ここ数年、腕時計に多様性をもたらしてきたのが、ダイアルカラーである。ブルー、グレー、そしてグリーンに続いて、いまや時計業界を席捲しつつあるのが、いわゆるサーモンピンクだ。そもそもこの色は、1990年代以降、一部の高級時計メーカーのみが採用してきたもの。しかし、2020年代以降は定番カラーのひとつになろうとしている。
縦方向の筋目仕上げが特徴のサーモンカラーダイアルモデル。ブレゲ数字インデックスは、彫刻刀で彫り込んだように深く、エッジを持つ。本作は特定モデルの復刻ではないものの、ロンジンの豊富なアーカイブと、それらを巧みに復刻する手腕が発揮されており、クラシカルながら現代的な印象に仕立てられている。約72時間の実用的なパワーリザーブも魅力だ。自動巻き(Cal.L893)。26石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径38.5mm、厚さ10.2mm)。3気圧防水。37万8400円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350
佐藤しんいち、広田雅将(クロノス日本版):文 Text by Shin-ichi Sato, Masayuki Hirota(Chronos Japan)
Edited by Yuto Hosoda(Chronos Japan)
サーモンピンク復権 トレンドに返り咲いたかつての人気色
かつてはオーデマ ピゲやヴァシュロン・コンスタンタンといったハイエンドなメーカーが好んで採用していたサーモンピンクカラーの文字盤。ゴールドケースに合う暖色は、ラグジュアリーな腕時計にはうってつけだったし、ピンク色を好むアメリカ市場向けでもあった。しかし、この色は決して時計業界の定番にはならなかった。というのも、安定した発色を得るのが、極めて難しかったのである。つまり、少数の限定モデルには向いていたが、決して大量生産向けではなかったのだ。ロットごとに色が違う文字盤を、好んで採用するメーカーは、昔でさえも決して多くはなかった。
状況が変わったのは、2015年以降である。各社が文字盤に力を入れるようになった結果、文字盤を提供するサプライヤーは、今までにない発色を追求するようになった。最初はブルー、続いてグレー、そしてグリーン。毎年のように難しい色に挑み続けたサプライヤーは、ついにサーモンピンクという極めて難しい色の量産に成功したのである。しかも、以前と違ってロットごとに色が違うといった問題もない。となれば、ローラン・フェリエやモリッツ・グロスマンなどのマイクロメゾンだけでなく、ロンジンやフレデリック・コンスタントといった大メーカーが採用するのは当然だろう。
もっとも、サーモンカラーといっても、各社の色合いは大きく異なる。ピンクに振ったものもあれば、赤みの強いもの、落ち着いたトーンを強調したものなど千差万別だ。もし気に入った色を見つけたならば、雑誌やウェブだけではなく、実際に腕時計を確認すること。これがお気に入りのサーモンカラー文字盤を手に入れる秘訣だ。
エントリー(~30万円台)
サーモンピンク文字盤の隆盛を象徴するのが、エントリー価格帯の充実ぶりだ。かつて発色の安定しない同色は、低価格帯の腕時計ではほとんど採用されていなかった。
コンパクトなサイズ感と端正なデザインで好事家から支持の厚い名作。ボンベダイアルに繊細な印象もあるドーフィン針、最小限のインデックス、デイト表示が適切なバランスで配置される。本作は、やや赤みの強いサーモンカラーダイアルに、グレーがかったキャメルカラーのヌバックストラップが組み合わされる。信頼性十分なムーブメントが組み合わされて、お値打ちな1本だ。自動巻き(Cal.F6724)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径38.4mm、厚さ12.5mm)。日常生活防水。完売。(問)オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380
フレデリック・コンスタントの中で、スポーティーシックかつエレガントなデザインを両立するハイライフコレクション。ケースサイドから伸びるラインは、ブレスレットとラバーストラップの両方で一体感を生み出すようにデザインされる。明るく、メタリックな質感のあるサーモンカラーに、コレクションのシンボルである地球をかたどったエンボスが表情を加えている。C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.FC-303)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.34mm)。5気圧防水。29万7000円(税込み)。(問)フレデリック・コンスタント相談室 Tel.0570-03-1988
八角形ケースのデジタル・アナログモデルに、ピンクゴールドの蒸着ダイアルを組み合わせたモデル。女性の着用を想定して全体がコンパクトかつスリムに仕立てられている。ダイアル随所のミラー仕上げがきらびやかさを加えつつ、ホワイトのケースがエレガントな印象を生み出す。一方、カーボンコアガード構造が採用されており、軽量かつ堅牢な本格的ツールウォッチである点はG-SHOCKならではの魅力だ。クォーツ。電池寿命約3年。樹脂×カーボンケース(縦46.2×横42.9mm、厚さ11.2mm)。20気圧防水。1万8150円(税込み)。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925
ケースからブレスレットにつながるラインやレールウェイ・インデックス、シンプルなバトン針が1970年代ドレスウォッチを思わせるチューダー ロイヤルの新作。落ち着いた色調のサーモンカラーサンレイダイアルに、ポリッシュ部とエッジの立った凹凸を繰り返したベゼルがきらびやかさを添えている。掲載モデル以外にも、ダイヤモンドをインデックスとして配したモデルやサイズ違いなど、バリエーションが豊富。自動巻き(Cal.T603)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm)。100m防水。32万5600円(税込み)。(問)日本ロレックス / チューダー Tel.0120-929-570
ミドルレンジ(50万~100万円台)
サーモンピンク文字盤の採用が目立つのが、100万円台までのいわゆるミドルレンジ。トレンドの影響を受けやすい市場だけに、色味のバリエーションも豊富だ。
エッジが印象的なケースとブレスレット、ジェットエンジンを思わせるベゼルが特徴のモデル。チタン製で軽量かつ腕に沿うデザインのケースとブレスレットによる良好な着用感や、約120時間のロングパワーリザーブに高耐磁性能、オーバーホール推奨期間10年であるCal.400を搭載するなど、実用性が高い。サーモンカラーはクラシカルモデルでの採用例が多い中で、本作はモダンなデザインである点も注目だ。自動巻き(Cal.400)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。Tiケース(直径39mm)。100m防水。69万3000円(税込み)。(問)オリスジャパン Tel.03-6260-6876
ポルトギーゼのルーツは精度向上を目的に懐中時計用ムーブメントを搭載した腕時計である。本作はそのルーツを思わせるデザインコードを踏襲しつつ、ややコンパクトに、しかし存在感のあるスタイリングにまとめられた。搭載されるCal.82220はフリースプラングテンプや、自動巻き機構にセラミックス製部品を採用して耐久性と巻き上げ効率の維持が図られた現代的なスペックを持つ。自動巻き(Cal.82220)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40.4mm、厚さ12.3mm)。3気圧防水。102万3000円(税込み)。(問)IWC Tel.0120-05-1868
オリジナルモデルからデザインコードをほとんど変えずに、親しまれ続ける「パシャ ドゥ カルティエ」。2020年のリバイバルで外装品質が大きく向上し、さらに信頼性の高いCal.1847 MCが組み合わされることで、優れた総合力を備えるモデルへと進化した。本作は強く焼けたような質感のダイアルとブルーの針とのコントラストが特徴の1本だ。自動巻き(Cal.1847MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(直径35mm、厚さ9.4mm)。100m防水。102万9600円(税込み)。㉄カルティエカスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00
都会や街を意味する名を持つ「デ・ヴィル」。6時位置にデイト表示とパワーリザーブ表示、9時位置にスモールセコンドを配し、リーフ型針とローマンインデックスによってエレガントな印象に仕立てられた。従来モデルからのリニューアルを機に薄型化が図られており、その点もクラシカルな見た目に寄与している。高耐磁性能と優れた精度を備えたマスター クロノメーター認定機であり、実用性も随一。自動巻き(Cal.8810)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.77mm)。30m防水。93万5000円(税込み)。(問)オメガお客様センター Tel.03-5952-4400
現在のブライトリングにおける旗艦コレクション、プレミエ B01。3時位置の30分積算計と9時位置のスモールセコンドのふたつのサブダイアルに、丸みを帯びてエレガントな印象のあるケースシルエット、視認性とクラシカルなイメージを強めるシリンジ型針が特徴。自社製クロノグラフムーブメントの信頼性も高く、ツールウォッチとしての完成度が高い点も好印象だ。自動巻き(Cal.01)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径42mm、厚さ13.6mm)。10気圧防水。115万5000円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
「周辺」を意味するペリフェラルをモデル名に持つ通り搭載ムーブメントは、ムーブメント外周部に自動巻きローターを備える点が特徴だ。メリットは、ムーブメントを薄く仕立て、かつローターがムーブメントを隠さないため、ケースバックから鑑賞しやすい点にある。サーモンカラーダイアルは彩度を抑えることで、シックでありつつエレガントに調色されている。ラバーストラップが付属。自動巻き(Cal.CFB A2050)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径40.6mm、厚さ11.2mm)。30m防水。133万1000円(税込み)。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650
航空機のコックピットクロックから着想を得たデザインコードを都会的に再構築したBR05。直線を基調としながら先端に丸みを与えたインデックスと時分針、カラーマッチングされたデイト表示を備え、厚手のベゼルやポリッシュとサテン仕上げを使い分けた外装が、モダンな印象を生み出している。マッシブでありながらエレガントさも兼ね備える独自性を確立している。自動巻き(BR-CAL.321)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SSケース(幅40mm、厚さ10.33mm)。100m防水。72万6000円(税込み)。(問)ベル&ロス銀座ブティック Tel.03-6264-3989
ハイレンジ(200万円~)
ハイレンジウォッチの“十八番”だったサーモンピンク文字盤。この価格帯になると単なる真鍮+メッキだけでなく、18KPG製文字盤など素材や工法も多様になってくる。
4時半位置の閏年表示、6時位置にポインターデイトとムーンフェイズ表示、7時半位置にデイナイト表示、12時位置に月・曜日表示と、多くの表示要素を持ちながら、高い視認性を誇るモデル。シ細かな秒スケールはツールウォッチのルーツを感じさせるが、ローズゴールドメッキのオパーリンダイアルによって華やかな仕上がりに。自動巻き(Cal.324 S Q)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWG(直径40mm、厚さ11.13mm)。3気圧防水。1471万8000円。㉄パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター☎03-3255-8109
1920~30年代に見られた機構とデザインに着想を得た、デイトと曜日のレトログラード表示を備えるモデル。パトリモニーのデザインコードを守りつつ機能が追加される。彩度を抑えたサーモンカラーダイアルはドーム状となっており、その形状に合わせてわずかに先端が曲げられた分針は、クラシカルな印象を生み出しつつ視認性を高めている。自動巻き(Cal.2460 R 31R7/3)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。Ptケース(直径42.5mm、厚さ9.7mm)。3気圧防水。888万8000円(税込み)。2023年限定生産。ブティック限定。(問)ヴァシュロン・コンスタンタン Tel.0120-63-1755
古典的なデザインと伝統的な時計技術を継承するモリッツ・グロスマン。彩度を抑えたサーモンダイアルに、懐中時計を思わせる大径のスモールセコンド、青焼き針が映える端正なデザインを備える。12時位置のバーインジケーターはパワーリザーブ表示だ。ケースバックからは、ムーブメントの上質な仕上げとゴールドシャトン、エングレービングされたテンプ受けが堪能できる。手巻き(Cal.100.2)。26石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径41mm、厚さ11.65mm)。世界限定50本。517万円(税込み)。(問)モリッツ・グロスマン ブティック Tel.03-5615-8185
ル・マン24時間レースに参戦歴のある創業者2人が、夜明けのサーキットを疾走する時間帯を思いながらデザインしたモデル。ケースバックから鑑賞可能なムーブメントは、トゥールビヨンや仕上げなど、見どころが多い。姿勢差の影響を抑えるべく、向き合うように2本を組み合わせたヒゲゼンマイを採用し、ブザンソン天文台によるクロノメーター認定を取得した。手巻き(Cal.LF619.01)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。Tiケース(直径44mm、厚さ13.4mm)。10気圧防水。3179万円(税込み)。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650
複雑機構の最高峰とされるスプリットセコンドクロノグラフと永久カレンダーを併載する、ピンクゴールド製文字盤のモデル。一般的な秒計測に加えてラップタイム計測、タイムの比較、60秒以内の中間タイム計測が可能だ。数多くの機能を有しながら、2種類の表示を同軸化された4つのサブダイアルを配することで煩雑とならず、優美なスタイリングを備える。手巻き(Cal.L101.1)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KWGケース(直径41.9mm、厚さ14.7mm)。3気圧防水。世界限定100本。ブティック限定。要価格問い合わせ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
登場以来人気を集めるアルパイン イーグルに、傑作Cal.L.U.C 96.40-Lを搭載した夢のモデル。マイクロローター式自動巻きにスモールセコンドを備え、ジュネーブ・シールを取得する優れた仕上げが見どころのムーブメントは厚さが3.3mm。この薄さによりケース厚も8.0mmに抑えられ、エレガンスがより一層磨かれている。自動巻き(Cal.L.U.C 96.40-L)。29石。パワーリザーブ約65時間。2万8800振動/時。ルーセントスティール™ケース(直径41mm、厚さ8.0mm)。100m防水。335万5000円(税込み)。(問)ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922
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