H. MOSER & CIE. Endeavour Perpetual Calendar
1本は欲しいものの、込み合った文字盤と気を使う取り扱いで、選択に悩みがちなのが永久カレンダーである。H.モーザーの「エンデバー パーペチュアル・カレンダー」は、従来の永久カレンダーの固定概念を打ち破り、さまざまな工夫に支えられたシンプルさは、使い勝手の良さにも表れている。
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa
+point
・美しい自社製キャリバーを搭載
・大型日付表示と月表示が瞬時切り替え式
・文字盤がすっきりと整頓されている
-point
・リーズナブルとは言い難い価格
・カレンダーに曜日表示がない
永く、そしてシンプルに
自分の持ち物の中に、いつでも見やすく、これぞ正統派というような大きなサイズの日付表示付き腕時計のエレガントなものがひとつあるというのも、ちょっと悪くないだろう。欲を言うなら、すっきりした顔立ちの文字盤と十分なパワーリザーブがあるのが望ましい。しかし、この条件に合う腕時計を出しているメーカーは、悲しいかなほとんど見当たらない。加えて、それが永久カレンダーともなると、通常の小の月の末日から大の月の1日への切り替わりのみならず、閏年の2月末から3月1日への日付変更も自動的に行われるべく、カレンダー用のサブダイアルを文字盤上になんとかレイアウトした結果、時刻表示が極めて見づらくなっているものも少なくない。これではせっかくの永久カレンダーも、本来の意義が不十分でしかなく、ムーブメントが複雑であるという技術面にのみ悦に入ることになりかねない。
そんな状況の中に飛び込んできたのが、スイス・シャフハウゼンに拠点を置くH.モーザーによるエンデバー パーペチュアル・カレンダーだ。エレガントかつ個性的であると同時に、秀でた機能性と完璧なる視認性の日付表示の実現のために、いくつかの新機構がひそかに開発された。とは言っても、初見では、エレガントではあるがスモールセコンドとパワーリザーブインジケーター付き中2針に、いささかぎょっとするほどの大きさの日付表示しか目に入って来ないだろう。センターに添えられている小さな矢印状の針など、ほとんどその存在に気付かない。しかし、これは永久カレンダーの月表示針で、指し示すアワーインデックスが暦の月と一致している。つまり、矢印が1時を指していると1月、12時なら12月という具合である。つつましやかなようでも月表示としてはこれで十分こと足りる。そもそも今が何月かは、人に尋ねられたところでとっさに答えられないことは普通ではまずないし、月表示はカレンダー機構のセッティングのためにだけ要るようなものだからだ。閏年表示についても同様だ。この表示はケースの裏側で確認できるように配置されており、文字盤側の見晴らしが妨げられることはない。同じ理由から、曜日の表示は削らざるを得なかったようだ。これには少々寂しさを感じる人もいるだろう。とにかく、H.モーザーは、永久カレンダーには極めて稀な、すっきり整頓されて視認性の良い文字盤を提示してみせたのだ。
そのシンプルな文字盤に装備されているのは2枚のデイトディスクを使用した大型日付表示である。しかし、これはよくあるタイプのように、ふたつのデイトディスクをそれぞれ日付の10の位用と1の位用に左右横並びに配置しているのではなく、2枚のデイトディスクを上下に重ねてあるのだ。上のディスクは数字が「1」から始まり「15」まで来ると、次は数字ふたつ分のスペースに縦長の穴が開けられている(コラムの図版を参照)。穴からは、下のディスクに印刷された「16」から「31」までの数字が見える仕組みである。この方式だと従来のものよりいろいろと利点が多い。日付表示の10の位と1の位の間に見目麗しいとは言い難い筋目が入ることもなく、日付窓に中央で区切るバーを置いて数字の左右に段差が生じることもない。何よりも日付の10の位と1の位を分けることなく日付窓の中央に表示されるため、数字を大きくきれいに見せられる。古典的なスタイルでは、数字が10未満だと左側に空白が出来るか数字のゼロが入るため、どちらもあまりエレガントにはならないのだ。