ブラックメカニズム
黒いケースが人気だ。自社製クロノグラフも同様である。今回検証するオメガとブライトリングのテストウォッチは、この人気の要素をふたつとも併せ持ったモデルである。セラミックス製ケースを備えたオメガの「スピードマスター ムーンウォッチ 〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟」と、ブライトリングの「クロノマットGMTブラックスチール」は、双方ともに新作である。ふたつの力のあるブランドによるふたつの強力なモデルが、ここに対峙する。
ブライトリングを代表するモデル、クロノマットの歴史は1940年代に遡る。デザインは時代のニーズに合わせて進化し続け、最新鋭のパイロット・クロノグラフとして揺るぎない地位を確立してきた。新作のクロノマットGMTブラックスチールは勇猛果敢な印象を与える。サテン仕上げを施した直径47㎜、厚さ18㎜を超える巨大なブラックスティールケース、4個のライダータブを備えた回転ベゼル、ねじ込み式のプッシュボタン、そして、総重量209gの堂々たる風采は、難攻不落の要塞を思わせる。クロノマットGMTブラックスチールを身に着ければ、特別出動隊の一員になったような気持ちになれるのだ。
ブラックスティールは、どちらかといえばチャコールグレーのような色味である。DLCコーティングはかなり傷に強いが、強い力が加わると薄いコーティングが剥離してスティールカラーの傷が残ってしまう。
スピードマスターは、繰り返し語られてきた有名な歴史を持つ時計である。1957年に発表されたスピードマスターは、1960年代にはアメリカ航空宇宙局、NASAの公式装備品に指定される。クライマックスは、1969年に成功した人類初の有人月面着陸に携行されたことである。宇宙飛行士、バズ・オルドリンはこの時計を宇宙服の上から着用し、月面歩行を行った。以来、この時計は「スピードマスター プロフェッショナル」と呼ばれ、プラスティック風防を備えるなど、当時の面影がほぼそのまま残されている。
〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟では、ケースのフォルム、特徴的なタキメータースケールが、初代ムーンウォッチを踏襲している。スピードマスター プロフェッショナルやスピードマスター コーアクシャル クロノグラフに比べると、〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟は上品な仕上がりだ。当然のことながら、二酸化ジルコニウムで作られたブラックセラミックス製ケースがその理由だが、同じハイテク素材を使用した艶のある文字盤も、エレガンスを演出するのに貢献している。スピードマスターの別バージョンで見られる白い針や蓄光塗料が盛られたプリントインデックスとは異なり、〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟の蓄光塗料を塗布したホワイトゴールド製アプライドインデックスやホワイトゴールドの針には高級感がある。ケースがブラックカラーなので、タキメータースケールを備えた黒いベゼルが他の要素から浮き上がって目立つことはない。セラミックス製ベゼルに刻まれたシルバーグレーの文字には窒化クロム処理が施されており、極めて硬く、凝着力の強い層を形成している。
文字盤に配されたスピードマスターのロゴと、クロノグラフ秒針の先端の赤いカラーアクセントは非常に控えめで、その結果、美しく整ったデザインが生まれている。44㎜を超える巨大サイズの割には、手首に着けてみると見た目にはそれほど大きさを感じさせない。それもそのはずだ。黒はそもそも収縮色だからである。物理的な観点から言えば、黒は光の欠如、つまり闇を表す色である。光沢のある文字盤が採用されているのは、おそらくそのためだろう。文字盤やベゼル、ポリッシュ仕上げの施されたケースのエッジなど、光を反射する面がこの時計に生命感を与えている。
〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟は91gと軽く、この倍以上の重さのクロノマットに比べると、着けていることがほとんど気にならない。ボックス型強化サファイアクリスタル製の風防もあまり厚みを感じさせず、ケースの厚さが15・8㎜ある割にはフラットな印象を与える。
ブライトリングは、チタン製のケースバックを採用するなど、わずかながらも軽量化を試みているが、残念ながら、ブライトリングのほぼすべてのモデル同様、せっかくの自社製クロノグラフムーブメントもそのままでは観察することができない。だが、ヴェンペ時計部門の副工房長、マイスター時計師でクロノグラフのスペシャリストのフロリアン・ピコール氏にとって、ねじ込み式裏蓋は何の障害にもならないらしい。その代わり、〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟のトランスパレントバックにはやや手を焼いたようだ。オメガに問い合わせて、押し込み式裏蓋であることが判明した後は、ひび割れに弱いセラミックスを傷つけることなく取り外すことができた。