ROGER DUBUIS CHRONOGRAPH LA MONÉGASQUE
これまで、奇抜さを強く前面に押し出してきたロジェ・デュブイは、必ずしもドイツ市場をターゲットとしたブランドではなかった。だが、「モネガスク クロノグラフ」のような新しいモデルによって、ロジェ・デュブイは間もなくドイツ市場を席巻するだろう。
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝: 翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
+point
・ジュネーブ・シールが刻印された美しいマニュファクチュールムーブメント
・調和が取れつつもエキサイティングなデザイン
・良質な加工
-point
・ストップセコンドが搭載されていない
・精度がマイナス寄り
原点回帰という新機軸
2011年1月のS.I.H.H.で、マニュファクチュール、ロジェ・デュブイは、これまで“ロジェらしい”とされてきた個性的なデザインとは異なる控えめな新コレクションで、来場者を驚かせた。“生粋のモナコ人”を意味する“モネガスク”が、新しいコレクションの名称である。モンテカルロのきらびやかなカジノの世界から着想を得たものであるが、その意匠にはロジェ・デュブイの原点である「シンパシー」へのオマージュを見て取ることができる。
近づいて観察してみると、世界の大富豪が集まるモナコ公国のカジノを連想させる、まばゆい光彩を放つ魅惑的な華やかさは、このモデルからはほとんど感じられない。しかし、だからこそモネガスクは、思慮深く、技術志向の強いドイツの時計愛好家にとって魅力的に映るのだろう。1995年に創業したマニュファクチュール、ロジェ・デュブイがこれまで発表してきた多くのモデルとは異なり、新コレクションでは、刻み目のあるいかついケースも、形を崩したローマ数字や、宝石を隙間なくセッティングした刺激的なカラーの文字盤もない。
新しいコレクションの中心的な存在は、スモールセコンドを搭載した「モネガスク オートマティック」と今回のテストウォッチである「モネガスク クロノグラフ」である。両モデルとも、ステンレススティールとローズゴールド製のケースで入手することができ、ほとんどクラシカルと評せるようなデザインを持つ。そこへ行くと、128本のみの限定生産で、すでに完売のクロノグラフの限定版、「モネガスク ビッグナンバー クロノグラフ」では、カジノの世界がより明確に表現されており、緑、赤、黒のカラーアクセントを備えたローズゴールドの文字盤が、カジノを象徴するルーレットを想起させる。
今回のテストウォッチであるモネガスク クロノグラフは、それよりもずっと控えめで、文字盤外周のフランジ(見返し)に転写された、さりげないダークレッドのタキメータースケールが、唯一のカラーアクセントとなっている。文字盤はこのほか、グレー、ブラック、シルバーでまとめられており、メインダイアルとサブダイアルには、白い目盛りが配されている。全体的な印象はおとなしいものの、文字盤には美しいディテールが満載で、観る者を楽しませてくれる。サンレイ仕上げを施した文字盤中央部に始まり、サーキュラーサテン仕上げのアワーリング、また、これに段差を付け、同心円状の模様彫りが刻まれたサブダイアル、そして、アプライドのアワーインデックスなど、あたかもつややかに塗装されたルーレット盤を眺めているようである。さらに、時刻を表示するシルバーカラーの3本の針と小さなクロノグラフ分針には中央を境にファセットが設けられ、センターのクロノグラフ秒針は先端部分が白くペイントされている。
文字盤の加工品質は、全体的に極めて高い。ただ、時計師が使うルーペで長時間、観察してみると、2時のアワーインデックスの左側の縁にわずかなにじみがあり、クロノグラフ秒針の先端のペイントにも微細なムラがあるのが分かる。
大きなケースと美しい内部機構
一辺の長さが44mmのクッション型のステンレススティールケースは、文字盤以上に品質が高く、作り込みにはまったく非の打ち所がない。角とエッジがあるにもかかわらず、そのフォルムは全体的に流麗で柔らかい印象を与える。この印象は、先端部に丸みを持たせた伸びやかなラグや、ベゼル、ミドルケース、ケースバック、クロノグラフのプッシュボタンなど、サテン仕上げの面とポリッシュ仕上げのファセットを持つ構成部品によって、より一層強調されている。
クロノグラフのふたつのプッシュボタンは、フォルムが極めてスリムで、ケースにフライス加工で開けられた穴にぴったりと収まっている。リュウズ上側のスタート/ストップボタンは押し心地が極めて軽いが、下側のリセットボタンはやや強い力で押し込まなければならない。刻みの付いた大きなリュウズはねじ込み式ではなく、爪を使わなくてもスムーズに引き出すことができる。快適な操作を実現するために犠牲となってしまったのは、低く設定された防水性である。だが、5気圧防水なら、ドレスウォッチとしては十分な性能だろう。
特殊な形状の溝を持つ4本のネジで固定されたサファイアクリスタルのトランスパレントバックは、手首に心地よくなじむ。トランスパレントバックの内側で時を刻むのは、自動巻きキャリバーRD680である。クロノグラフ機構は、マイクロローターと魅力あるオープンな構造により、何物にも妨げられることなく観賞することができる。クロノグラフのスタート/ストップ機能は、コラムホイールを使用した伝統的な手法で制御され、クロノグラフは最新式の垂直クラッチによって始動する(写真ではテンプの右側)。垂直クラッチの恩恵により、クラッチホイールはその下にある4番車に確実に連結し、その結果、クロノグラフは針飛びなく始動する。歯車が同一面で横にスライドして噛み合う古典的な水平クラッチとは異なり、垂直クラッチでは連結する際にふたつの歯の先端が互いにぶつかり合うことがない。そのため、クロノグラフ秒針は、歯車にかかる負荷から衝撃を受けて前方にずれることなく、正確に始動することができるのだ。
ロジェ・デュブイの自社製ムーブメントのさらなる長所は、すべての構成部品に最高級の仕上げが施されている点である。非の打ち所のないコート・ド・ジュネーブやペルラージュ、ネジ頭のポリッシュやクロノグラフレバーのヘアライン仕上げはもちろん、エッジに施された面取りとポリッシュも、ロジェ・デュブイにとっては当然なされるべき仕事なのである。
ムーブメントの設計と同様に、仕上げにおいてもジュネーブ・シールの認定基準を満たしているロジェ・デュブイは、どのムーブメントにもジュネーブ・シールが刻印されている(写真ではテンプの上)。ロジェ・デュブイは一貫生産を行うマニュファクチュールとして、ムーブメント部品を専門メーカーからほとんど購入することなく、巨額の開発・製造コストを費やして部品を自製している。したがって、すべての製品にジュネーブ・シールが付与されている事実は、同社の高い技術力を示す何よりの証左である。
そのジュネーブ・シールの規定は2012年6月より改定され、認定対象が従来のようにムーブメントのみに留まらず、腕時計全体へと拡大された。そのため、ジュネーブ・シールは今後、エンドユーザーにとってこれまで以上に重要で信憑性のある、購入を後押しする要素となるだろう。ただし、現在、時計店で入手可能なモネガスクのモデルには、規定が改定される前にすでにジュネーブ・シールが付与されているため、新規定に基づいて認定された時計が店頭に並ぶのは、2012年末以降になるという。
余談だが、ロジェ・デュブイは、新モデルのファミリーを携えてドイツの購買者をやみくもに狙っているのではなく、ドイツ国内での販路の拡大にも注意を払っている。ドイツでは現在、ハンブルク、デュッセルドルフ、フランクフルト・アム・マインのブヘラや、ミュンヘンのヴェンペ、シュトゥットガルトのクッター、ケルンのタイム・スクエア、バーデンバーデンのサファイアなど、7つの時計宝飾店が、知名度がまだそれほど高くないものの高価格帯に属するこのブランドを取り扱っている。