ROLEX OYSTER PERPETUAL SKY-DWELLER
ロレックスが完全に新開発したムーブメントを搭載したスカイドゥエラーでは、年次カレンダーと第2タイムゾーン表示が統合されている。操作を司る機構は複雑ながらも、操作自体は実にシンプルである。
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝 : 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
+point
・設計の秀逸なマニュファクチュールムーブメント
・設定が簡単
・実用的な複雑機構
-point
・視認性に難のあるサイクロップレンズ
・ゴールドモデルしか提供されていない
シンプルさをかなえる複雑機構の必然性
2012年、ロレックスがバーゼルワールドで発表した新作は、大きな驚きをもって迎えられた。同社が新しいモデルをリリースするのは常にセンセーショナルな出来事である。信頼性の高さをさらに進化させることを専らとするマニュファクチュールだからだ。新しい機能が搭載されるとなれば、期待感はますます高まるだろう。
新型モデルの名称は、〝空中の居住者〟を意味するスカイドゥエラーである。ロレックスのダイバーズウォッチ、シードゥエラーの〝海中の居住者〟に似せたネーミングだ。これは、世界中を飛び回る旅行者やパイロットといった、主に飛行機を利用して長距離を移動する人々を意味している。ロレックスは現在、50年以上も前に国際線のパイロットのために開発された、第2タイムゾーン表示を備えたGMTマスターの進化形、GMTマスターⅡをラインナップしているが、スカイドゥエラーでは第2タイムゾーン表示に加え、もうひとつ実用的な機能、年次カレンダーが搭載されている。年次カレンダーは月末になると、日付を次の月の最初の日に正確に切り替える。そのため、日数が30日の「小の月」に手動で日付を修正する必要はない。ただし、1年に一度だけ、3月1日には手動で日付を修正しなければならない。年次カレンダーと呼ばれるのはそのためである。
スカイドゥエラーでは、第2タイムゾーン以外に月と日付も表示される。文字盤をすっきりとした構成にするため、ロレックスはここで面白いトリックを用いている。時計のアワー表示と月の数が一致することから、12のアワーマーカーのひとつひとつに月を表示するための小窓を付けたのだ。この小窓は通常、白くなっていて、現在の月と同じ数字のアワーマーカーの小窓だけが黒くなる。つまり、5月になると5時のアワーマーカーの小窓が黒くなるのである。月が表示されるのは非常に実用的である。なぜなら、月はそれほど頻繁に確認するものではないが、日付を正しく合わせ、切り替えるためには不可欠な要素だからである。年次カレンダーの多くに搭載されている曜日については、ロレックスは文字盤のレイアウトをすっきりとまとめるために断念した。無理からぬ選択と理解はできるものの、曜日があったほうがユーザーにとってはうれしい仕上がりだったに違いない。
第2タイムゾーン表示には多くのスペースが割り当てられている。文字盤の12時位置にある赤い逆三角形の下に来る数字が第2タイムゾーンの時刻、つまり、自分の選んだホームタイムであり、オフセンターに配された回転ディスクで24時間表示される。24時間表示の回転ディスクは、全体を見せるデザインになっている。ただ、純白色の回転ディスクがオフホワイトの文字盤からはっきりと浮かび上がり、5時、6時、7時位置にローマ数字で配されたアプライドのアワーマーカーの一部を切り取ってしまっているのが残念だ。とはいえ、スカイドゥエラーではホームタイムをはっきりと認識することができるし、ホームタイムを窓で表示する方式であったなら、日付と見間違える恐れも生じていただろう。さらに、時針と分針は中心に近い部分が3分の1ほどスケルトナイズされており、針が12時付近に位置していても、第2タイムゾーンの時刻が読み取りやすいように配慮されている。
針と文字盤のコントラストは決して良好とは言えないが、日中であれば時刻の視認性は悪くない。だが、時針と分針に塗布された蓄光塗料の量が少ないため、暗所では時刻の判読が困難である。月は日中、素早く確認することができるが、日付についてはサイクロップレンズがかえって支障をきたしている。サイクロップレンズはロレックスならではの特徴であり、数字を2・5倍に拡大してくれるのはありがたいが、正面から見ないと日付を読み取りにくいのだ。
スカイドゥエラーで特筆すべきは、シンプルな操作性である。レガッタ用クロノグラフ、ヨットマスターⅡと同様に、このモデルでもベゼルが重要な役割を演じている。回転式リングコマンドベゼルと呼ばれる可動式ベゼルのポジションを変えることで、リュウズで設定したい機能を選択できるのだ。操作はいたって簡単である。まず、リュウズを緩めて引き出すと、リュウズはニュートラル・ポジションになる。次に、リングコマンドベゼルを11時位置の第1ポジションにしっかりと噛み合うまで反時計回りに回す。第1ポジションでは、リュウズで日付を前後に調整することができる。この時、月表示も瞬時に、前後に切り替わる。リングコマンドベゼルをさらに回して10時位置の第2ポジションに噛み合わせると、時針を1時間刻みで前後に切り替えてローカルタイムを合わせることができる。第2ポジションではデイト表示も切り替わるが、ここでは日付を先に送ることしかできず、戻すことはできない。リングコマンドベゼルを第3のポジションに噛み合うまでさらに動かすと、ローカルタイム用の時針、分針と一緒にホームタイムを合わせることができる。秒針はこの時、停止する。これら3種類の修正作業は、リュウズを完全に引き出した状態で行う。リュウズを引き出した状態のままでリングコマンドベゼルを回しても、内部機構が損傷することはない。とはいえ、リングコマンドベゼルを回す際は、慎重に行うべきである。巻き真が細いため、緩めて引き出された状態のリュウズに対して横からの応力がなるべくかからないようにすべきだからだ。
操作はおおむね、極めて快適に行うことができる。時計の巻き上げはリュウズを押し込んだ状態で行うが、リングコマンドベゼルはこの時、どのポジションでも構わない。リングコマンドベゼルはスムーズに回転させることができ、噛み合い感は重厚である。リュウズを使った各種設定もとても簡単に、間違いなく行うことができる。新たに開発された操作機構は非常に複雑な構造で、この機構だけで60点ものパーツを要する。
1時間刻みで調整できるローカルタイムと、前後に調整できる日付早送り機能は、特に好印象である。設定作業を格段に簡素化するこの機構は、既存のリュウズ・システムでは実現できないものである。既存のリュウズ・システムでは、時計を巻き上げるポジションの他に、時刻を合わせるポジションも必要で、3つ目のポジションでは一方の方向に回すことで第2タイムゾーン表示を前進させ、逆方向に回すことでデイト表示を前進させるような構造になっているからである。極端なことを言うと、従来の機構では、年次カレンダーで第2タイムゾーンの時刻を修正しようと思い、リュウズを回す方向を誤って日付を1日先に送ってしまった場合に、デイト表示を364日修正しなければならないことを意味する。こうした不本意な事故が起きてしまっても、ロレックスの年次カレンダーならば、正しい日付に修正するのに1日戻すだけでよい。この機構のメリットは大きいだろう。日付は瞬時に切り替わる。今回のテストウォッチでは午前零時30秒前に切り替わった。これ以上は望めない精度ではないだろうか。
ロレックスは、スカイドゥエラーに多彩な機能が搭載されていても、文字盤に明快なレイアウトを与え、シンプルかつエレガントな時計に仕上げるため、あらゆる努力を惜しまなかった。文字盤の外周にメタルリングを取り付け、ここにインデックスやマーキングを配して機能表示を行ったほうが技術的には簡単だったはずだが、こうした解決方法は取らなかった。細やかなこだわりは、さらにリュウズにも見て取ることができる。リュウズやベゼルでどのような設定作業を行おうとも、リュウズを再びねじ込んだ時にリュウズのシンボルマークが必ず正しい向きになるように設計されている。
スカイドゥエラーのデザインが、スポーティーさとエレガントさをコンセプトとするデイデイトやデイトジャストの様式を踏襲しているのは一目瞭然だが、スカイドゥエラーの場合はどちらかと言うと、エレガントさのほうが強く打ち出されている。エレガントな性格は、扱いやすいという利点もあるフルーテッドベゼルや、ローマ数字のアワーマーカーによって表現されている。別のバリエーションであるエバーローズゴールドやイエローゴールドのモデルでは、アワーマーカーがアラビア数字になっているが、これらのモデルでは、エレガンスがゴールドの色味ですでに表現されており、エバーローズゴールドモデルではさらに、アリゲーターストラップが優美な仕上がりに貢献している。
スカイドゥエラーでは現在、ゴールド以外、選択できる素材はない。ステンレススティール製やロレゾールのモデルは(まだ)提供されていないからである。ゴールドは、その重みからも確かな存在感が感じられる素材である。250gに迫る威風堂々たる体格を備えたスカイドゥエラーは、まさにヘビー級の時計と言えよう。時計の価値を肌で感じられることから、この重量感は多くの愛好家から支持されている。しかし、ヘビー級の重量で装着性が損なわれることはない。この時計は手首へのなじみが良く、鋭いエッジによって不快感が誘発されることもない。
ホワイトゴールド製のブレスレットには、約5㎜延長可能なエクステンションリンクを備えたオイスターロッククラスプが装備されており、気温の高い日や激しい運動時など、手首が汗ばんで締め付けられるような感覚が生じたら、エクステンションリンクを延長することで不快感を軽減することができる。クラスプはフリップ式で、開閉動作は非常に快適である。軽く引っ張るだけでクラスプを開くことができ、閉じればブレスレットによって時計を安全かつ確実に手首に留めることができる。ケースと同様、ブレスレットも極めて入念に加工され、丹念なポリッシュ仕上げが施されている。文字盤や針など、その他の部品も、すべてが精密に製造、加工されている。