トレンドから定番色へとそのポジションを確立しつつあるグリーンダイアル。文字盤の製法が進化を遂げていることも手伝い、ひと口にグリーンといっても色調はもちろん各種装飾や仕上げと組み合わせるなど、その表情はさまざまだ。定番のブルーにも匹敵する多彩な表現を取り入れたグリーンダイアルもまた、時計好きたちを存分に楽しませてくれる。

岡村昌宏:写真 Photographs by Masahiro Okamura
竹石祐三:編集・文 Edited & Text by Yuzo Takeishi


定番になりつつあるグリーンダイアル

 ブルーやグレー、サーモンピンクなど、ダイアルの多色化が著しい高級時計。その中で2021年にトレンドとなったのがグリーンダイアルだ。この年は老舗のパテック フィリップを筆頭に、主要なブランドがほぼすべてグリーンダイアルのモデルを発表したことで話題となった。だが、実のところ、グリーンダイアルがブームとなる兆候は18年頃から表れ始めていた。

キングセイコー「KS1969 SDKA021」
スペーシーなクッション型ケースが特徴的な1969年モデルをデザインモチーフとした、キングセイコーの新シリーズ。そのひとつが「緑豊かな都市・東京」をイメージしたというグリーンダイアルのモデルだ。鬱蒼と茂る木々を思わせる深みのある色調や、文字盤全体に施された繊細なパターンからは、日本のブランドらしい趣も感じさせる。自動巻き(Cal.6L35)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(直径39.4mm、厚さ9.9mm)。日常生活用強化防水。39万6000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012

 中でも当時、注目を集めたのが、モンブラン「1858」コレクションの限定モデルとグラスヒュッテ・オリジナルの「シックスティーズ」だ。前者はヴィンテージ調のグラデーションダイアル、後者は高圧力のプレスや数種の塗装を駆使したスプラッシュパターンのダイアルといった、インパクトのある表現を取り入れていた。

 この頃はすでにブルーダイアルがトレンドから脱して定番化していた時期。文字盤の製法や加飾技術が進化を遂げ、表現のバリエーションが充実していたこともあり、登場し始めたグリーンダイアルにも表情豊かな仕上げが試みられていたことは想像に難くない。

 それゆえに、21年に各社がグリーンダイアルモデルを発表した際には、ベーシックなブライトグリーンはもちろん、パステル調やオリーブカラーなど、多彩な色調が出そろっていた。その後、ラッカー仕上げやPVDコーティングといった製法と加飾技術との融合も進められ、グリーンダイアルの表情は急速に多様化。色調のみならず、文字盤に施されたパターンとの組み合わせからも、好みの1本を選べるようになった。 こうした傾向は高額モデルにとどまらず、エントリープライスのモデルにも浸透しているので、インパクトのある色合いに気後れせず、まずはいろいろな時計を腕に乗せてみてほしい。

ラッカー仕上げの魅力

クロノマスター スポーツ グリーン

 ラッカー仕上げとは簡単に言い表すと、塗料で着色する手法。ラッカー仕上げを用いた最もポピュラーな文字盤色はブラックだが、その多くが示すように、メリットはきれいな艶を出せることにある。とりわけ近年は塗料のクォリティが進化したことに加え、塗料を何層にも重ねたうえで表面を磨き上げる製法が主流になったことで、さまざまなダイアルカラーが生まれることにもつながった。

 こうしたラッカー仕上げのメリットがより明確に表れているのが、ゼニスの「クロノマスター スポーツ グリーン」。グリーンセラミックス製のベゼルと組み合わせても違和感のない艶やかな質感を見せており、ビビッドなグリーンでありながら高級感も与えている。

PVDコーティングの魅力

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック

 PVD(Physical Vapor Deposition)とは物理蒸着のこと。真空状態で被膜となる金属を粒子の状態で飛散させ、それを対象物(文字盤)の表面に付着させる手法だ。ラッカー仕上げのようなビビッドな色は出しにくいものの、メッキのような光沢感と均一な色を出しやすい利点がある。

 そのほかのメリットは、金属被膜であるため表面の耐久性を高めやすいこと。また薄膜で着色できるため、文字盤に施された繊細な仕上げをしっかりと表現できることなどがある。オーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」のように、ベースに施された繊細なモチーフを生かしつつ、エレガントな雰囲気を与えるのには最良の手法と言える。


価格帯別で見るグリーンダイアルの腕時計

 定番化しつつあるグリーンダイアルは、文字盤の製法の進化に後押しされ、各ブランドが多彩なモデルを展開するようになった。エントリー、ミドルレンジ、ハイレンジの3つの価格帯ごとに、グリーンダイアルを備えた腕時計を見ていこう。

①エントリー(~40万円台)

 エントリークラスにも浸透したグリーンダイアル。ユニークなパターンを取り入れたモデルも増えつつあり、手の届きやすい価格帯ながらも個性的なデザインが楽しめる。

ロンジン「ハイドロコンクエスト GMT L3.790.4.06.6」

ロンジン「ハイドロコンクエスト GMT L3.790.4.06.6」
ダイバーズウォッチスタイルのルックスで好評を得ているコレクションにGMT機能を加えた本作は、レトロ感を強調したデザインが秀逸。サンレイ加工を施したグリーンダイアルとゴールドの針、スーパールミノバを塗布したアワーマーカーそれぞれの色が絡み合い、品のある表情を生み出している。自動巻き(Cal.L844.5)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.9mm)。30気圧防水。46万7500円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350

ザ・シチズン「AQ4100-22W」

ザ・シチズン「AQ4100-22W」
極薄の土佐和紙を文字盤に取り入れ、エコ・ドライブに必要な光の透過を確保しながらも、自然界の表情を繊細に表現するアイコニック ネイチャー コレクション。本作は伝統的な“七宝繋ぎ”に花模様を加えつつ鮮やかなグリーンに彩ることで、紫陽花が色づく瞬間を描いた。光発電エコ・ドライブ(Cal.A060)。スーパーチタニウムケース(直径38.3mm、厚さ12.2mm)。10気圧防水。世界限定300本。40万7000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807

エドックス「ネプチュニアン グランデ リザーブ デイト オートマティック」

エドックス「ネプチュニアン グランデ リザーブ デイト オートマティック」
ダイバーズウォッチ「ネプチュニアン」のロングパワーリザーブモデルに、新しく加わったグリーンダイアルモデル。艶やかなハイテクセラミックス製の逆回転防止ベゼルとマットな質感のダイアルを組み合わせ、力強くも軽快なルックスに仕上げている。自動巻き(Cal.EDOX808)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。SSケース(直径42mm、厚さ12.3mm)。300m防水。34万1000円(税込み)。(問)ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080

ボール ウォッチ「オハイオ クロノメーター」

ボール ウォッチ「オハイオ クロノメーター」
ブランドの創業地であるオハイオの地名を冠した3針モデル。オリーブカラーのダイアルによってモダンな雰囲気を強める一方、視認性の高いレイアウトやCOSC認定クロノメータームーブメントの搭載により、鉄道時計を出自とするボール ウォッチらしさあふれる1本に。自動巻き(Cal.BALLRR1103-C)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径40mm、厚さ13.2mm)。100m防水。29万7000円(税込み)。(問)ボール ウォッチ・ジャパン Tel.03-3221-7807

オシアナス「オシアナス マンタ S400 OCW-S400-3AJF」

オシアナス「オシアナス マンタ S400 OCW-S400-3AJF」
「オシアナス マンタ」初となるコンパクトサイズの3針モデル。全3色のラインナップ中、とりわけ意外性を与えるのがグリーンダイアルを備えた本作だ。波模様を施したミラー仕上げのダイアルと、グリーンに着色されたサファイアクリスタルのベゼルが、従来のオシアナスとは異なるエレガンスを放つ。タフソーラー。フル充電時約20カ月(パワーセーブ時)。Tiケース(縦46.5×横41.3mm、厚さ9.2mm)。10気圧防水。16万5000円(税込み)。(問)カシオ計算機お客様相談室 Tel.0120-088925

モーリス・ラクロア「アイコン #tide カモ」

モーリス・ラクロア「アイコン #tide カモ」
廃棄された海洋プラスティックから再生可能な素材を開発する#tideの技術を活用したサステナブルピース。ダイアルにはブランドの本拠地にちなんだジュラ山脈ウェーブのパターンが施され、ストラップのカモフラージュパターンと相まってアクティブな雰囲気を強めている。クォーツ。オーシャンバウンド・プラスティックケース(直径40mm、厚さ11mm)。10気圧防水。世界限定1000本。10万5600円(税込み)。(問)DKSHマーケットエクスパンションサービスジャパン cg.csc1@dksh.com

②ミドルレンジ(50万~100万円台)

 繊細な表現を取り入れ、ブランドの個性も存分に堪能できるのが、コアゾーンとなるミドルレンジ。ダイアルの質感も高く、プライスに見合ったデザインを楽しめる。

オメガ「コンステレーション メテオライト」

オメガ「コンステレーション メテオライト」
基幹コレクションのひとつ「コンステレーション」にメテオライト(隕石)のダイアルを組み合わせた快作。使用されたのは、地球上で知られる最古の隕石とされるムオニオナルスタ隕石で、グリーンのコーティングを施すことで従来のメテオライトダイアルにはない新鮮な表情を見せる。同じものがふたつとない有機的なパターンが、着用者の目を存分に楽しませてくれる。自動巻き(Cal.8900)。30石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.5mm)。5気圧防水。149万6000円(税込み)。(問)オメガ Tel.0570-000087

ゼニス「クロノマスター スポーツ グリーン」

ゼニス「クロノマスター スポーツ グリーン」
世界的に話題となった「クロノマスター スポーツ」のグリーンバージョン。艶のあるセラミックベゼルにトーンをそろえるため、ダイアルはグリーンラッカーで着色。フェイスに統一感が生まれるとともに、3色のインダイアルも存在感を強め、視認性も高まっている。自動巻き(Cal.El Primero 3600)。35石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm)。10気圧防水。149万6000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861

パネライ「ラジオミール カリフォルニア PAM01349」

パネライ「ラジオミール カリフォルニア PAM01349」
ローマ数字、アラビア数字、バーインデックスを組み合わせた、カリフォルニアダイアル初の直径45mmサイズモデル。グラデーショングリーンで彩られた文字盤とダメージ感を施したブルニートeスティール™製のケースとの組み合わせにより、経年変化したかのような味わい深い佇まいに。手巻き(Cal.P.5000)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約8日間。SSケース(直径45mm)。10気圧防水。172万7000円(税込み)。(問)オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110

カール F. ブヘラ「マネロ フライバック グリーン」

カール F. ブヘラ「マネロ フライバック グリーン」
多彩なモデルを擁する「マネロ」の中でも、複雑なフライバッククロノグラフ機構を備えつつ、クラシカルな表情にまとめた本作。ダイアルとストラップを彩る深みのあるグリーンが、エレガントなデザインをより引き立たせている。自動巻き(Cal.CFB1970)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径43mm、厚さ14.45mm)。3気圧防水。117万7000円(税込み)。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」

タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」
サーキュラーサテン仕上げが施されたティールグリーンが目を引く、個性的かつミニマルなモダンデザインのクロノグラフ。ダイアルの鮮やかなカラーリングと金属的な質感が、時計の存在感を一層際立たせる。自動巻き(Cal.TH20-07)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径39mm、厚さ13.9mm)。100m防水。87万4500円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー Tel.03-5635-7030

グランドセイコー「スポーツコレクション SBGE295」

グランドセイコー「スポーツコレクション SBGE295」
GMT機能付きスプリングドライブムーブメントを搭載した本作は、スポーツコレクションらしい力強いフォルムが持ち味。ダイアルには信州・穂高連峰の岩稜を独自のパターンで表現して、表情にアクセントを添えている。自動巻きスプリングドライブ(Cal.9R66)。30石。パワーリザーブ約72時間。SSケース(直径44mm、厚さ14.7mm)。20気圧防水。83万6000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617

ブライトリング「クロノマット オートマチック GMT 40 ヤニス・アデトクンボ」

ブライトリング「クロノマット オートマチック GMT 40 ヤニス・アデトクンボ」
NBAミルウォーキー・バックスに所属するヤニス・アデトクンボとのコラボレーションモデル。チームカラーを思わせるグリーンで彩られているのみならず、秒針には“GA” のイニシャルをかたどったカウンターウェイトを設けるなど、スペシャルなエレメントを施す。自動巻き(Cal.32)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm、厚さ11.77mm)。200m防水。世界限定1750本。79万2000円(税込み)。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707

③ハイレンジ(200万円~)

 高価格帯には、ダイアルのパターンを生かした加工や色選定、外装との調和を考慮したクリエイションを取り入れるなど、繊細で高級感あふれるモデルがそろう。

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック」
ダイアルにあしらわれているのは、スイスのギヨシェ職人ヤン・フォン・ケーネルとの共同開発によって生まれた、従来のコレクションとは異なるモチーフ。上品なグリーンをPVD加工で着色することにより、繊細なモチーフがしっかりと表現されている。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。357万5000円(税込み)。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000

ウブロ「ビッグ・バン ウニコ ダークグリーンセラミック」

ウブロ「ビッグ・バン ウニコ ダークグリーンセラミック」
ケースやストラップと調和するように、肉抜きされたインデックスや針も同色でまとめた、グリーンを堪能できる1本。艶やかで色ムラのないセラミックケースを実現しているのは、素材開発にも注力するウブロならでは。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径42mm、厚さ14.5mm)。10気圧防水。世界限定250本。331万1000円(税込み)。(問)LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055

ジラール・ペルゴ「ロレアート」

ジラール・ペルゴ「ロレアート」
1975年に誕生した初代モデルのデザインを現代的にリファインし、以来、高い支持を獲得し続けている「ロレアート」。本作はダイアルに色鮮やかなグリーンを採用したことで、コレクションの特徴でもあるクル・ド・パリの繊細な装飾が、より鮮明に浮かび上がっている。自動巻き(Cal.GP01800)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約54時間。SSケース(直径42mm、厚さ10.68mm)。100m防水。201万3000円(税込み)。(問)ソーウインド ジャパン Tel.03-5211-1791


視点を変えたらもっと楽しい! 時計の色選びをキングセイコーで実践

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オシアナス マンタ最新作「OCW-S400」を着用レビュー! 価格以上の価値を提供してくれた1本

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【83点】タグ・ホイヤー/タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ

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