OMEGA Seamaster 300 Master Co-Axial
シーマスター 300 マスター コーアクシャルにより、オメガは歴史に残るダイバーズウォッチの復刻に成功したばかりか、トランスパレントバックでありながら耐磁性も備えるという、比類なき業績を成し遂げた。
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
+point
・美しくレトロなデザイン
・最新の技術を駆使した実用的な耐磁性能
・極めて高い精度
・説得力のある自社製ムーブメント
-point
・日付表示がない
・ダイバーベゼルにミニッツスケールがない
磁界を泳ぐ者たちへ
古いものと新しいものを結び合わせる時、そこには特別な魅力が生じる。これは、時として建築の分野に見られる現象だが、時計もまた例外ではない。2014年に発表されたシーマスター 300 マスター コーアクシャルで、オメガは新旧の融合を印象深い手法で成功させている。オリジナルモデルとなったのは、オメガが1957年にリリースした美しいダイバーズウォッチである。シーマスター 300 マスター コーアクシャルでは、この歴史に残る名品のデザインが細部まで忠実に再現されているばかりか、ユーザーに益する最新技術、つまり、最新の素材を駆使した革新的な技術が搭載されているのである。それを示唆するのが、文字盤に配された「マスター コーアクシャル クロノメーター」という表記である。この表記を後ろから読むと、搭載ムーブメントが独立機関のスイスクロノメーター検定協会(C.O.S.C.)によるテストに合格し、公式に認定されたクロノメーターであること、そして、コーアクシャル脱進機と最先端の耐磁性能を備えることで、このマニュファクチュールムーブメントが高い精度を約束することを物語っている。ドイツ語でマイスターを意味する「マスター」(日本語では支配する能力を有する者という意味)を堂々と名乗るあたりに、オメガの矜恃が感じられよう。だが、量産時計としては今までどのブランドも成し遂げ得なかった困難な課題をオメガが見事、克服し(訳注:『克服する』の原語は『meistern』。マイスターと同語源)、実現したことを考慮すれば、決して過大評価ではない。実際、耐磁性を付与すると同時に、精度に影響を及ぼすことなく内部機構を見せるデザインにするのは、極めて難しい技術なのである。オメガはまた、時計界で常識とされている耐磁性の限界も超えてみせた。軟鉄製インナーケースを採用することで時計に耐磁性を与えるのは一般的な手法だが、これでは内部機構への視界が遮られてしまうばかりか、確保できる耐磁性も8万A/mあるいは0・1テスラに相当する1000ガウスにとどまるため、オメガはこの伝統的な手法を放棄した。オメガが提示するデータによれば、新型ムーブメントはこの15倍に相当する1万5000ガウス(=1・5テスラあるいは120万A/m)の耐磁性を備えると言う。実際の耐磁性はこの数値を越えているらしいが、それを実証できるテスト機器がなく、証明するに至らなかったとのことである。だが、磁束の発生が最も強いとされるMRI磁気共鳴断層撮影装置でも1・5テスラレベルで、3テスラまで達することは稀であり、ネオジウム、鉄、ホウ酸を主成分とするネオジム磁石で出来た強力な永久磁石の場合でも1・5テスラを超えることはないことを考慮すれば、十分すぎる耐磁性と言えるだろう。