【76点】クロノグラフのない 〝クロノ〟

2018.07.31

 1970年に発表されたモータースポーツ用クロノグラフ、クロノリスが昨年、3針時計として復活した。オーバルなフォルムのステンレススティール製ケース、分の計測用に備えられた回転式インナーリング、日付、3本のセンター針という外観はオリジナルモデルそのものだが、オレンジ色のセンター秒針は計時ではなく、通常の時刻表示を行うためのものである。発表から間もなく半世紀を経ようとする2017年、クロノリスはその名を表すクロノグラフ機構を初めて手放した。だが、クロノグラフ機構非搭載だからといって新生クロノリスの魅力が損なわれているかと言えば、そうではない。1970年の初代クロノリスと同じ針の数であるにもかかわらず、この時計はオリジナルモデルよりもスポーティーでクリーンな外観に仕上がっている。

 針の数をクロノグラフ機構搭載モデルと同じにできたのはなぜだろうか。その答えは、オリジナルモデルが通常のクロノグラフ機構を搭載した時計とは異なる設計を持っていたからだ。オリスが独自の基準でデュボア・デプラに作らせていたクロノグラフムーブメント、キャリバー725には、クロノグラフと同時に進行する時刻表示用の秒針がなく、分積算計と時積算計もなかった。時分針と共に文字盤の上で回転していたのはクロノグラフ秒針だけである。そのため、1分を超える計時を行いたい場合は、4時位置にあるねじ込み式リュウズを解除し、回転式のインナーリングを分針に合わせる必要があった。操作には通常のクロノグラフよりも手間がかかったが、その代わりオリスは、ブランド初のクロノグラフ搭載モデルに控えめながらもクリアで個性的な外観を与えることに成功したのである。

 魅力的なデザイン

 初代モデルよりもすっきりとした仕上がりは、特にタキメータースケールを廃したことで実現した。クロノグラフ非搭載モデルにおいては、タキメータースケールはあまり意味を持たない。また、新生クロノリスでは、オリジナルモデルでその4分の3がオレンジ色だったインナーリングが全体的にシルバーカラーとなり、文字盤をよりシンメトリカルに演出している。秒針はオリジナルのクロノグラフ針同様、パワフルなオレンジカラーである。また新生クロノリスでは、オレンジカラーをアワーインデックスにも見ることができる。

 ステンレススティール製のブレスレットも、スポーティーなレトロデザインにふさわしい。15列ものコマで構成され、セーフティーフォールディングバックルを備えた独創的なブレスレットは、洗練された外観の演出に貢献するだけでなく、コマに丸みを持たせてあることから手首の形状によく馴染み、固定にもネジ留めを使うなど、堅牢に設計されている。フォールディングバックルは、プッシュボタンで片側のみ開く方式で、開閉も極めてスムーズに行うことができ、頑丈な作りながらも着け心地は快適である。デザインの美しい裏蓋は、日々使っているうちに傷ついてしまうが、これは加工の性質上やむを得ない点である。傷を減らすには、裏蓋の表面に凹凸を施さなければならず、当然のことながら手間とコストがかかってしまう。

 ブレスレットとオーバル型ケースの連結部も、70年代の様式を見事に再現している。サテン仕上げが放射状に施された上面を除き、ケースは70年当時と同様、全体的にポリッシュで仕上げられているのだ。クローズドバックもオリジナルモデルを踏襲したものである。ただ、シースルーバックではない方がオーセンティックとはいえ、内部機構が見られないのは少々残念だ。搭載されているセリタ製自動巻きムーブメント、キャリバーSW200には特に装飾は施されていないが、中央部の赤い、ブランド特有のローターが採用されている。このローターはオリスの機械式コレクションのシンボルとして知られている。ステンレススティール製のねじ込み式裏蓋にはオリスの伝統的な紋章がエッチングで施されているが、彫りはあまり深くない。