【85点】チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」

2021.11.25

チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」

ケースは往年のモデルでよく使用されていたシルバー925製。独自の金属配合の内訳は明かされていないが、シルバー特有の黒ずみが基本的には発生しにくいという。

 チューダーは近年、一段と人気が高まったブランドのひとつだ。その理由は、何よりも魅力的なモデルをそろえたことにあるだろう。そこに確実に含まれるのが、「ブラックベイ」と2018年に発表された小型版の「ブラックベイ フィフティ-エイト」だ。今回のテストでは、21年に発売されたトープカラー(灰褐色)の文字盤とベゼルを備えたシルバーケースのモデルを取り上げよう。

「フィフティ-エイト」という名称は、チューダーが1958年に同社で最初の200m防水のダイバーズウォッチを発表したことにちなんでいる。それは、フランス海軍が潜水任務遂行に理想的な腕時計を求めてチューダーに発注したものだった。後にフランスでは、潜水競技の選手が使用する装備品として採用されたこともある。

 ブラックベイ フィフティ-エイトのケース直径が39㎜というのは当時のサイズを踏襲してのことだ。ベゼルに囲まれた文字盤は若干小さめでかわいらしいとさえ感じるが、そこに当時のトレンドが表れている。

 ヴィンテージウォッチ風の印象を高めているのは風防だ。現在は傷に強いサファイアクリスタル製のものが使われることが多いが、このモデルでは昔のようなドーム型のものを採用している。昔のスタイルに沿って、文字盤も膨らみを帯びた形状だ。同様に、細身のラグや回転ベゼルのフォントも、チューダーの歴代モデルに見られる要素が取り入れられている。加えて、注目すべきは日付表示をなくしていることだろう。これがヒストリカルな仕上がりをより引き立てている。また、チューダーでは有名な〝スノーフレーク針〞は69年に登場したものだ。

 一方、2021年に登場した「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」では、文字盤とベゼルに褐色を帯びたトープカラーに仕立てている。この色はあたかも黒が色あせたかのようにも見えて、ヴィンテージ風のデザインにもぴったり合う。同時に、インテリア界を中心に注目されている最新の流行色でもあるのだ。

組成比非公表の シルバー合金を使用

 そしてこの温もりのある色合いは、ケースのシルバーにもよくなじむ。ケース素材はシルバー925だ。つまり、銀の含有率は92・5%で、残りの7・5%は別の金属から成っている。一般にスターリングシルバーと呼ばれるものは貴金属の含有率が高い。他に加える金属で最も使われるのは銅で、わずかに赤みのある色調になる。もっとも、スターリングシルバーは時間の経過とともに黒ずんでくるのが欠点で、これは磨いて取るしかない。

チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」

ケース裏側はダイバーズウォッチには珍しいトランスパレント仕様。搭載ムーブメントのキャリバーMT5400は優れた設計で精度も優秀だ。

 チューダーは別の金属を使用することでその問題を解決した。新たに開発した独自のシルバー合金は時間が経っても黒く変色しないとのことだ。残念ながらその金属が何かは明かされていないが、経年変色を防ぐために加えるものとしてはパラジウムやゲルマニウムがあり、これらを加えると硬度も増すことは知られている。

 とはいえ、ステンレススティールよりはゴールド寄りの硬さだそうだ。輝きは目立って明るいが、色はステンレススティールやプラチナと比較して温かみがある。

 回転ベゼルはシルバー925製で、ディスクはアルミニウム製であるため、その上に印字された目盛りと数字はセラミックス製ベゼルのように傷に強いとは言えないが、表面は艶消し仕上げでヴィンテージスタイルにはこちらの方が見た目も良い。これらのことを踏まえるとデザインはよく練られていて、色も調和していると言える。

 幸いなことに、機能性については引っ掛かるところが何も見当たらなかった。針やインデックス、アワーマーカーに蓄光塗料がふんだんに使われているので、視認性は昼夜を問わず最高レベルにある。リュウズはつまみやすく、ねじ込み式になっているのは中のムーブメントを保護するためで、ゼンマイを巻き上げる時と針を合わせる時はスクリューロックを緩める必要がある。ストップセコンド機能が付いており、日付表示がないためにリュウズを引き出すポジションがひとつ少ないので、針合わせも楽だ。ベゼルの側面には細かな溝が付けられていてしっかりとつかめ、逆方向には回らないため安全性も確保されている。加えて分刻みで設定できるので使いやすい。

 インデックスもよく発光し、深さが増すごとに暗くなる水中でも潜水時間は把握可能だ。ケースは200m防水なので、実際にダイビングでも使用できる。その場合は別売りの水に強いファブリックストラップに替えるのがおすすめだ。

ストラップには選択肢あり

チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」

ケース直径は39mm。主張は控えめで、やや細い手首にも違和感なく似合うのがうれしい。

 今回のテスト用に借りたモデルは、ダークブラウンのレザーストラップが取り付けられているタイプだ。明るい色のステッチとのコントラストが効いていて仕上がりも良い。内側にはラバー素材を貼り合わせてあり、手首によくフィットする。シルバー製のバックルはすっきり整えられた実用的な尾錠式だ。ここだけを見ても加工が非常に優れているのが分かる。しかしクロノスドイツ版編集部としては、尾錠にかけてかなり細めの幅になっているこのレザーストラップもいいが、センターにシルバーのラインが引かれたトープカラーのファブリックストラップも気に入った。こちらはストラップの先端が細すぎず、より落ち着いた印象を与える。その一方で、このモデルには極めて惜しいと思う箇所もある。ダイバーズウォッチであるブラックベイで初めてトランスパレントバックを取り入れたという点だ。しかし、そのおかげでムーブメントを鑑賞できるという余禄にもあずかれる。

 トランスパレントバック仕様のサファイアクリスタル越しに見えるのは、自動巻きのキャリバーMT5400である。これはチューダーも共同出資したムーブメント製造会社ケニッシによるものだ。ちなみに、この会社はシャネルやブライトリング、フォルティスをはじめ、多数のブランドにムーブメントを供給している。

チューダー「ブラックベイ フィフティ-エイト 925」

センターラインが目を引くファブリックストラップ。取り付けるとケース裏側から見えるムーブメントが隠れてしまうが、独特の風合いを楽しめる。

堅牢性を高めた高精度キャリバー

 ブラックベイ フィフティ-エイト925に搭載のキャリバーMT5400は堅牢かつ高精度というのが特徴だ。厚さは堂々とした5㎜で、これだけの厚みがあると許容範囲にややゆとりがあり、組み立て時にごくごくわずかな狂いがあっても作動に響いてしまうということは少ない。テンプ受けは片持ちではなく、両持ちのトラバーシングバランス ブリッジでしっかりと支える設計だ。そして、シリコン製のヒゲゼンマイを採用しているため、一般的な金属製ヒゲゼンマイのように外からの衝撃で同心円状の渦巻きにゆがみが生じず、歩度に影響が出る心配は少なくて済む。そのほかにもパワーリザーブは約70時間と長めで、テンプは4つの歩度調整ネジ付きのフリースプラング方式であることも大きな特徴だろう。これは、例えば多くのETA製ムーブメントのように、ヒゲゼンマイの有効長を変えることで歩度調整を行う方法とは異なるやり方だ。一方、ムーブメントの装飾については控えめに仕上げられている。透かし彫りのローターにはサンバースト仕上げが施され、チューダーのロゴもすっきりとシンプルな印象だ。

 精度の優秀さについては、スイスの公的機関C.O.S.C.(スイス公式クロノメーター検査協会)からの認可により保証されている。チューダーでは全製品に搭載されるムーブメントのひとつひとつがクロノメーター検定に合格したものだ。この試験でいくつかのチェック項目とともに必ず調べられるのは、平均日差がマイナス4秒からプラス6秒の範囲内に収まっているか否かという点だ。クロノスドイツ版編集部での歩度測定器を使用したテストでも、その性能の高さは確認できた。姿勢差は極めて小さく、平均日差がプラス1秒というのはほとんどパーフェクトに近い。着用テストでも日差はプラス2秒だったが、夜間は時計を外して平置き、つまり文字盤を上に向けた状態にしていることにも起因しているようだ。このポジションでは進み傾向が顕著に表れ、プラス5秒という数値が出ている。

  ブラックベイ フィフティ-エイト 925は技術的に現在の高水準の域にあり、加工も非常に良い。レトロな要素を温かみのあるグレーでまとめたデザインはかなり魅力的だ。加えて、同モデルのステンレススティールバージョンと比べても、さほどかけ離れてはいない49万600円という価格には、誰しも大いに親しみを感じずにはいられないだろう。