もしも我々編集部のテスト対象が腕時計ではなく、人間の男性だったらどうだろうか。その相手が旧知の存在で、白髪交じりの外見であるとすれば、若い頃の黒髪より落ち着きを感じさせるはずだ。かつてとは異なり、若さゆえの不安定さや荒っぽさは抜け落ち、円熟した魅力を放っているに違いない。つまり昔より時を重ねた分、今のほうがより良くなっている可能性が高い。
実際1962年に発表され、2017年に再登場したモータースポーツクロノグラフのオウタヴィアは50年以上の年月を経て開発が進み、以前は表現しきれなかったことが可能になった。傷に強いサファイアクリスタルを風防やケースバックに採用、自動巻きと日付表示を装備して、そしてなによりも、紛うことなき自社開発ムーブメント搭載と相なったのだ。
オリジナルのキャリバー ホイヤー02は、熟考を重ねた自動巻きムーブメントだ。赤い着色が目を引くコラムホイールにより制御され、クラッチは作動が確実な垂直型、大きな香箱は約80時間のパワーリザーブを持ち、黒い被膜に覆われたローターを使用した最新のデザインにまとめ上げられている。では、このムーブメントは完成までどのように練り上げられたのだろうか?自社ムーブメントの開発は2011年に始まっている。13年にキャリバー1969という名で登場したが、その後CH80に名称が変更され、それから間もなく開発は休眠状態になる。その数年後、このムーブメントはさまざまな面で最上の状態にまで高められた。中でも最も重要な改良点として、高い耐久性を得るためにムーブメント全体の厚みを増したことと、巻き上げおよび針合わせ機構の歯車の歯先がより最適化されたこと、日付ディスクの制御がより精密化したことが挙げられる。そして16年にはトゥールビヨンバージョンのホイヤー02Tに進化して、見事に作動テストを終えた。このムーブメントはタグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02トゥールビヨンのエンジンとしてC.O.S.C.の試験を受け、同年に710個が公式クロノメーターに認定されている。
魅力的な価格を実現
一方で、前述の自社ムーブメントのトゥールビヨンのないバージョンは、製造の効率化と原価の理由からネジ留めを極力少なくして、できる限りパーツ同士の留め合わせもしくは組み込みで作り上げることが心掛けられた。伝統的な時計製造の手法にとらわれなかった結果、このムーブメントを搭載したオウタヴィアはクロノグラフとしてセンセーショナルな58万円という価格が実現した。これはブレスレットモデルの価格だが、レトロな風貌によく似合うブラウンストラップのモデルでは56万円だ。さまざまなブランドのクロノグラフと比較してもかなり魅力的ではないだろうか。
オウタヴィアはムーブメントをかなり合理的に構築しているが、ベゼルについてもコストカットに成功している。傷に強いセラミックスではなく、これまでよく使われてきたアルミニウムを素材に選択して仕上げたのだ。ベゼルはスムーズに回せて使い心地がよい。縁に刻みが入っているのでつかみやすく、クリックの感触も軽く華奢なものではない。そのため、動かすごとにキチキチとしっかりした手応えを感じながらセッティングできる。加えて、操作性が実に優れていると感じるのはリュウズを引き出す時と回す時、それからスタート/ストップボタンを押す時だ。それに対して4時位置のリセットボタンは押した時の手応えに欠け、クロノグラフ停止時にうっかり触れて意図せず帰零することがあり得るかもしれない。
新世代最初のモデル。デュボア・デプラのクロノグラフモジュールを積んだETAムーブメントを搭載。
Ref.2446の第3世代。最新型はこれを基にしている。
オウタヴィアと名付けられた初代モデル。リファレンスナンバーは2446。