多くのモデルが現れては消えていく時計市場において、エベラールの「クロノ4」は発表から20年以上経つ今もなお、そのユニークな姿をほとんど変えることなく、独特の存在感を放つ。

エベラール:写真 Photographs by Eberhard
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年3月号掲載記事]
20年以上の時を耐えたユニークネス
エベラールが2001年初頭に発表した「クロノ4」は、文字通りセンセーションを巻き起こした。文字盤上に4つのサブダイアルが横一列に並んだ型破りなクロノグラフは、当時、変革の途上にあった時計業界に新風を吹き込むものだった。スポーツカーのダッシュボードを想起させる独特な外観は、多くの時計愛好家を魅了した。エベラールのクロノ4は発表当時に称賛を得ただけではなく、時代が激しく変化し、時計産業がまったく異なる状況になった今でも、多くの愛好家に購入され続けているモデルだ。
このモデルの発表当時、まだアメリカ同時多発テロ事件は起こっておらず、iPhoneも発表されていなかった。そしてテイラー・スウィフトもデビューしていなかったのである。過ぎ去ってしまった遠い過去の世界と現在を結び付ける、不変のアイテムのひとつがこの腕時計だ。有名ブランドのアイコン的モデルではないのにもかかわらず、このような存在感を示す腕時計は、特筆に値するだろう。
ロングセラーモデル

クロノ4の最新モデル「クロノ4 21-42」の検証は、筆者にとって旧友との再会のようである。クロノ4を初めてテストしたのは2001年、発売からわずか数週間後のことだった。現在は『ウォッチタイム』となっているが、『クロノス』ドイツ版だった当時の古い号をめくると、当時販売されていたモデルのほとんどがもう存在しないことに気付く。中には市場から姿を消したブランドさえある。しかし、クロノ4は時代を超えて生き残った。そればかりか、デザインやムーブメントについては、驚くことに発売当初からほとんど変更されてはいない。
当時のモデルと現行モデルの最大の違いは、ケースにある。初代クロノ4のケース径は40mmで、当時としては時宜に適ったものだった。腕時計が大型化する時代は、まだ本格的には到来していなかったのである。なお、派生モデルとして08年、エベラールはケース径43mmの「クロノ4 グラン・タイユ」を発表した。今回検証する最新のクロノ4 21-42はケース径42mmである。
違いはもうひとつある。初代ではサブダイアルのために途切れてしまっていたミニッツスケールが、ひとつながりとなり、クロノグラフ秒針の目盛りも追加されて、視認性に優れるようになったという点だ。クロノグラフ秒針をどこで停止しようとも、経過した時間を正確に読み取ることができるため、計測時の大きなメリットとなる。これを可能にしたのは、ケース径が拡大されたことだけでなく、タキメータースケールがベゼルに移されたことで、文字盤外周にミニッツスケールとクロノグラフ秒針の目盛りが配されたためだ。
時・分針は初代モデルの時から肉抜き加工されたものだった。その理由は、それらの針が4つのサブダイアルの上を通過するとき、表示をできるだけ遮らないようにするためである。現在の時・分針はデザインが若干異なり、アワーインデックス同様、蓄光塗料が塗布されたものだ。初代は、アワーインデックスの外側に、蓄光塗料が塗布された小さなスクエア(12・3・9時位置は三角形)が配され、暗所で判読しやすいようになっていた。
複雑なクロノグラフモジュール

クロノ4が当初とほとんど変わらない姿でいられるのは、ムーブメントの構造によるところが大きい。極めて複雑ながらも熟考されており、今日まで抜本的に見直す必要性が生じていない。筆者は当時、やや懐疑的だった。なぜなら、いくつもの輪列を持った複雑な構造のクロノ4は発売されたばかりで、長期の使用に耐える堅牢さを備えているか否か、まだ立証するに至っていなかったためだ。もちろん、現在に至るまでにムーブメントはモディファイされており、かつてCal.EB. 200だったムーブメントが、今ではCal.EB.251 12 ½となっていることがそれを物語っているが、根本的な原理は当初と変わってはいない。
エベラールは、クロノ4において技術よりもデザインを優先している。ベースムーブメントは、ETAのCal.2894-2(現在も同様)だが、4つのサブダイアルのうち、基となったムーブメント本来の位置に配置されているサブダイアルはひとつもなく、クロノグラフ積算計とスモールセコンドのセットに、24時間表示が追加されているものだ。左から右へ、30分積算計、12時間積算計、24時間表示、一番右にスモールセコンドが配置されている。これを実現するために、Cal.2894-2には輪列経由で動力を伝達するモジュールが加えられた。香箱から針までの距離が長くなることから、理論上、より大きな動力が必要となるが、主ゼンマイはそれほど拡大されていない。その代わり、摩擦とエネルギー損失を可能な限り低く抑えるため、16個の受け石がモジュールに追加されている。歯車だけでなく、レバーにも受け石が備えられ、石の総数は53個となっているが、これも2001年から変わっていない特徴のひとつである。
賢く配置された日付
エベラールが日付ディスクをベースムーブメントに残さず、モジュールの方に統合したのは素晴らしいソリューションだ。その結果、審美性を損なうことなく、日付を文字盤の直下に配置することに成功した。これによって視認性が向上し、外観も向上している。その代償として、2時位置のスタート/ストップボタンを押すと時折、分針が飛ぶ。毎回ではないが頻繁に起こる。仮に、40回連続でボタンを押したと想定すると、40回押すのに20秒しかかかっていないのに、分針が1分近く進んでいる状況を生むことになる。このような使い方をすることは実際、ないものの、この点には2001年のテスト時にも指摘していた。
マッシュルーム型のプッシャーは見事にポリッシュされたものである。2時位置のプッシャーの方が、4時位置のものよりも抵抗感がやや強めだが、操作が困難なほどではない。文字盤のエンボス加工を再現した、ピラミッド型模様のセラミックス製インレイを持つリュウズは、回し心地が滑らかだ。
凝ったディテールではあるが細部にやや難あり
4つのサブダイアルはどれも直径が小さく、当然のことながら視認性は制限されている。左から3つについては問題ないが、スモールセコンドは判読がやや困難で、秒単位で正確な時刻合わせを行うのが難しい。先端が尖っているように見えて、よく見ると丸い4本の小さな針も、視認性が制限される要因となっている。30分積算計では問題ないが、スモールセコンドの針を読むにはルーペが必要である。サブダイアルの4本の針にロジウムメッキを施し、蓄光塗料を塗布するなど、ディテールは凝ったものだが、すべての要素が極小なので読み取りの際には注意深く観察しなければならない。
今回のテストウォッチでは、残念ながら、完全とは言い難い仕上げのディテールが見受けられた。12時のアワーインデックスが少し曲がっているというものだ。
エベラール「クロノ4 21-42」のスペック

プラスポイント、マイナスポイント
+point
・独特な文字盤
・調和の取れたデザイン
・精緻を極めた技術
・快適な装着感
-point
・クロノグラフ始動時に分針が飛ぶことがある
・スモールセコンドの判読がやや困難
技術仕様
製造: | エベラール |
リファレンスナンバー: | 31073.05 CN CU |
機能: | 時、分、スモールセコンド(秒針停止機能付き)、24時間表示、日付表示(早送り修正機能付き)、スイープ運針の30分・12時間積算計を備えたクロノグラフ、タキメータースケール |
ムーブメント: | Cal.EB.251 12 ½(ETA Cal.2894-2ベース)、自動巻き、53石、2万8800振動/時、パワーリザーブ約42時間、特許取得済みのオリジナルの4つのサブダイアル搭載のクロノグラフモジュール |
ケース: | ポリッシュ仕上げのステンレススティール製ケース、ブラックセラミックス製ベゼル、サファイアクリスタル製風防(反射防止加工)、ねじ込み式リュウズ、6本ネジ留めの裏蓋、50m防水 |
文字盤: | クル・ド・パリを思わせる模様のホワイト文字盤、蓄光塗料が塗布されたアプライドアワーインデックス、肉抜き加工され蓄光塗料が塗布されたペンシル型時・分針 |
ストラップ&バックル: | エベラールのロゴ入りブラックラバー製ストラップ、ラグ幅20mm、ステンレススティール製バックル(オプション:ステンレススティール製ブレスレット、アリゲーターレザーストラップ) |
サイズ: | 直径42mm、厚さ13.95mm、ラグからラグまでは50.4mm、重量119g(実測値) |
価格: | 139万8100円(税込み) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
精度安定試験
通常時 | クロノグラフ作動時 | |
最大姿勢差: | 9秒 | |
平均日差: | +2秒/日 | +5秒/日 |
着用時平均日差: | +4秒/日 |
評価
ストラップ&バックル(最大10pt.) | 8pt. | ラバーストラップは優れたデザインであり丈夫。バックルは高品質なものである。 |
操作性(5pt.) | 4pt. | プッシャーは抵抗感がやや強めだが、ピラミッド型模様のセラミックス製インレイを施したリュウズは回しやすい。 |
ケース(10pt.) | 7pt | シンプルかつ堅牢で、文字盤を邪魔しない。 |
デザイン(15pt.) | 13pt. | 遠方からでもひと目でわかる唯一無二のデザイン。 |
文字盤と針(10pt.) | 9pt. | 4つのサブダイアルを備えた文字盤がクロノ4の主役。表面に施されたエンボス加工は、レコードのような溝を持つサブダイアルをうまく引き立てている。 |
視認性(5pt.) | 4pt. | サブダイアルは小さく、視認性も制限される。視力が高ければ暗所でも判読できるだろう。 |
装着性(5pt.) | 5pt. | 作りの良いラバーストラップと鋭いエッジのないステンレススティール製ケースにより、快適な装着感を実現。手首にもしっかりとフィットし、滑り落ちることもない。 |
ムーブメント(20pt.) | 14pt. | 複雑な設計のクロノグラフモジュールは繰り返し改善され、ほぼ完成されたもののように思えるが、クロノグラフ始動時に分針が飛ぶことがあるのが残念な点だ。 |
精度安定性(10pt.) | 8pt. | 平常時もクロノグラフ作動時も、平均日差は良好で安定している。最大姿勢差も許容範囲内。 |
コストパフォーマンス(10pt.) | 8pt. | ユニークなデザインと精巧なムーブメントを考慮すると、適切な価格設定である。ただし、万人受けする腕時計ではないので、リセール時には考慮すべき。 |
合計 | 80pt. |