【88点】オメガ/ スピードマスター レーシング マスター クロノメーター

2019.12.16

高級腕時計は恋人のようなものである。長所を見て喜び、短所からは目を背ける。
オメガのスピードマスター レーシング マスター クロノメーターに果たして弱点はあるのだろうか。

スピードマスター レーシング マスター クロノメーター

アレクサンダー・クルップ:文 Text by Alexander Krupp
ニック・シェルツェル:写真 Photographs by Nik Schölzel
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto

+point
・秀逸な加工
・革新的な技術を搭載したムーブメント
・素晴らしいデザイン
・非常に高い精度
-point
・スケールの目盛りが過多
・リュウズが引き出しづらい

オメガ
ビエンヌを拠点とするオメガは、アポロ計画の宇宙飛行士や俳優のジョージ・クルーニーなどの多くの著名人、また映画の主人公ジェームズ・ボンドが着用していることで有名なブランドである。しかし、それよりも重要なのは、オメガがほぼすべてのコレクションで革新的な技術を導入しながらも、現実的な価格で時計を供給している点である。これは、他の競合ブランドと比較しても大きなアドバンテージと言えるだろう。コーアクシャル脱進機やシリコン製ヒゲゼンマイは高い精度に貢献し、新素材の採用により、インナーケースでムーブメントを包むことなく超高耐磁性が実現した。その高い耐磁性能は、METAS(スイス連邦計量・認定局)による試験を経て、認定されている。


スピードマスター レーシング マスター クロノメーター

安全かつ快適。片方のみ開くシングルフォールディングバックルはプッシュボタン式。

時計への愛は人を夢中にさせる

 恋人のすることはなんでも正しく見える。これは、誰もが思ったことのある経験だろう。見た目も、その日の気分も、行動も、すべてを好ましく思う。歯と歯の隙間も、肩のほくろも、たとえ理想から多少ずれていたとしても、あなたの目には欠点として映らず、逆に彼あるいは彼女の完璧さを演出するひとつの要素にさえなる。

 良い腕時計に出会った時も、これと同じ感覚に襲われることがある。好ましい外観や心地よい着用感に加え、精度が高ければ恋に落ちること間違いなしである。針が細すぎるように感じても、スケールの目盛りが過多で煩雑に見えても、これらが不快感を誘う要因になることはなく、時計としての機能的な完璧さよりも、その時計に対するエモーションこそが本来の目的だったことを再認識させてくれるのである。

 オメガのスピードマスター レーシング マスター クロノメーターについても同様で、長所の多くと、不満の対象となり得る点のほぼすべてを、これで説明できたと言えるだろう。スピードマスター レーシング マスター クロノメーターはどこから見ても説得力のある腕時計である。スポーティーでエレガントなデザインは、ラジカルになりすぎることなく、極めてエキサイティングな仕上がりで、極端に高額な価格設定でないにもかかわらず、独創的な技術が集約された価値の高いムーブメントが搭載されている。