グラスヒュッテ・オリジナル
第2次世界大戦後、ドイツ・グラスヒュッテの時計会社が合併され、VEB GUB(グラスヒュッテ国営時計会社)が設立された。1990年に商標登記され、「グラスヒュッテ・オリジナル」のブランド名で時計を提供するグラスヒュッテ時計製造会社は法律上、VEB GUBを正式に引き継いだ企業であり、ムーブメントに搭載される全パーツの95%と文字盤を自社で製造している。2000年には世界最大の時計製造グループ、スウォッチ グループの傘下に入った。
グラスヒュッテ・オリジナル/SeaQ クロノグラフ
クロノグラフとダイバーズ、待望のコンビネーション
2022年秋にリリースされたグラスヒュッテ・オリジナルの「SeaQ クロノグラフ」。この新作がもたらした現象とは?
グラスヒュッテ・オリジナル:写真 Photographs by Glashütte Original
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
プラスポイント、マイナスポイント
+point
・バランスの取れたデザイン
・高い質感
・視覚的にも技術的にも魅力的な自社製ムーブメント
-point
・ラグの裏側のエッジが鋭い
・高い価格設定
実際にダイビングに使えるクロノグラフはそう多くはない。したがって、ベストセラーのコレクションにクロノグラフ搭載モデルが追加されれば、人気が出るのは必然だろう。クロノグラフのプッシュボタンはねじ込み式ではないことが多いため、ダイバーズクロノグラフにおける最大の課題は、プッシュボタン用に設けられたケースの開口部において、リュウズと同等の気密性をいかに確保するかである。グラスヒュッテ・オリジナルはこの難問に、最新の構造原理と素材を導入することで応えた。クロノグラフを追加しても、SeaQが本来備えていた300mの防水性能を維持することに成功したのである。
SeaQ クロノグラフに搭載された自社製ムーブメント、Cal.37-23には、グラスヒュッテ・オリジナルならではの特別な機能をいくつも備えている。そのうちのひとつであるフライバック機能は、4時位置のプッシュボタンを押すと、計時中に帰零した後、即時に計時再開を可能にする。今回のテストウォッチで誕生から25年が経過したパノラマデイト機構は、同心円状に配置された2枚のディスクが同じ高さに取り付けられているため、一の位と十の位を隔てる枠を必要としないのが特徴である。
機能的なムーブメント
ダイバーズウォッチがトランスパレントバックであるという事実は、ピュリスム(純粋主義)をこよなく愛するユーザーには悩ましい事実かもしれない。だが、新作のSeaQ クロノグラフはダイバーズウォッチである以上に、高級時計であるというのが正直なところだ。つまり、これほど美しいムーブメントを見えなくてもよいと考える時計愛好家は、まずいないだろう。スケルトン加工されたグラスヒュッテ・オリジナルのブランドロゴ “ダブルG” を備え、ゴールドの錘がネジ留めされた自動巻きのローターや、青焼きネジ、グラスヒュッテストライプ模様、面取りとポリッシュを施した地板、クロノグラフ機構を制御するコラムホイール、温度変化・磁気・衝撃への耐性に優れたシリコン製ヒゲゼンマイを備えた調速機など、見どころは豊富である。
このムーブメントは外観が美しいだけでなく、機能においても秀逸である。微調整はテンワに留められた4本の錘で行われ、スワンネック型の緩急針で歩度を調整する。クロノグラフにおいては、垂直クラッチ式の恩恵により、2時位置のプッシュボタンを押すとクロノグラフ秒針が針飛びなく動き出す。また、フライバック機能が搭載されていることから、ストップ、リセットという手順を省き、4時位置のプッシュボタンを押すだけで帰零した後、即時にクロノグラフ針が再始動する。
パワーリザーブは約70時間で、現行のクロノグラフとして十分な駆動時間を備える。日付を修正する際、パノラマデイトの2枚のディスクが明確かつ確実に止まる様は注目に値する。日付修正や時刻合わせのためにリュウズのスクリューロックを解除すると、巻き真の赤いリングが姿を現す。これは、操作部を開けたまま誤って潜水するのを防ぐために設けられた警告機能である。加えて、設計を工夫することで耐衝撃性も向上している。時計に衝撃が加わっても、文字盤が歪んで針の運行が妨げられることがないよう、針の軸には中空状の六角穴付きネジが取り付けられており、文字盤と地板がネジ留めされている。
ウィッチ社製歩度測定器で行ったテストでは平均日差がゼロだった。平均日差は完璧だが、8秒という最大姿勢差はクロノスドイツ版の厳格なテストにおいてわずかなマイナス要因になった。今回の着用テストでは、日差はマイナス1秒/日からプラス1秒/日の間で推移し、理論上だけでなく、実際の使用時にも納得のいく結果を得ることができた。
秀逸な仕上がり
SeaQ クロノグラフは良好な精度に加え、デザイン、機能性、そして仕上げの丁寧さにおいても説得力がある。ポリッシュ仕上げのエッジを持つサテン仕上げのケース、アプライドインデックスを備え、パノラマデイトの枠に段差を持たせ、サンレイ仕上げを施した文字盤、漁網をリサイクルして作られた丈夫なファブリック製ストラップなど、細部に至るまで妥協がない。
このストラップには、通常のファブリック製ストラップに比べ、いくつかの利点がある。まず、ケースの下を通さないため、自社製ムーブメントの美しい眺めが妨げられない点である。次に、2層構造になっていることから、上面の粗い部分はスポーティーで頑丈な印象を与え、下面はしなやかで心地よい装着感に貢献する。時計にふさわしい厚みと堅牢性を持たせながら、手首に心地よくフィットするしなやかさを兼ね備えているのだ。さらに、厚さ16.95mmのケースは、通常のファブリック製ストラップではアンバランスに見えてしまうが、SeaQ クロノグラフではストラップの質感により時計本体の重量がうまく吸収され、逆にその存在感が巧みに個性を主張している。
ラグの裏側はエッジが鋭いが、これは時計を手で持ったり着ける際に気になる程度で、着用中は気にならない。SeaQ クロノグラフは、シャツやセーターの袖口に滑り込ませるような控えめなアクセサリーではなく、むしろ、手首の上に堂々と君臨し、称賛を浴びることを待ち望むようなモデルなのである。
ダイビングを楽しむためのラグジュアリーウォッチ
回転ベゼル、先端が矢印になったアロー型分針、そして、たっぷりと塗布された蓄光塗料など、ダイバーズウォッチとしての機能はケースの重厚な外観と見事に調和している。蓄光塗料は暗所で青く発光し、長時間持続するため、一晩中でも時刻を読み取ることができる。小さなロリポップ秒針の発光部を夜中の3時に確認するのは困難だが、不可能ではない。SeaQ クロノグラフはダイバーズウォッチの規格に従って製造された本物のダイバーズウォッチとして、暗い水中でムーブメントが駆動していることを確認するための機能をきちんと備えている。
傷に強いセラミックス製のインサートを備えたダイビングベゼルは、回すと音がして噛み合いも重厚で、品質の高さを実感できる。薄手のグローブを着けていても簡単に操作できるが、厚手のグローブだとややグリップ性に欠ける。ダイバーズウォッチの規格で定められている通り、12時位置のトライアングルマーカーは暗所でも明るく発光するが、194万7000円の高級時計を身に着けて実際にダイビングをするユーザーは、これ以外のベゼルの目盛りは発光しないことを容認しておかなければならない。
ストラップは防水性と高い引き裂き強度を備えているが、日常使いや暖かい水辺でのスポーツで使用されることを前提に設計されているため、ダイビングスーツの上から着用するには長さが足りない。だが、ストラップの高品質で堅牢な外観は、「実用的なラグジュアリー」を標榜するSeaQ クロノグラフとの相性が良好である。いつでも頼りになる存在であり、視覚的にも機能的にも楽しみながら着用することができる。クロノグラフを備えたダイバーズウォッチという、待望のコンビネーションがついに登場したのだ。