に優れ、発光塗料付きの針を装備した、クロノメーターとしての正確さを持った手巻きムーブメントが用意された。
しかし、これが後にコレクターに非常に人気なアイテムとなったのは、何よりもすっきりしたデザインと、1000本限定として出ていたことが大きい。そして今や、当時のオマージュとしての限定モデルが、その名もジオフィジック 1958として登場している。そのビジュアルは、往年のモデルに範を取っているのがはっきりと分かる仕上がりだ。傾斜のつけられたベゼルやストレートに伸びたラグ、数字のフォントや針、これらすべてがオリジナルモデルを思わせる形状になっている。今回のテストで取り上げたステンレススティールバージョンについては、文字盤もまさにかつての姿通り。極細の十字に、3時、6時、9時、12時に置かれたアラビア数字。長めのアワーインデックスとミニッツインデックスの佇まい。5分おきの位置には指標の数字が記されている。ちなみに、プラチナバージョンでは、ヒストリカルピースのようにバーインデックスと組み合わせた数字のインデックスは2カ所のみだ。ふたつのバージョンを比べると、より調和しているのはステンレススティールバージョンに思える。デザインスピリットの踏襲を感じさせる決め手になっているのは、大きな剣形の針だろう。これはオレンジ色を帯びたヴィンテージカラーの夜光塗料付きだが、当時のものより発光性が高い。
サイズに関しても、今日に見合った大きさになっている。38・5㎜という直径は、今やオリジナルモデルの35㎜と似たような感覚だろう。総合すると、ジオフィジック 1958は過去をポジティブにとらえることのできる、破綻のない仕上がりになっているといえる。それは日付表示がないからというせいでもある。デザイン上は、その方が好都合なのだ。
ジャガー・ルクルトは、50年代当時すでに、読み取りやすい文字盤とはいかにして設計されるかを知っていたと思われる。そんなデザインではあるが、暗がりでの視認性に関してだけは別で、夜間のアワーインデックスとなる発光塗料付きのドットがいかにも小さい。一方、現代のモデルでは、ベゼルの内側の見返しにドットが据え付けられている。緩やかなドーム型の風防は、もちろんサファイアクリスタル製だ。
文字盤表面は、オリジナルモデル同様に細かく均一な砂目状で、見栄えは非常によい。リュウズについても、かつてのものを思わせる出来だ。軽く膨らみを持たせ、鏡面に磨き上げられたヘッドには、ロゴが入っていない。これは現在のジャガー・ルクルトのモデルにおいては、極めて珍しいことだ。スリーピース構造のケースの真ん中の部分に、注意深く入ったサテンなどを見ても、全体の仕上げ加工の良さが伝わってくる。ただ、ラグ間の側面の狭いスペースにまでサテンは入れなくてもいいように思える。普通はここまで見ないし、むしろサテンが入ってないほうがいいのではないだろうか。