【85点】ブライトリング「スーパー クロノマット B01 44」

2021.11.15

ブライトリング「スーパー クロノマット B01 44」

1980年代のオリジナル ブライトリング クロノマットへの敬意は、UTCモジュールを組み込んだルーローブレスレットに最もよく表れている。

 ウォークマン、瓶ジュースの王冠、キム・ワイルド。1980年代をリアルタイムで経験した読者なら、これらのワードを懐かしく思い出すだろう。これらを聞いてピンと来ない読者は、AlexaやSiriで情報を収集する術を知る若い世代に違いない。80年代に流行った時計でまず頭に浮かぶのは、シンプルなカシオのデジタル時計と、クラスルームで羨望の的だった電卓付き腕時計である。これらは、80年代のゴールドとシルバーのツートンカラーのモデル同様、ファッションアイテムとして今日再び注目を集めている。当時導入された機械式時計で今もなお記憶に残る特別なモデルはあまりないが、ブライトリングのクロノマットはその例外である。ネジ留めされたベゼルのライダータブ、半球形のリュウズ、ルーローブレスレット、オプションとしてブレスレットに組み込まれたUTCモジュールが時宜にかなっていただけでなく、当時、数多くの時計の中で際立つ存在だった。

 クロノマットはその後もブライトリングのラインのひとつとして存続したが、時代とともにそのデザインは進化している。2020年に発表された新作クロノマットでは、オリジナルモデルの多くの部分が再現された。そして今年、クォーツ式の小さなUTCモジュールをブレスレットに組み込んだ、ケース直径44㎜のスーパー クロノマットが復刻された。今回もブライトリングは印象的なクロノグラフをそのまま忠実に再現するのではなく、今の時代に合わせて調整している。同社CEOのジョージ・カーンはこれを「モダンレトロ」と呼ぶのを好む。その様子は、特徴的なケース、現代的なブラックセラミックス製インサートを備えたベゼル、そして、タイムレスな文字盤のデザインに顕著に表れている。

モダンレトロ

 ステンレススティール製のケースは、丸みを帯びていた1980年代のデザインから完全に離脱している。ポリッシュとサテンで仕上げられたケースとブレスレットを持ち、リュウズガードもポリッシュ仕上げのラインとサテン仕上げの面を持つ。半球形に近いフォルムのリュウズとプッシャーの溝は、オリジナルモデルを彷彿とさせる。これらの一部はブラックセラミックスで出来ており、プッシャーがねじ込み式になったという点が新しい。回転ベゼルのスケールとライダータブのインレイも、傷に強い素材のブラックセラミックスで作られている。これらを除くと、ベゼルの外周側面に配された12本のネジや、0、15、30、45分の位置に取り付けられた4つのライダータブなどを備えた回転ベゼルは、ブレスレットとともにオリジナルモデルを想起させ、クロノマットらしい特徴を持っている。

ブライトリング「スーパー クロノマット B01 44」

この腕時計の最たる特徴がUTCモジュールである。機械式ムーブメントを搭載した本体に対し、こちらはクォーツムーブメントのCal.61を搭載している。

 回転ベゼルはオリジナルモデル同様、15分と45分のライダータブを入れ替えてカウントダウンベゼルに変えることもできる。新作のライダータブは以前のものとは異なり、鋭いエッジがほとんどなく、触り心地がよい。ベゼルは片方向にしか回転しないので、最大200mの防水性を備えるこのパイロットウォッチはダイビングでも使用できるだろう。ベゼルのゼロマーカーだけではなく、他の3つのタブの数字も暗所で明るく発光する。

 文字盤は、バーインデックスや先端の尖った針のフォルム、外周のインナーリングに配されたタキメータースケール、100分割の目盛りなど、80年代のデザインをそのまま受け継いでいる。しかし、針とインデックスは磨かれた面がより広くなったうえ、中央部に円状の溝模様が施されたシルバーのサブダイアルが黒の文字盤上で際立っている。クロノグラフのセンター秒針は赤くスポーティーだが、サブダイアルの針はシルバーで、同じくシルバーカラーの背景とのコントラストに欠け、読み取りをやや困難にしているのが残念な点だ。だが、針には蓄光塗料が塗布されているので、暗所での視認性は良好である。日付表示窓は文字盤のシンメトリーなデザインを崩さないように、6時位置の時積算計に統合されている。UTCモジュールは小ぶりながら、昼夜を問わず非常に読み取りやすい。このモジュールは目盛りが付いた幅の広いベゼルとともに台形のプレートに取り付けられており、オリジナルモデルを彷彿とさせる。

ルーローブレスレット

 今回のルーローブレスレットの採用は、オリジナルモデルに対する敬意が最もよく表れている部分である。ルーロー(Rouleaux)はフランス語の単語で「ローラー」を意味するが、楕円形の筒が連なったブレスレットの形状がそれを表している。よく観察すると、ふたつの筒状のローラーが、ブレスレットのコマのひとつを形成していることが分かる。また、ローラーにはひとつおきにコマを固定するためのリングを備えている。これもオリジナルモデルを踏襲したものだ。リングの表面にポリッシュ仕上げが施されている点もオリジナルモデル同様で、サテン仕上げのローラー部分とのコントラストが際立っている。加えて、ケースと同じようにブレスレットにも面取りとポリッシュ仕上げが施されている。ブレスレットに手首の毛が挟まることはなく、装着感は快適である。閉じると外側からはほとんど見えなくなるダブルフォールディングクラスプも圧迫感はない。クラスプは簡単な操作でしっかりと留まり、留める際はどちら側を先に閉じても問題ない。加工は非常に精密で、遊びも最小限に抑えられている。

ブライトリング「スーパー クロノマット B01 44」

UTCモジュールを備えた44mmのスーパー クロノマットは堂々たる風貌。名高い自社開発・製造ムーブメント、Cal.01は、トランスパレントバックから鑑賞できる。

 時計を外すと、サファイアクリスタルのトランスパレントバックを通じて自社開発・製造ムーブメント、キャリバー01を見ることができる。クロノグラフがどのような仕組みになっているかを存分に観察できる素晴らしい構造である。また、装飾の面でも手を抜いていない。サンバーストやコート・ド・ジュネーブ、磨かれたネジの頭、面取りしてポリッシュで仕上げたエッジなど、見どころは多い。一方、地板には装飾が施されておらず、打ち抜き加工のレバーとバネにも存在感はあるものの、ブライトリングが高いコスト意識を持つことをうかがわせる。だが、クロノグラフの制御についてはコストカットすることなく、コラムホイール式を採用している。この伝統的かつ複雑な制御方式は、プッシャーのスムーズな押し心地を提供してくれる。

 とはいえ、クロノグラフを始動させるにはある程度の力が必要である。これは、スタート時にリセットレバーがコラムホイールを介し、ハートカムから外れる際のレバー比によるものであり、ストップとリセットの操作感は軽い。ただ、プッシャーを使用するのにねじ込みを解除しなければならないのは、少し手間に感じる。

針飛びしないクロノグラフ

ブライトリング「スーパー クロノマット B01 44」

回転ベゼルにはライダータブを備え、以前のものよりエッジの鋭さが抑えられている。15分と45分のタブを入れ替えれば、カウントダウンベゼルとして使うこともできる。

 このムーブメントで特筆すべきは、ガンギ車に油を保持する装置を備えていることだ。歩度の微調整は緩急針で行う。トランスパレントバックからは見えないが、ムーブメントは新しい設計を持つ垂直クラッチで作動する。そのため、始動時にクロノグラフ秒針が針飛びすることはない。日付は瞬時に切り替わり、早送り禁止時間帯がないので、深夜でもムーブメントを損傷することなくカレンダーと時刻を修正することが可能である。また、パワーリザーブが約70時間あるのも心強い。金曜日の夜にスーパー クロノマットを手首から外し、月曜日の朝に再び着用する際に、巻き上げることなくそのまま使うことができるのだ。

 ブライトリングはすべての腕時計に対し、C.O.S.C.(スイス公式クロノメーター検査協会)の基準に基づいて精度の検査を行っている。今回、歩度測定器を使用したテストでも、すべての姿勢で日差プラス1秒/日からプラス5秒/日という、これを裏付ける良好な数値を見せてくれた。計算上の平均日差は平常時でプラス3・8秒/日と優秀である。クロノグラフを作動するとわずかな振り落ちが観察されたが、精度は逆に良くなり、平均プラス3秒/日となった。

 今回のテストウォッチは、技術の面だけでなく、モダンとレトロの双方の要素を併せ持つデザインによって仕上げられている。スーパー クロノマットを車で例えるならベントレーだろう。エレガントでありながらスポーティーで風格を漂わせている。品質は素晴らしく、ブレスレットに組み込まれたUTCモジュールも魅力的である。