フォルティス
1912年の創業以来、フォルティスはスイスのグレンヘンを拠点としている。フォルティスは機能性の高いパイロットウォッチで知られ、特に「オフィシャル・コスモノート・クロノグラフ」は長年にわたって、ロスコスモスの公式装備品のひとつだった。2018年、ドイツ系スイス人起業家、ユップ・フィリップがフォルティスの新オーナーに就任。以来、数多くの魅力的なモデルでブランドに活力を与えている。
フォルティス/ノボノート N-42 コバルトブルー
地上に降り立った宇宙飛行士公式ウォッチの後継機
フォルティスは、宇宙での任務のために作られた伝説の腕時計を復刻した。前作は10年以上、多くの宇宙飛行士が無重力空間で着用してきたモデルだ。新モデル専用に開発されたムーブメントは、成層圏での過酷な環境に耐え抜いた。
フォルティス:写真 Photographs by Fortis
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Yousuke Ohashi
[クロノス日本版 2024年5月号掲載記事]
プラスポイント、マイナスポイント
+point
・堅固な設計のケースとムーブメント
・専用に開発されたムーブメント
・ブレスレットの長さを細かく調節できる
-point
・プッシャーがやや固い
・ベゼルのエッジが少し気になる
「無限に広がる宇宙。新たな生命と文化を求め、未知の銀河を旅するクロノグラフ、ノボノートの冒険がここに始まる」。「スター・トレック」に似せた航星日誌の言葉を冒頭に、宇宙と深い関係を持つフォルティスの新作について語ってみたい。
宇宙における任務
「オフィシャル・コスモノート・クロノグラフ」は1994年からロシアのミール宇宙ステーションで着用され、その後、ISS国際宇宙ステーションでも着用された腕時計である。ロシアの国営宇宙公社、ロスコスモスの宇宙飛行士の公式腕時計として船外活動時にも携行された。
ベゼルにタキメータースケールを備えた直径38mmのクロノグラフから、2003年にケースの直径が42mmで回転ベゼルを備えた「B-42 オフィシャル・コスモノート・クロノグラフ」が発表され、装備品に追加された。
今回登場した後継モデルである「ノボノート」は、前作の特色を明瞭に引き継いでいる。テストに用いた「ノボノート N-42 コバルトブルー」は、文字盤が黒色の「ノボノート N-42 レガシー」とは仕様が異なっている。ベゼルがマット仕上げではなくポリッシュ仕上げであり、裏蓋がステンレススティール製のソリッドバックではなく、サファイアクリスタル製のトランスパレントバックである点が挙げられる。
架空の恒星間宇宙艦エンタープライズ号とは異なり、ノボノートは良い意味でリアルな腕時計だ。つまり、宇宙ではもちろん、地上でも機能するツールウォッチなのだ。第一印象は、とにかく頑丈というものだ。傷の付きにくいセラミックス製ベゼルをはじめ、見るからに頑丈そうなケースに、幅の広いステンレススティール製ブレスレットが、そうした印象を与えている。
前作は、ISS国際宇宙ステーションでの船外活動時、宇宙飛行士の手元に適切な工具がなかったため、ハンマーの代わりに使用されたことすらあるらしい。この腕時計でも、こうした行為をためらうことなく行えそうである。ブレスレットをネジで留めたラグ、ガードで保護されたプッシュ面の大きなクロノグラフプッシャー、大型だが長すぎないねじ込み式リュウズなど、すべてが堅固な印象を与える。
リュウズは容易に操作することができる。文字盤の日付表示と曜日表示の横に配された白い三角形は、リュウズをどちらの方向に回せばそれぞれの表示を調整できるかを示している。溝が切られたベゼルは扱いやすい。とはいえ、ケースから少し張り出していることから、リュウズ操作の際にわずかな妨げとなる。
もうひとつ特別な点を挙げれば、日付表示の13日がオレンジカラーでプリントされていることである。通常「13」は不吉な数字とされるが、フォルティスにとってはラッキーナンバーなのだという。
その理由は、フォルティスの現在のオーナー兼CEOであるユップ・フィリップがフォルティスに就任した日が13日であったからだそうだ。加えて、その時のフォルティスのメンバーが13人であったということも理由に挙げられている。
リセットプッシャーを操作するには力がやや必要だが、気になるほどではない。ベゼルは両方向に回すことができ、1分刻みの噛み合いはやや固いが、その分、ベゼルが衝撃などで容易に回転してずれてしまう恐れがないため確実に計測することができる。
考え方の問題
ふたつのセーフティーボタンを備えた頑丈なフォールディングクラスプは、ブレスレットの長さを細かく調節でき、実用的である。ブレスレットは、クラスプ内側のボタンで1cmほど伸長でき、ブレスレットをクラスプ内にスライドさせることで、腕に装着したまま8段階での微調整が可能である。 機能性を問われるクロノグラフにとっては視認性も重要な項目である。ノボノート N-42では、立体的なルミキャスト製アラビックインデックスと、スーパールミノバをインサートしたセラミックス製ベゼルを備えているので、暗所においても良好な視認性が確保されている。
デフォルメされたロケットが描かれた、サファイアクリスタル製トランスパレントバックの下では自動巻きムーブメントWERK17が時を刻む。これは、ラ・ジュー・ペレ社がフォルティスのために設計したものである。WERK17は、コラムホイールによる作動方式で約60時間のパワーリザーブを備える。フォルティスはこのムーブメントを成層圏に送り込み、気圧と温度が宇宙空間と似た過酷な条件下でテストを行った。
標準気圧、標準気温下で行ったテストでは以下の結果が得られた。平均日差がプラス3.5秒/日、最大姿勢差4秒という優秀な結果を見せてくれた。クロノグラフを作動させた状態では平均日差がマイナス0.7秒/日、最大姿勢差は10秒だった。
エッジの鋭さが少し気になるベゼルを除けば、加工は丁寧で、着け心地も快適だ。ノボノートは宇宙での過酷な任務にふさわしいオフィシャル・コスモノート・クロノグラフの後継モデルであり、今回テストしたコバルトブルーカラーの文字盤を備えたモデルはエレガントな印象を与える。
これにて、エンタープライズ号の航星日誌を終える。宇宙暦78年、コッホ艦長記す。