【80点】オメガ/スピードマスター コーアクシャル クロノグラフ vs. プロフェッショナル

2012.05.03

spec130205om67c.jpg

ディテールにおける違い。新モデル(左)には、トランスパレントバックとコマがネジ留めされたブレスレットが装備されている。

高い精度

コーアクシャル脱進機を搭載した新型スピードマスターは、時間を守ることにかけてはこの上なく誠実であることからも、極めて有益と言える。平均日差プラス2秒/日という精度を見せてくれた着用テストの後、ウィッチ製クロノスコープX1でも精度安定試験を行った。コーアクシャル脱進機は、スイスレバー脱進機とは異なり、時を刻む音が特殊なため、一部の歩度測定機では計測できないが、クロノスコープX1ならコーアクシャル脱進機を搭載した時計の精度も測定することができるからだ。歩度測定機で計測される数値の中でも最も重要な指標となる最大姿勢差は2秒と、極めて小さかった。計算上の平均日差はプラス3・2 秒/日で、クロノグラフを作動させた状態でも数値はほとんど変動せず、安定した振り角が維持された。かくして、スピードマスター コーアクシャル クロノグラフは、クロノスドイツ版編集部がこれまでテストした数々のモデルの中で、最も正確な時計に名を連ねることになった。

精度においては、手巻きキャリバー1861を搭載したスピードマスター プロフェッショナルはコーアクシャル・モデルには勝てなかった。計算上の平均日差はマイナス3・5 秒/日と、正常な範囲内ではあるが、最大姿勢差が19秒というのは少し大きすぎる。さらに、テストウォッチの場合は、同一の姿勢でもかなり大きな日差が観察され、振り角が230度を下回ることもあった。以前、同じムーブメントを搭載した時計をクロノスドイツ版編集部でテストした時には、もう少し良い結果が出ていたのだが、その数値で比較しても、手巻きキャリバー1861の精度は自動巻きコーアクシャル・キャリバー9300には及ばない。

だが、高い精度を実現するため、新型クロノグラフキャリバー9300にはいくつもの改良点が加えられたのを忘れてはならない。自動巻きキャリバー8500同様、キャリバー9300もコーアクシャル・ムーブメントの第2世代に属する。ジョージ・ダニエルズ博士が発明し、オメガが実用化したコーアクシャル脱進機の第1世代を載せたETAベースのキャリバー2500系とは異なり、キャリバー8500もキャリバー9300も、コーアクシャル脱進機のために十分なスペースが確保されるような構造になっており、ガンギ車が2層構造から3層構造に変更されたことで、さらなる進化を遂げている。それにもかかわらず、ガンギ車とアンクルのツメ石が接触して摩擦が生じる箇所には、わずかながらも注油が必要で、コーアクシャル脱進機といえども完全にオイルフリーではない。

安定した精度には、衝撃と磁気の影響をほとんど受けないシリコン製ヒゲゼンマイも貢献している。オメガは現在、この最新技術を量産モデルに応用することに成功した唯一のメーカーである。さらに、調速機構には緩急針を持たないフリースプラングテンプが採用されており、テンワの内側にはゴールド製のバランスウェイトが取り付けられている。こうして、シリコン製ヒゲゼンマイはヒゲ棒の規制を受けずに自由に振動することができるのだ。
耐震装置も改善されている。新型のニヴァショック耐震軸受けは、腕時計に衝撃が加わった時の天真の復元性に優れ、天真を穴石の中心で安定させるように設計されている。テンプ受けは両側がネジ留めされており、通常見られる片持ちのテンプ受けよりも耐衝撃性が高い。オメガ自社製のすべての新型キャリバーと同じく、キャリバー9300もスイスクロノメーター検定協会(C.O.S.C.)からクロノメーターに認定されている。

コーアクシャル・ムーブメントは、安定した精度と高い堅牢性の実現のみを目的に設計されたわけではない。パワーリザーブが約60時間とかなり長く、使い勝手も良くなっている。切り替え車によって両方向に巻き上げるローターは、直列に接続されたふたつの香箱を巻き上げることで長いパワーリザーブを生み出す。キャリバー8500ではスライドベアリングが採用されていたが、キャリバー9300のローターはボールベアリングによって支持されている。54個の受け石には摩擦を最小限に抑える役割がある。

キャリバー9300のクロノグラフ制御を行うエレガントなコラムホイールは、受けの開口部から見られるようになっている。また、刻時輪列からクロノグラフ輪列への動力の連結には垂直クラッチを採用。巨大なトランスパレントバックを通して隅々まで観察できるムーブメントには、珍しい装飾を見いだすことができる。テンワには黒のクロム・メッキが施され、ネジも同じように黒くコーティングされている。ローターとブリッジを飾る外側へスパイラル状に広がるアラベスクのコート・ド・ジュネーブは、オメガが独自に考案した模様彫りである。
一方、スピードマスター プロフェッショナルの装飾はコーアクシャル・ムーブメントよりもずっと飾り気がなく、質素である。そもそも手巻きキャリバー1861を見るためには、スティール製の裏蓋と耐磁性の薄いインナーカバーを外さなければならない。それでもムーブメントにはロジウムプレート仕上げが施されており、ブリッジに刻まれた円状の筋模様やポリッシュ仕上げのネジ頭を見ることができる。ブリッジのエッジは一部が面取りされ、エングレーブされた文字はゴールドカラーであるが、レバーには装飾が施されておらず、秒クロノグラフ車のストップレバーは、摩耗を抑えるという理由からプラスチックで出来ている。ローターブリッジやローターによって視界が遮られることがないため、カム式のクロノグラフ制御機構や水平クラッチの動きを存分に観察することができる。精度の微調整は調整用偏心錘と緩急針によって行われる。

キャリバー1861には、もう少し飾り気のあるバージョンもあり、サファイアクリスタル製風防とトランスパレントバックを備えたスピードマスター プロフェッショナルに搭載されている。もちろん、これはNASAが船外活動で使用を許可したモデルではなくなってしまっているが、それでも一見の価値があることは確かである。さらに、2008年には、フレデリック・ピゲ製自動巻きクロノグラフムーブメントに初代コーアクシャル脱進機を積んだキャリバー3313を搭載したもうひとつのバリエーションもリリースされている。だが、キャリバー9300を搭載した新モデルが発表された後では、キャリバー3313を搭載した同サイズのムーンウォッチには価格面でのメリットしか残っていない。