ルイ・エラール レギュレーターというキャンバス

2024.12.19

レギュレーターという、ただそれだけでキャラクターの強い表示機構を採用し、新たな価値を与えるという独自のブランディングを成功させてきたルイ・エラール。このブランドが描くのは、高い品質と手の届きやすい価格を両立させた「製品の在り方」だ。

吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
鶴岡智恵子(クロノス日本版):文 Text by Chieko Tsuruoka(Chronos Japan)
Edited by Yousuke Ohashi(Chronos Japan)


作品ごとに異なる個性を備えたルイ・エラールの腕時計

レギュレーター ルイ・エラール × KUDOKE

レギュレーター ルイ・エラール × KUDOKE
ドイツ人の独立時計師、ステファン・クドケ(下)とのコラボレーションウォッチは、計4種での展開となる。写真は、マザー・オブ・パール文字盤を備えたモデルだ。KUDOKEの「インフィニティ ハンド」と、ルイ・エラールのレギュレーター表示は、共通して「無限大」という禅の世界観を感じさせる。自動巻き(Cal.SW266-1)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径42mm、厚さ12.25mm)。5気圧防水。世界限定78本。99万5500円(税込み)。

 ルイ・エラールは、レギュレーター表示を備えたモデルを多数製作するという、独自の戦略を持つマイクロブランドだ。

 レギュレーターは、それだけで時計の個性となる表示機構である。同ブランドはこの機構に「他ブランドとのコラボレーション」によって「レギュレーターであること」以上の価値を与えている。

 ルイ・エラールのコラボレーションモデルは、2024年発表作だけを見ても、創意にあふれている。独立時計師のセドリック・ジョナーと共同製作したモデルは、ジョナーを代表する「アビス」のアイコニックな意匠も、ジョナー自身の仕事も楽しめる。特にジョナーが、ペルロワールという宝飾用の工具を使って手ずから彫金した、230個のビーズ模様の装飾を持つローターは必見だ。

レギュレーター ルイ・エラール × セドリックジョナー モーヴ

レギュレーター ルイ・エラール × セドリックジョナー モーヴ
時計師であり、ジュエラーでもあるセドリック・ジョナー(下左)とコラボレーションして誕生したモデル。彼の代表作である「アビス」に範を取った、六角形の文字盤やコンケーブ型のインダイアル、そして彼が手ずから彫金したビーズ模様の装飾を備えたローター(下右)が特徴的だ。コラボレーション相手の“仕事”を尊重するルイ・エラールらしい仕様と言える。ブルーとモーヴカラーの2種類がラインナップされる。自動巻き(Cal.SW266-1)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径39mm)。5気圧防水。世界限定178本。89万1000円(税込み)。

セドリック・ジョナー

 ドイツの独立時計師であるステファン・クドケとのコラボレーションでは、クドケの「インフィニティ ハンド」を時針に採用。この作品には、ドイツと禅の世界観が取り入れられたという。24年11月には、ヴィアネイ・ハルターとのコラボレーションモデルも発表されている。

 ルイ・エラールは巧みにコラボレーション相手の「色」を自身に融合させているため、同じレギュレーター表示であるにもかかわらず、それぞれが強い個性を放っているのだ。

レギュレーター ルイ・エラール × ヴィアネイ ハルター II

レギュレーター ルイ・エラール × ヴィアネイ ハルター II
独立時計師のヴィアネイ・ハルター(下)との、コラボレーション第2弾となるモデル。ハルターの代表作に見られるビスを、ベゼルに12個、リュウズに24個あしらっている。また、「Vianney HALTER 」のロゴに合わせて、「LouisERARD」のロゴプレートのフォントを、以前使用していたセリフ体としている。EC限定販売モデルも同時にリリースされた。自動巻き( Cal.SW266-1 )。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径43mm、厚さ10.95mm)。5気圧防水。世界限定178本。109万4500円(税込み)。

 通常コレクションのレギュレーターモデルでも、強い個性が感じられる。奇をてらうのではなく、各モデルのコンセプトに合った意匠を与え、それをかなえるために、手間の掛かる製法を取り入れたものだ。ふたつの2024年発表モデルが、その好例である。

「レギュレーター グラン・フー エナメル」は、ドンツェ・カドランによるグラン・フー エナメル文字盤が備えられている。このエナメルは、「大きな炎」という意味の名の通り、摂氏800度以上の高温焼成によって金属板に釉薬を焼き付ける技法だ。面を平滑にするために、釉薬は通常、5~7層塗り付けられる。また、焼成後はヤスリで表面が磨かれる。本作は、インデックスにも2色のエナメルが施された。釉薬は焼成時間や温度、あるいは釉薬の厚さによって色合いが変化してしまうため、この技法には厳しい品質管理体制が求められる。

レギュレーター グラン・フー エナメル

レギュレーター グラン・フー エナメル
新生コレクション「ノワールモン メティエダール」に組み込まれた、ドンツェ・カドラン製のグラン・フー エナメル文字盤を備えたモデル。(右)専用の窯で、800℃以上の高温で焼成することで、釉薬を文字盤に焼き付けている。青焼きされた針とともに、伝統的な時計製造技法が投入された作品だ。自動巻き(Cal.SW266-1)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径39mm、厚さ12.82mm)。5気圧防水。世界限定99本。99万5500円(税込み)。

「レギュレーター グラヴェ・ノワール」は、文字盤にユニークな、そして手間の掛かった手法を採用している。文字盤上の描線やインデックスは、エングレービングされた後に、ローズゴールドが流し込まれているのだ。ガルバニック処理が施された、粗い梨地模様を持つブラック文字盤が、ローズゴールドの控えめな輝きを際立たせている。文字盤のみならず、丁寧に作られたことが分かる針やインデックスによって、ルイ・エラールの各モデルからは個性、そして特別感が感じられるのだ。

マニュエル・エムシュ

マニュエル・エムシュ
ルイ・エラールCEO。1972年、スイス生まれ。29歳でスウォッチ グループ最年少のブランド社長に就任し、ジャケ・ドロー在籍期間中、同ブランドの売上高を約40倍に成長させたことで知られている。2019年にルイ・エラールの社外アドバイザーとなり、2020年CEOに就任した。コラボレーション相手は知人や友人など、個人的なつながりから実現しているという。

 同じレギュレーターモデルであっても、各モデルがそれぞれの価値を持つ、ルイ・エラールの腕時計。この価値は、良心的な価格設定を実現しようとするルイ・エラールの姿勢とともに守られていることを最後に記したい。手間が掛かればその分、製品価格は高くなる。しかし同ブランドは、高い品質と「手の届きやすい価格」を両立させるための企業努力によって、その両方を実現させることに成功した。「手の届きやすい高品質かつ独創的なレギュレーターウォッチ」というキャラクターは、価格が高騰する高級時計市場において、時計愛好家に新風を吹き込んでいる。

レギュレーター グラヴェ・ノワール

レギュレーター グラヴェ・ノワール
2024年末、コレクションを再編したルイ・エラール。その第1弾として発表されたモデルである。1930年代の時計に見られたセクターダイアルをブランドとして初めて意匠に取り入れており、この意匠を作り上げる描線やインデックスは、文字盤にエングレービングを施した後、ローズゴールドを流し込んでいる。自動巻き( Cal.SW266-1)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(直径39mm、厚さ12.82mm)。5気圧防水。65万9450円(税込み)。

ルイ・エラールについて、理解を深めよう!

ルイ・エラールについて理解を深めたければ、下記のリンクから公式ホームページを訪れよう。製品情報のほか、ブランドの沿革や最新ニュース、取扱店についての情報を確認することができる。

ルイ・エラール 公式ホームページ
https://josawa-watch.com/louis_erard.html



Contact info:大沢商会 Tel.03-3527-2682


ルイ・エラールの新作「レギュレーター グラヴェ・ノワール」は、ブランドの美点があふれたモデルだ!

NEWS

時計にも、作り手にも注目したい! ルイ・エラール×KUDOKEのコラボモデル【ジュネーブ・ウォッチ・デイズ2024】

FEATURES

ルイ・エラール 同一フォーマットを差別化する巧みな手腕

FEATURES