【82点】タグ・ホイヤー/タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ

2025.04.15

「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」コレクションは1986年以来、タグ・ホイヤーのウォッチコレクションの一部を成す。長年にわたり、タグ・ホイヤーはたびたびその外観を変更してきたが、エントリーレベルのモデルとして、コレクションの重要な一翼を担ってきた。タグ・ホイヤー フォーミュラ1は、人生に対する屈託のない姿勢、遊び心、そして後に都会的なクールさといった価値観を伝えてきた腕時計である。

タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ

ブレーキディスクをイメージしたベゼル。その下にアクセントとして配されたレッドのカラーベゼルがデザインの締めとして効果的である。
リュディガー・ブーハー:文 Text by Rüdiger Bucher
タグ・ホイヤー:写真 Photographs by TAG Heuer
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年5月号掲載記事]


スポーティーかつダイナミック

 タグ・ホイヤーは近年、「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」のデザインチェンジを繰り返し行っている。そのため既存のさまざまなフォーミュラ1の、自動巻きクロノグラフモデルにおける意匠の変化は多岐にわたる。タキメーターの目盛りの数字が大きいモデル、小さいモデル。細長いプッシャーや丸いプッシャー。そして、サブダイアルの周囲の縁が、太くなったり、細くなったりという具合である。

 しかし、2025年初頭に発表された新作は、このモデルにおける進化の完成形だと理解してもよいのではないだろうか。ケースは以前よりもコンパクトになり、同じく丸型の「タグ・ホイヤー カレラ」の意匠から離れることになったのだ。

タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ

ナイトレースがもたらすエネルギーから着想を得た文字盤。アワーインデックスはF1マシンの先端部分の形状であり、文字盤縁のラインは、レーストラックを連想させる。しかしながら、奇をてらったデザインに着地せず、現代的なデザインに落とし込んだ手法は見事だ。

 この印象はデータを見ると確信に変わる。タグ・ホイヤーのデザイナーは、ラグからラグまでの全長を2mm縮めた。正確には49.3mmから47.3mmに変更したのだ。さらにケースの厚さは、14.1mmと、0.5mm薄くなっている。他方、チタン製ケースの実際の直径は44mmと、前作のサイズを踏襲している。

 よく見ると、新作のタグ・ホイヤーフォーミュラ1は、ベゼルと裏蓋だけが曲線を描いていることが分かるだろう。このケースは、曲線や角、エッジが特徴的な、ほぼトノー型のケースに収まっている。それだけでも目を引くのに十分だ。ラグはほんのわずかの長さしかなく、ケースから少し突き出ているだけである。これにより、ラバーストラップがケースからシームレスに伸びているように見え、コンパクトな印象が強調される。側面の穴に固定するためのスプリングバーは、正面からは見えない。この新しいケース形状により、タグ・ホイヤー フォーミュラ1は、これまで以上に独自のアイデンティティーを獲得。タグ・ホイヤー カレラのような、ほかの丸型ケースの腕時計との明瞭な差別化が図られた。

 改良されたデザインにより、タグ・ホイヤー フォーミュラ1は以前よりもさらにスポーティーな印象を与える。プッシュボタンは再び細長い形状となった。この特徴は、13年に発表されたモデルで、最後に見られたものである。しかしながら、同じ形状のプッシャーとはいえ、25年に発表された新作の外観はかなり異なるのだ。

 プッシャーは、リュウズの両脇に面を作り、そこにはめ込むように設計されている。このケース形状の処理は、近年のモデルに採用された丸いプッシャーとは、明らかに異なる。さらに、プッシャーには、エッジの効いたファセットが施されており、ケースの滑らかなエッジと調和している。

タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ

バックルはラバーストラップに対して、機能面でもデザイン面でも、よくマッチしたものである。

効果的なアクセントカラー

 全体的に、個々の要素がより明確に強調されている。例えば、タキメータースケールは、前モデルのデザインが控えめだったのに対し、目立つ読みやすい数字が特徴的だ。サブダイアルは24年に発表されたモデルと比較して、より鮮やかな色が使われている。時刻を示す時針と分針は磨き上げられ、シルバーグレーのロジウムコーティングが施されている。クロノグラフ機能を表示する3本の針はすべて同じカラーで、テストウォッチではレッドだった。同じカラーは、見返しリング内のドット、ベゼル上の小さなブランドロゴ、リュウズ、そしてブレーキディスクを思わせるベゼルの下に配された、カラーベゼルにも使用されている。

 レッドカラーのタグ・ホイヤー フォーミュラ1は、その色彩の特徴上、特にダイナミックな効果があるのだろう。ブルーやライムカラーのバリエーションもラインナップに含まれている。どちらもブラックDLCコーティングが施されたチタンケースを採用し、より落ち着いた印象を与えるモデルだ。さらに、ブラックDLCのケースに、レッドラバーストラップを組み合わせた、もうひとつのレッドバージョンもあり、これはレースファンを喜ばせるに違いない。

チタンケースを採用

タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ

裏蓋はソリッドバック仕様のため、ムーブメントを眺めることはできない。ただし、回転ローターを思わせる形状のチェッカーフラッグの模様があしらわれている。

 これまでのタグ・ホイヤー フォーミュラ1のケースは、ステンレススティール製であったが、このモデルではチタンを採用。チタンはステンレススティールよりも約44%も軽量でありながらも比強度(同じ重量あたりの強度)は約3倍の強度を誇る。モータースポーツの世界では多く使用される素材だ。これは重量面で顕著に現れており、111g(実測値)のこの腕時計は、約200gあったステンレススティール製の前モデルの約半分ほどの重量しかない。タグ・ホイヤーは、タグ・ホイヤー フォーミュラ1のケースにグレード2の純チタンを採用した。これは腕時計製造においては特殊な例で、ほとんどのメーカーは合金のグレード5チタンを使用している。なお、アルミニウムとバナジウムを加えたこの合金は、硬度がほぼグレード2チタンの2倍になる。他方、グレード2チタンは純度が99%以上で、耐食性はそれよりも高い素材なのだ。

 価格面では、タグ・ホイヤー フォーミュラ1は現在、タグ・ホイヤーのエントリーレベルのモデルであるにもかかわらず、最低でも70万4000円という価格だ。しかし、この腕時計はデザインが優れているだけでなく、多くの高品質なディテールが見受けられる。例えば、アプライドされたアワーインデックスは、拡大鏡でのぞくと、F1カーを彷彿させるフォルムだ。ファセット加工と研磨仕上げが施されたこのアワーインデックスの表面は、魅力的な光の反射を生み出している。時針と分針も同様だ。

実績のあるムーブメント

タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ

本作はスポーツをプレイ中でも快適に着用できる。数週間にわたって着用テストをしたが、その精度はCOSC認定クロノメーター基準に収まるものだった。

 タグ・ホイヤーは、この腕時計のムーブメントに、実績のある既製品を採用した。タグ・ホイヤー フォーミュラ1の自動巻きクロノグラフムーブメントは、前作から引き続き、Cal.16だ。かつては、ETA7750をベースとしていた。だが、現在ではデザインと寸法が同一である、セリタのSW500をベースとする。自社製ムーブメント、Cal.TH20-00のみを搭載し、「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」とは明確に異なっている。

 信頼性の高いこのムーブメントは、約42時間のパワーリザーブという性能であり、タグ・ホイヤーによって精度が巧みに調整されている。これは、ウィッチのタイムグラファー(歩度測定器)も証明するところだ。6つの姿勢で計測したところ、姿勢差は最大で6秒となっていた。平均日差はクロノグラフ非作動時では、プラス2秒と優れているが、クロノグラフが作動していると、マイナス2秒となった。なお、手首に装着した場合では、わずかな差が観察された。

 カレンダーは午後10時30分過ぎに動き出し、午後11時55分に少し早くジャンプする。これは許容範囲内だろう。自社製ムーブメントではないためか、タグ・ホイヤーは裏蓋にねじ込み式のソリッドバック仕様を採用した。そのためムーブメントの回転ローターは見えず、裏蓋にはエンボス加工されたチェッカーフラッグのパターンが付いた、スタイリッシュなマークが見受けられる。形状は回転ローターのようだ。また、裏蓋にねじ込み式を採用した理由は、200m防水の性能を備えるためでもある。

 まとめると、タグ・ホイヤー フォーミュラ1は、以前よりもさらにスポーティーであり、何よりもダイナミックな外観となった。ここ数年のさまざまなデザインチェンジを経て、この腕時計にふさわしい、新たなデザインがやっと与えられたのだ。他のモデルとイメージが被らない、独立性の高いものである。そして価格も上昇。新しいチタン製モデルは70万4000円からとなり、ステンレススティール製モデルの56万6500円から値上がりした。高級で加工が難しい素材を使用しているだけでなく、目を引くデザインと、洗練されたディテールをもって、この価格上昇を正当化できるだろう。


タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ」のスペック

タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ

「タグ・ホイヤー フォーミュラ1」のカーレーシングというテーマから、見事なまでに現代的なデザインで完成させた腕時計である。

プラスポイント、マイナスポイント

+point
・モータースポーツを彷彿とさせる力強い新デザイン
・快適な装着感の素材
・優れた視認性
・時刻表示とクロノグラフ機能の視覚的な分離

-point
・パワーリザーブは長くない

技術仕様

製造: タグ・ホイヤー
リファレンスナンバー: CBZ2082.FT8096
機能: 時、分、スモールセコンド(秒針停止機能付き)、日付表示(クイックチェンジ)、30分・12時間積算計を備えたクロノグラフ
ムーブメント: セリタCal.SW500をベースとしたCal.16、自動巻き、2万8800振動/時、パワーリザーブ約42時間
ケース: グレード2チタン製ケース、サンドブラスト仕上げ、目盛り付き固定タキメーターベゼル、ベゼル下のカラーベゼル、プッシャーとねじ込み式リュウズ、フラットな反射防止サファイアクリスタル製風防、ねじ込み式裏蓋、200m防水
文字盤: ブラック、アプライドアワーインデックス、ホワイトカラーのスーパールミノバを塗布した時針と分針およびインデックス
ストラップ&バックル: ブラックのラバー製ストラップ、ステンレススティール製バックル
サイズ: 直径44mm、厚さ14.1mm、ラグからラグまで全長47.3mm、バンド幅24mm、重量111g(実測値)
価格: 70万4000円(税込み)

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験

クロノグラフ非作動時 クロノグラフ作動時
最大姿勢差: 6秒 6秒
平均日差: +2秒/日 −2秒/日
着用時平均日差: +5秒/日 +4秒/日

評価

ストラップ&バックル(最大10pt.) 8pt. シンプルで頑丈なラバーストラップを採用。汗をかいても快適だ。切削加工されたピンを備えた、機能的なバックルも魅力的である。
操作性(5pt.) 5pt. つかみやすく、操作しやすいリュウズと、固くない押し心地のプッシャーは快適である。
ケース(10pt.) 8pt しっかりとした作りのケースを採用。裏蓋にはチェッカーフラッグをモチーフとしたエングレービングが施されている。チタン製ケースを採用し、前モデルよりも大幅に軽量化かつ薄型化している。
デザイン(15pt.) 13pt. 魅力的なスポーツウォッチだ。適切にデザインされた文字盤レイアウトと、考え抜かれた誇張し過ぎない色使いを実現。レーシングテーマがうまく表現されている。先代モデルよりもコンパクトになり「タグ・ホイヤー カレラ」との違いがさらに際立っている。
文字盤と針(10pt.) 8pt. スポーティーでしっかりとしたコントラストが特徴。高品質かつ、レーシングカーの先端を模したアワーインデックスと、縁が盛り上がったサブダイアルが文字盤に高級感を与えている。 全体として、非常に優れたデザインである。
視認性(5pt.) 5pt. コントラストが良好で、蓄光素材が使用され、時刻表示とクロノグラフ機能で異なるカラーが採用されている。メインの針がスケルトン加工されているため、サブダイアルも非常に読み取りやすい。
装着性(5pt.) 5pt. 腕にフィットし、不快な重心の偏りがない。軽いが、軽すぎない。鋭い角はなく、感触は良好だ。
ムーブメント(20pt.) 14pt. 信頼性が高くパワフルなセリタ製大型ムーブメント、Cal.SW500をベースに、タグ・ホイヤーが適切に精度調整を行っている。
精度安定性(10pt.) 8pt. 非常に良い平均値で、すべての値はCOSC認定クロノメーターの範囲内にある。クロノグラフ作動時、非作動時を問わず良好だ。姿勢差はあり、垂直方向の位置では振れ幅が大きい。
コストパフォーマンス(10pt.) 8pt. 前モデルよりも高価である。主にチタンという高価な素材をケースに採用したためだと考えられる。しかしながら、現代的で魅力的なデザインだ。全体的に価格は妥当ではないだろうか。
合計 82pt.



Contact info:LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030


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