【94点】ロレックス/ オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ

2018.11.05
研究、染色、特許

 1954年のオリジナルモデル誕生当時、ベゼルはまだプレキシガラス製で、赤と青の色と白いスケールは裏側からプリントされていた。1959年から2005年まで、ベゼルはアルミ製だった。この時の赤と青はアルマイト加工によって得られたものである。その後、ベゼルは酸化ジルコニウムのセラミックスで作られるようになったが、前述の通り、これには色の問題を伴っていた。セラミックスは鉱物性顔料を添加することで着色できるが、鮮やかな赤を出せる鉱物性顔料がなかったのが問題だった。そこで、ロレックスは長年にわたる研究の末、酸化アルミニウムをベースとしたセラミックスを採用し、酸化クロムと酸化マグネシウム、レアアース系酸化物を混合した。鮮やかな赤のセラミックベゼルはこうして生まれたのである。青い色を出すためには、焼結する前に、ベゼルの半分に金属塩を含んだ溶液を浸透させておく。ルーペで観察すると、青い層の下に赤いベースがあることを確認することができる。1600℃に設定された焼結炉の中で24時間以上焼結させると、色が定着する。この工程ではセラミックスが少し収縮するので、硬いダイヤモンド製フライス工具で精密な形状に加工しなければならない。

赤と青で構成されるツートンカラーのセラクロムベゼル。青い層の下にほんのりと赤い色を認識することができる。この青を出すため、特殊な金属塩が開発された。

 長い年月の後までベゼルの数字が消えず明確に認識できるよう、スケールリングは全体的にプラチナでPVDコーティングした後、ポリッシュする。数字とポイントマーカーの深くなった部分だけにプラチナが留まるようにするためである。GMTマスターの旧型モデルではベゼルの色がすっかりあせてしまうものが多かったが、新型ベゼルは紫外線の影響も受けにくい。

 ホワイトゴールド製の赤青ベゼルのモデルと異なり、しかも、GMTマスターⅡのすべての先代モデルと異なるのは、今回初めて新型ムーブメント、キャリバー3285が採用された点である。クロノグラフを除き、ロレックスのすべての自動巻き時計には、キャリバー31XXシリーズ、あるいは、パワーリザーブが約48時間から約70時間に向上した新型ムーブメント、キャリバー32XXシリーズが搭載される。新しい18Kエバーローズゴールドモデルとステンレススティールとエバーローズゴールドのロレゾールモデルを除き、GMTマスターⅡの他モデルで搭載されているキャリバー3186に比べ、新型ムーブメントで改善されたのは、ローター部にボールベアリングが採用されている点である。ロレックスが自社開発したパラフレックス ショック・アブソーバは衝撃を和らげると同時に復元力にも優れている。

 GMTマスターⅡでユーザーにとっての最大のメリットは、より長くなったパワーリザーブだろう。約2日間だったパワーリザーブが、今回はほぼ3日間に延長された。これには、効率がより高くなったクロナジー エスケープメントが大きく貢献している。アンクルとガンギ車は形状が見直された。また、電解メッキで微細加工を行うLIGAプロセスによって部品を透かし彫り状に仕上げることで、一層の軽量化が実現した。さらに、原料であるニッケルとリンの合金により、磁場の影響を受けないという恩恵を受けたことも大きなメリットである。

 その他の長所は、ロレックスのムーブメントではよく知られたものばかりである。片持ちのテンプ受けではなく、極めて頑丈な両持ちのテンプ受けや、常磁性を持つニオブとジルコニウムの合金、パラクロムで出来たヘアスプリング、テンワのマイクロステラ・ナットで微調整を行うフリースプラングテンプなどを採用している点である。専用ツールを用いれば、ムーブメントをケースから取り出すことなく微調整することができる。

 ロレックスは、ムーブメントの精度、耐久性、堅牢性において、常にさらなる改善を目指し、研究を続けている。装飾については、サンバーストなどは施されているが、手彫りのエングレービングまでは期待してはならない。新型ムーブメントであることは、文字盤のディテールからも確認できる。「SWISS MADE」というふたつの単語の間に極めて小さなロレックスの王冠が配されているのである。

 ロレックスでは常のことだが、新型ムーブメントもスイス公認クロノメーター検査協会(C.O.S.C.)が行う過酷な温度環境やさまざまな姿勢のテストで、高い精度を証明している。また、ロレックスが独自に設定している規準はさらに厳密な微調整を求めるもので、平均日差はマイナス2秒/日からプラス2秒/日以内に収まらなければならない。歩度測定器では、今回のテストウォッチはこの高い期待に応えてくれた。計算上の平均日差はわずかプラス1秒、日差は6つの姿勢すべてにおいて0秒からプラス3秒/日で、最大姿勢差も3秒と、極めて小さい。さらに、水平姿勢から垂直姿勢の振り落ちも許容範囲内だった。



 人気、熱狂、入手困難

 GMTマスターⅡは88万円と、価格的にはミドルクラスに属す。市場には、セカンドタイムゾーン機能付きの自社製ムーブメントを搭載したモデルでもっと安価なものもあるが、もちろんこれよりも高額なモデルも存在する。いずれにしても、残念ながら、今後数年間は、このステンレススティール製の赤青ベゼルモデルを購入することは難しいだろう。

 とはいえ、赤と青のステンレススティール製GMTマスターⅡのニューモデルは文字通り、大当たりしたわけである。デザインは過去60年間でほとんど変わっていないが、この時計はすでに古典的傑作としての地位を築いている。だが、決して古びて見えず、タイムレスな外観である。ジュビリーブレスレットもこのモデルによく似合う。ロレックスは技術をさらに進化させ、ロングパワーリザーブを備えた新型ムーブメントを与えることで真の意味での付加価値を創出した。機能面でも、ブレスレットのエクステンションシステムやセカンドタイムゾーンなど、他の時計メーカーよりもはるかに多くのものを提供している。また、精度、視認性、装着感、どれを取っても極めてレベルが高い。残念なのは、トランスパレントバックではないことくらいだろう。あとは、引きも切らずに舞い込むオーダーに対して、ロレックスが直ちに対応できたら、どんなに素晴らしいことだろう。

 遠回し、かつ、ためらいなく言うならば、需要が供給を上回る。


新型ムーブメント、キャリバー3285には、先代ムーブメントの高い精度と堅牢性に加え、より実用性の高い約70時間のパワーリザーブが与えられた。同キャリバーを搭載しているGMTマスターⅡであるかは、ダイアルの「SWISS MADE」という語間に王冠マークが配されているかで見分けることができる。