【88点】A.ランゲ&ゾーネ/グランド・ランゲ1

2013.10.03

A. LANGE & SÖHNE GRAND LANGE 1

ブランドのアイコンでありつつ、大型バージョンでは文字盤の構成ゆえに評価が分かれたグランド・ランゲ1。しかし、待ちあぐねた専用ムーブメントがついに内蔵され、のびのびとした表情を見せている。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa


point
・アイコンにふさわしいインパクトあるデザイン
・作業技術が非常に優秀
・ムーブメントの手仕上げ装飾が美麗

point
・リーズナブル感に欠ける価格
・日付の切り替わりがスローチェンジ式

調和のもとに憩う

1994年10月25日、A.ランゲ&ゾーネが再興ブランドとして最初の4モデルを発表した時、一番注目を集めたのはランゲ1だった。このモデルは、古典的な雰囲気を漂わせながらも独創的、このふたつの要素が完璧に調和しているという最強のキャラクター性を提示してみせた。左右非対称の文字盤は、左側に時と分の表示を置き、右側に大型日付表示と秒表示、そして、パワーリザーブ表示を配置するという構成で、絶対的な個性を放っており、その存在はブランドアイコンとなっている。ランゲ1は、ブランドの再スタートから約20年もの歳月の中、同じデザインで作り続けられている唯一のモデルである。その間、トゥールビヨンやムーンフェイズ、永久カレンダーやワールドタイマー、自動巻きなど、バリエーションも増え、同社の主要ラインを形成している。

だが、ケース直径38・5㎜というランゲ1のサイズは少し小さいという声が高まった結果、2003年には直径41・9㎜のグランド・ランゲ1が登場した。ちなみに、これをもって各モデルに専用ムーブメントを搭載するという〝ワンモデル・ワンムーブメント〟の原則は破られることとなった。それまでのA.ランゲ&ゾーネでは、新しいモデルには新型ムーブメントが充てられていたのだが、このグランド・ランゲ1には、ランゲ1に搭載されているキャリバーL901・0が流用されたのだ。このムーブメントは、通常のように文字盤中央から放射状に各表示が位置しているのではなく、不協和音のようなオフセンターの構成を持つ。ことにアウトサイズデイトなどは、通常はアワー表示が配されるエリアにまで食い込んでいる。その姿はまったく異形であると言っていい。

2012年、そのグランド・ランゲ1に専用ムーブメントが開発された。直径40・9㎜のケース内にぴったり収納するにあたってサイズは拡張されつつも、従来使用のムーブメントが持つ異形の中の調和は保たねばならない。そのため、アウトサイズデイトも適合するように拡大された。新型キャリバーL095・1は、これまで搭載されていたL901・0の全特徴を受け継ぎ、ムーブメント直径は3.7㎜大きくなったものの、厚さに関しては1・2㎜薄くなっている。これはランゲ1のパワーリザーブに起因するところが大きい。新型キャリバーも従来型と同じくパワーリザーブは約72時間。しかし、向かい合って置かれたツインバレルに替えて、香箱はひとつのみ。ふたつ分のボリュームを合わせたような大きさのシングルバレルにまとめ、香箱の高さを減らすことができたので、ムーブメント全体が薄くなったのだ。そのため、直径は大きくなっても見た目はかなりすっきりとスリムになり、結果、装着感も改善された。

専用ムーブメントを得た新たなグランド・ランゲ1は素晴らしい出来栄えだ。全体のプロポーションとオフセンターの各表示は完璧に近い。時・分のインダイアル、スモールセコンド、アウトサイズデイトが正三角形で結ばれる位置に配された文字盤、サテンと鏡面のダブル使いで研磨されたケース、面取りが施されたラグ。これらのひとつひとつが装飾品たるにふさわしい作りを持つ。

アウトサイズデイトはランゲ1ラインの中で最も大きくなったので、視認性はより一層高まった。もっとも、深夜に日付表示が動きはじめてから、切り替わりが完了するまで30分は掛かるという面もあるのだが。ともあれ、このモデルは普通とは違った位置関係にもかかわらず、時間がさっと分かるのがいい。さらに、ホワイトゴールドケースのモデルだと、暗がりにいても時・分とパワーリザーブ残量を読み取ることができる。これはグランド・ランゲ1で唯一、夜光塗料を使ったモデルなのだ。ランゲ1も同じく、ホワイトゴールドモデルのみ、時・分針とパワーリザーブ表示針に夜光塗料が使用されている。ほかに、プラチナケースで文字盤が部分的にトランスパレント化され、アウトサイズデイトも発光するグランド・ランゲ1〝ルーメン〟もラインナップされる。