【93点】ロレックス/オイスター パーペチュアル シードゥエラー

2017.11.18

ロレックスの3つのダイバーズウォッチ。左から、サブマリーナー デイト、シードゥエラー、ロレックス ディープシー。比較すると、新作のシードゥエラーのラグがスリムになっていることがよく分かる。


シードゥエラーはロレックスのダイバーズウォッチの中で最も調和の取れたモデルである。
ロレックス ディープシーは厚さがあり過ぎ、サブマリーナーはスポーツウォッチとしては薄過ぎる。

 ロレックスがブランド初のダイバーズウォッチ、サブマリーナーを発表したのは1953年のことである。1967年にはシードゥエラーがこれに続く。デザインにおいてはサブマリーナーと酷似していたが、シードゥエラーは職業潜水士向けに開発された時計であり、より高い防水性能を備え、ロレックスが自社開発したヘリウムエスケープバルブを搭載していた。発売から50年が経った今年、2014 年にリリースされたこれまでのシードゥエラーに代わる新しいモデルが発表された。

 今回の新作では、ロレックスにしては珍しく、多くの新しい点が見られる。文字盤の“SEA-DWELLER”の赤い文字は初代モデルを想起させ、ロレックスが自社開発した新ムーブメント、キャリバー3235は今回、プロフェッショナルモデルに初めて投入された。ひと目で気づく新しい点は、40㎜から43㎜に拡大されたケース径と、シードゥエラーのラインではこれまで一度も採用されたことがなかったサイクロップレンズだろう。

 シードゥエラーにサイクロップレンズが装備された点については、やや批判的に見る純粋主義的な愛好家も存在する。サイクロップレンズはシードゥエラーでいまだかつて搭載されたことがなかったからである。これまで、モディファイには常に慎重な姿勢で臨んできたロレックスにしては、拡大されたケースも含め、今回の変更はかなり大胆と言えるだろう。

 新作シードゥエラーはデザインもまた素晴らしい。ケース径40㎜のサブマリーナーの拡大版のようにも見えなくはないが、これは決して欠点ではない。逆回転防止ベゼル全周に配されたミニッツスケールや文字盤の赤いモデル名により、サブマリーナーよりもアピール力が強い。細かい点に言及すれば、ロレックス ディープシーやサブマリーナーよりも、シードゥエラーではプロポーションがより重視されたようである。今回のテストモデルではラグがこれまでよりもスリムになったことで、ケースが両者よりもエレガントな印象を与え、あまり角張って見えなくなった。ケースサイズが44㎜のロレックス ディープシーではブレスレットがスリムに見えるが、新作シードゥエラーでは幅広いことから、全体的により調和の取れた仕上がりとなっている。

調和の取れたプロポーション

 15㎜というケースの厚さも、ケース径とのバランスが良い。ロレックス ディープシーはやや無骨な印象を与え、サブマリーナーはスポーツウォッチにしては薄過ぎる感があるが、シードゥエラーは時宜にかなったサイズ感で、ダイバーズウォッチとして極めて美しい。

 機能において、新作シードゥエラーは本来の役割に忠実である。新作でも1220mの防水性能は確保され、本来ならば飽和潜水時に減圧タンクに入って作業する職業潜水士しか必要としない機能だが、ヘリウムエスケープバルブも装備されている。減圧タンクの中ではヘリウムと酸素の混合気体が呼吸ガスとして使用されていることから、減圧タンク内の圧力が上昇すると、時計のパッキンを通してこの混合気体がケース内に浸透する。高圧状態やさまざまな呼吸ガスが人体にどのような影響を及ぼすかを調査したアメリカ海軍のSEALABに参加した潜水士も報告しているが、減圧時には、ケースの外に逃げ切れなくなった混合気体によって時計の風防が破損する恐れがある。そのため、時計のケース内に浸透したヘリウムガスを安全に外に逃がすことのできる安全弁が必要不可欠であった。このような理由からロレックスは、1967年にヘリウムエスケープバルブを開発し、シードゥエラーに搭載した。このヘリウムエスケープバルブはシードゥエラーの名を世に広め、多くのブランドもこれに追随することになった。

 ロレックスはまた、1970年代の初頭からフランスの潜水会社、COMEX社とも協力し、さまざまな技術を開発している。COMEX社に所属する職業潜水士は全員、ロレックスから時計の提供を受け、自らの経験をロレックスに報告することで時計技術の発展に貢献した。COMEX社は海底ケーブルの敷設や、石油プラットフォームなどでの作業のために潜水士を派遣する企業であり、難破船や難破貨物をサルベージする技術を持つ。COMEX社は自社でこうした作業のためのツールを開発し、さまざまな呼吸ガスで実験を行っている。また、COMEX社は数多くの潜水記録を樹立しており、潜水士たちの難業には常にシードゥエラーが同行してきた。

 ロレックスは、COMEX社の記録の一部をシードゥエラーの宣伝に使用している。1972年にCOMEX社に所属するふたりの潜水士が減圧タンクに入り、610mの水圧に相当する水中で50時間滞在したのもその一例である。後に、水深500mの海中で作業した潜水士もおり、1992年には、COMEX社所属の潜水士が減圧タンクで水深701mまで到達するという偉業を成し遂げた。こうした記録からは当時、610mというサブマリーナーの約3倍の防水性能とヘリウムエスケープバルブを備えたシードゥエラーを、COMEX社が実際に必要としていたことがうかがえる。